第3話
カロイアス夫妻と別れた後、2人は早速屋敷内にある源泉を引いている湯殿へと入ることにした。
「まあ、警備上仕方ないとは言え、景色が見れないのはやはり味気ないな」
「でも、屋敷内にまで引いているのは凄いですよ。王宮内じゃ無理ですし」
ドレスを脱いでウィッグを外せば、ティルスディアでは無く、サファルティアとしての時間だ。
「サフィ」
「何でしょう」
シャーロットが不満そうにサファルティアを呼ぶ。
「もっと近くに来い」
「嫌です」
基本的には湯浴みまで済ませてシャーロットを待っていることが多いせいか、こうして一緒に湯浴みするなど何年ぶりだろうか。
それこそ幼い頃以来ではないだろうか。
いや、もしかしたら初めてかもしれない……。と思うと何となく気恥ずかしくて、サファルティアはシャーロットと距離を置いたのだが、シャーロットは当然面白くない。
いくら広い湯殿と言っても、人ひとり分の間がある。これでは混浴を希望した意味がない。
互いの裸なんて見慣れているはずなのに、落ち着かないのはいつもと場所や雰囲気が違うせいだろう。
シャーロットは小さくため息を吐くと、サファルティアを無理やり引き寄せる。
「ちょ、何するんですか!」
すっぽりと腕の中に納まったサファルティアが、シャーロットを睨む。
だが、湯に浸かっているせいかサファルティアの瞳はどことなく潤んでいるように見えて、大変そそられる。
「いや、誘われているのかと」
「そんなわけないでしょう! ……って、ちょ、本当にどこ触ってっ……ひっ!」
腰のラインを指先でなぞられ、尻にたどり着くとサファルティアが面白いくらいに反応する。
シャーロットは柔らかいけれど硬さのあるサファルティアの尻の感触を楽しみながら、「男の尻だな」などと変な感想を内心呟きつつも、尻の割れ目に指を這わせる。
「やっ、本当に、怒りますよ」
「だが、期待はしているだろう?」
言葉では嫌だといいながらも、抵抗らしい抵抗はしない。
この後のことはサファルティアも想定していただろうが、まさか湯舟の中で悪戯されるとは想定外だった。
サファルティアは顔を真っ赤にしながらシャーロットにお湯をぶっかける。
「うわっ! サフィ! なにすっ……」
「陛下が変なことを言うからですよ!」
遠慮のないじゃれあいは、兄弟として育ち、互いに信頼関係があるからだ。
シャーロットからすればサファルティアの抵抗など、子猫の威嚇と変わらないのだが、本人が気にするので敢えて伝えはしない。
それでも恥ずかしがるサファルティアを見るのは面白くて、可愛くて、つい意地の悪いことをしたくなる。
「変なこと、か。その割にはこちらは素直なようだが?」
サファルティアの腕を掴んで引き寄せ、耳元で囁きながらサファルティア自身に触れる。
「んっ……」
期待していないといえば嘘になる。
しかし、この風呂は存外声が響くのだ。女性であるはずのティルスディアの声でなく、男の声がしたとなれば、捕まるのはサファルティアだ。
もちろん、シャーロットは庇うだろうし、王弟である以上滅多な事にはならないだろう。
口元を抑えたサファルティアの、期待と羞恥の混ざった表情は、シャーロットをその気にさせるのに十分だった。
「……シャーリー、当たってます」
「愛するサフィがこんなに近くにいて、そんな表情をしていれば当たり前だろう」
しれっと答えるシャーロットに、サファルティアは「どんな表情ですか……」と、呆れたように返す。
しかし、好きな人に求められるのはやはり嬉しい。
「……ベッドでしたら」
サファルティアとて、シャーロットに触れたい。
だが、温泉も楽しみたい。そんな葛藤がありありと分かり、シャーロットは苦笑する。
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