6件目 世間とは狭いものだ。
「ここにくるのは初めてだなぁ。それに、今日はお姉さんの荷物はないし、なんか慣れないなー」
今まで来たことのないアパートの中。
かなり重たい荷物をなんとか抱えながら、伝票に書かれた部屋を探してインターホンを押す。
「すみませーん、お届け物でーす」
「はいはーい」
明るく、元気な感じに部屋から出てきたのは、いつも配達に行っているお姉さんとは真逆の雰囲気の人だった。
少し焼けた肌と凹凸の少ない体つき。そして、短めな髪からして、あの人とは違うアウトドア派のような雰囲気を出している。
「この荷物、重たいですけれどどうしますか?中に運んだほうがいいですかね?」
「あっ、そうしてくれると助かるよ」
「了解っす!」
俺は、女性に案内されるがままに部屋に入って、その荷物を指定された場所に置いた。
「これで大丈夫ですかね?」
「うん。女一人だとそんな重たそうなの持てないからねー。ありがとう」
「いえいえ、仕事ですので」
「そう言ってくれるとありがたいよ」
「それでは、失礼しますね」
「ちょっと待って!」
部屋を出ようとすると、彼女は『お茶だけでも飲んでいってよ』と、俺の腕を掴んで引き止めた。
「最近暑いからね。君が熱中症にでもなったら心配だから」
「はぁ。わざわざありがとうございます」
ソファに座らされた俺は、渡されたキンキンに冷えた麦茶を一口で全部飲み切った。
お姉さんといい、この人といい、この世界は意外と優しい人で溢れかえっているな……。
飲み干したコップを見て優しく微笑む彼女と目があって、少しドキッとしてしまった。
「それ、テーブルの上に置きっぱなしにしていってくれていいよ。君も忙しいだろうし」
「すみません、何から何まで……」
「いいんだって。これはほんのお礼だよ」
「そうですか。それじゃあ今度こそ失礼しますね」
「うん」
膝に手を当てて立ち上がり、軽く頭を下げた。
そして、微笑みながら手を振ってくれている彼女に見送られて部屋を出て行くつもりだったのだが——
「——あっ!」
テーブルの脚に引っかかり、体勢を崩してしまい、そのまま倒れてしまった。
「いててて…。すみません、大丈夫ですか!?」
「うん、ウチは大丈夫だけれども、その、君の手が…」
そう言われ、自分の手と彼女の姿を再確認した。これって、押し倒してるって言われるやつじゃないのか…⁉︎
「ウチの、小さいやろ……?」
顔を隠すように口に手を添え、頬を赤く染めて甘い声を出す。
めくれたシャツから見える腹部はとても細く、綺麗なラインをしていて、胸も控えめな膨らみがあり、何もないというわけでもない。
これが……女の人の……。
心臓の鼓動がだんだん速くなるのが分かる。
早く退けないといけないのに、なぜか体が言うことを聞かない。何も考えられない。
そんなことをしていると、奥の扉が開く音が耳に届くとともに、誰かが中に入って来た。
「
その人が手に持っていたぱんぱんのビニール袋を床に落とした音が俺の意識を解放し、現実に引き戻させた。
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