第13話 ギルドへ
アニスを連れ立ってスピカ荘を出て、ギルドに向かう。
一方、アニスはすこぶる元気だ。跳ねるようにスキップをしながらシエルの数歩先を歩いては振り向き、歩いては振り向きをもう何度も繰り返している。その様子はさながら、お出掛けにはしゃぐ五歳児か久しぶりの散歩に喜ぶ犬だ。
「そう何度も振り返らなくても、俺は逃げないよ」
シエルは少しうっとうしそうに言う。しかしその言葉端や視線には、アニスが転びはしないかという心配が隠れている。そのシエルが持つ心配の気持ちを知ってか知らずか、アニスはシエルのその言葉に振り返った。
「う、うるさいわね。分かってるわよ、そんなこと」
アニスは少し顔を赤くして、すぐにシエルに背を向けた。
「は、早く来ないと、置いてくわよ!」
言うが早いか、アニスは早足で歩いて行ってしまった。その様子にため息をつくシエル。
「元気だな……」
三年間引きこもって生きてきたシエルには眩しいほどの。
シエルはアニスを見失わないように、小走りしてアニスのことを追いかけ始めた。
十分もしないうちにギルド本部──正確には迷宮都市ラプラス ダンジョン冒険者管理ギルド本部、という大変長い名称があるのだが冒険者は皆めんどくさがってギルド本部、あるいはギルドと略す──へ着いた。
ギルドは迷宮都市ラプラスでも指折りの大きさの建物である。石造りの質実剛健な作りで地上三階建て。地下にはダンジョンの資料が数多く収められている。
このギルド本部はダンジョンからは大通りを二つ挟んだ先にある。これは、もしもダンジョンからモンスターがあふれてきても、作戦会議に使えるようになっているためだ。ギルドはダンジョンの前にも、ギルド出張所として本部ほどではないにしろそれなりの大きさの建物を構えている。
そんな建物の前でアニスはシエルに向かって大きく手を振っている。それに応えるように手を上げるシエル。それを受けてアニスの手がさらに激しく振られる。
「あいつは、犬か」
無意識に、シエルの顔に笑みがこぼれる。
シエルとアニス、ふたりはギルドへ入っていった。
ギルドの中は外から見たイメージとあまり変わらない。石造りの壁、木製のテーブル、木製のイス。しかしそこに、騒がしい冒険者たちが加わる。
ギルドの一階は酒場も兼ねているため、特に騒がしかった。シエルは顔を隠すようにローブを被る。早く酒場地帯を抜けてしまおうと、自然、足が早足になる。
そんな中、アニスの前に影が立つ。思わず、見上げてしまうアニス。
「おいおい、昨日『青の結束』の恥さらしの話を聞きに来た嬢ちゃんじゃねえか」
「引きこもりのシエル姫には会えたんですかぁ。ギャハハ!!」
刈り上げの男冒険者二人組がアニスに話しかける。しかしそれは、会話というよりも絡んでいるという表現の方が適切な話しかけ方だった。酒の香りをさせている酔っ払いだ。片手には木でできたコップが握られている。
どうやら昨日からアニスに目をつけていたらしい。そのふざけた物腰は新人冒険者を吊るし上げるタイプのチンピラ冒険者であることは明白だった。
「なによ、シエルには会えたし、ダンジョンでわたしのことを助けてくれたわよ!」
アニスがシエルをかばうような発言をする。そのアニスの発言にチンピラ冒険者はさらに挑発どころかシエルに対する悪口を積み重ねていく。
「ハッ、あいつがそんなタマかよ。嬢ちゃんにも会わずに、引きこもりらしくガタガタ震えてたんじゃねぇの?」
「守ってもらわないと役に立たない
下品な笑い声とともに、増えていく悪口。アニスはその言葉にいちいち反論をしていく。
ヒートアップしていく口論。シエルは思わず、逃げるようにギルドの壁の方に寄っていく。悪口を聞くことはあまりいい気分になれない。それでも、自分の悪口ならまだマシなほうだ。
「しかし、あいつだけ生き残らせた『青の結束』の判断力も最悪だよな」
「ほんと、無能だけ生き残らせて何やってんだ、って感じ」
他の男冒険者たちがぽつりと漏らした言葉に、シエルの身体はビクつく。
シエルにとって最も心が沈むのは、かつてのパーティーメンバーに対する悪口だ。特に、彼らが
「まったくだ。
「ホント、ホント。リーダーのケイとかイケメンだったしさぁ」
「オレ、ミーシャちゃんの生足もっと拝みたかったー」
ワイワイ、ガヤガヤ、クスクス、アハハ。
気が付けば、音のすべてが、シエルを責め立てているような気分になった。逃げ出したい。心の底からシエルはそう思う。壁のそばで顔を隠すローブを握りしめながら、シエルは顔を隠して立ちつくしていた。
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