第8話


振り返ると、男がいた。


気だるげな黒い髪に、鋭い視線。

整った、見た目だけだと20代後半くらいに見える──後で知ったがこの時すでに50代前後だった──男だった。


後ろに人を侍らせて、その人物は立っている。


彼が、ルナ最高司令官木田誠だった。

その時の僕には知るよしもなかったけど。


木田は僕の後ろにいる3人──気絶している朝倉組の残党にチラリと視線を向けてから、僕にそれを戻した。



「テレビでも街でも騒ぎになってただろ。

なんで突っ込んで行った」



どうやら全部見られていたらしい。

助けに入らなかったのは、僕が死んでもこの人たちは痛くも痒くもないからだ。


そしてその質問に、僕は答えない。



「そんなことどうでもいいんだけどさ」


「…は?」


「僕を君たちの組織に入れてよ。

戦闘向きの方希望!事務作業は絶対無理」


「…………は?」



木田は表情を険しくさせた後、僕の容姿を一瞥いちべつした。


ボロボロで汚れ、穴の空いた服。

バサバサの髪。

そしてすすけている顔。


顔には今までの喧嘩のせいでこびりついた血もついていただろう。



それを見て、はぁ、と木田はため息をついた。



「……お前家と親は」


「一応あるけどネグレクト。

それに僕はあの家に魅力を感じないね。

親なんて殴ったところでビービー泣いて騒ぐだけじゃん。

それよりさ、僕を仲間にしてよ。

僕みたいなの、肉壁によくない?」


「肉壁って…。自分で言うのか」



はぁ、とまたため息をついて、木田は僕に視線を合わせるようにしゃがんだ。


僕もその顔から視線を逸らさない。

きっと僕の目は今、爛々らんらんと輝いている。



「…第二部隊、本部で遊んでやれ」


「いいんですか」


「何回か転がしゃ諦めんだろ」


「わかりました」



木田の後ろにいた人物たちは、第二部隊だったらしい。

今も昔も最強の、第二部隊。


やっぱり僕はその時そんなことも知らなかったけど。


でも、僕の相手をしてくれるって。


ルナの、

戦闘特化型組織の、

一つの隊が。



胸がいっぱいになった。




僕を連れて木田は本部まで車に乗った。

終始無言だったが、胸がワクワクで止まらない僕はそんなのどうでもよかった。




そうして僕は遊んでもらったのだ。

第二部隊の人"たち"に。






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