第38話 共振する魔力
マドンナ率いる魔物の軍団と、ノックス城を守るドワーフの軍団はにらみ合ったまま既に半月がが過ぎようとしていた。
膠着状態だった戦線に変化があったのはちょうど20日目のことである。
大支族長グルジ殿率いるドワーフの兵がモーガル川を渡った。約8000の援軍である。
「遅いべ!」
と、マリータ殿はグルジ殿を一喝した。
「いやぁー、申す訳ござらん。兵の支度さ手間取りますてのう。ようやぐはせ参ずるごどがでぎ申すた。」
グルジ殿はしらじらしい言い訳を繰り返した。
グルジ殿の言葉によれば、同じく大支族長のガルード殿とジュード殿が率いる後続部隊がノックスへ向かって進軍しているという。
国境線に到着したドワーフの軍団は次々にモーガル川を越える。
ノックス城の兵力は日に日に増強されっていった。
私とマリータ殿は、ノックス城の城壁から渡河するドワーフの兵を見下ろしていた。
マリータ殿は嘲笑した。
「グルジ殿は勝馬さ乗ろうとしでる。我らがノックス落どしたど聞いで、このままゴーレアさ留まれば臆病者の
「マリータ殿、怒るな。これで兵数においてこちらが有利になった。」
「ドワーフの精鋭は既に義勇兵どなり魔物を蹴散らしてる。グルジ殿が率いでぎだのはその残りカスだべ。」
「数合わせかもしれないが、枯れ木も山の賑わいだ。マドンナも慌てているはずだ。」
「いや、慌ててなどおらんべ。マドンナも必死だ。先生、あの地平線の向こうを見るべ…」
マリータ殿は西の地平線を指さした。
地平線の向こうからゴブリンの大軍が現れたのだ。その数は一万を下らない。
マドンナもゴブリンの増援を呼んだということだ。
「ゴブリンの増援か。マドンナはドワーフとの全面戦争をやるつもりなのかな?」
「先生、全面戦争になれば勝てるべか?」
「勝てずとも、負けない戦いはできる。しかしだ、双方が激しい損害をこうむり、兵力の消耗はおびただしいだろう。」
「んだ、我らドワーフの精鋭が死に物狂いで戦えば、ゴブリンの半分は道連れにでぎるべ。」
「幸村君の概算では、イースタリアのゴブリン兵は20万だ。ここで兵力を失うのはマドンナにとっても痛いはずだ。」
「なるほど、奴らの狙いは王家だ。王家ど戦う前さ兵力失うのは確がに痛えはずだべ。」
「王家はグランローゼ一年戦争で勢力を失った。だが、時間がたてば国力も回復し、兵力も増強される。マドンナはそうなる前に王家と一戦したいのさ。」
「だが、衰えたとはいえ王家だべ。中途半端な兵力で勝つことはできねぇ。」
「だからこそ、マドンナはノーザン・テリトリーの魔物が是が非でも欲しい。だが、戦局がこうなった以上、ノーザン・テリトリー侵攻はドワーフとの全面戦争になる。」
「先生は王家の使者だべ。王家からすればドワーフがどれほど傷つこうが、魔族の戦力ダウンは喜ばしいことのはずだべ。」
「その通りなのだが、戦いは時の運だ。ドワーフが劣勢となり、魔族のノーザン・テリトリー侵攻を許してしまった場合、マドンナはノーザン・テリトリーの魔物たちを得ることになる。つまり、魔族の兵力は増強される。」
「一か八かの決断だべな。もしも先生がマドンナだったらどうするべ?」
「私なら躊躇なくノーザン・テリトリーに攻め込む。ノーザン・テリトリーのダンジョンに眠る40万の魔物を兵力にすることを優先する。兵力差とリスクを計算すれば、そのほうが勝てる確率が高い。王家は後回しでいい。」
「ならばマドンナは何故そうしないべ?」
「それが分かれば苦労はしないよ。マドンナは迷っている。あの増援のゴブリンたちを見ろ! ワイズ・ゴブリンやキング・ゴブリンはいない。ただの数合わせのハッタリだ。」
「マドンナの事情もこぢらど同じが。兵の数だげ増やしても勝でるわげではねえ。」
「マリータ殿、さっき何と言った?」
「敵も味方も、カスのような兵力ばかりが増えていると言ったべ。」
「そうではない、その前だ!」
「その前? マドンナは何故ノースタリアを攻めないだべか、と…」
「そうだ…、何故マドンナは迷っている? 何故、王家にこだわる?」
「案外、個人的な事情かも知れなねぇ。」
「個人的な事情か。マリータ殿は何だと思う?」
「私はマドンナに会ったこともないべ。分かるはずがねぇ。」
「そうだな、マリータ殿に分かるはずもない…」
-----ギュィィィィィィィィィィィィーン
その時、ノックス山の麓から、炎の剣が発射された。地上から天に突き刺さるように炎が空を焦がした。
幸村君がマドンナの兵にに対して行った示威行動である。
こちらの魔力の強大さを示して、敵の戦意を挫く作戦なのだ。
「幸村殿だべか! 何という強力な魔法だべ!」
マリータ殿が驚愕している。
グランローゼ城攻略戦の時、私が見た幸村君の炎の剣は、いま私が目撃しているそれの半分の威力もなかったはずだ。
ノーザン・テリトリーに来てから、幸村君の魔法はより強力になっている。
大イノシシを一刀のもとに両断し、ノックス城の塔を一撃で破壊した。
先日の戦いでは火の玉となって宙に飛び、炎の剣はオークを焼き尽くしている。
私の魔力も幸村君ほどでなくとも強くなっているのを感じる。
魔族ザクスの首を一撃で跳ね飛ばした感触は、研ぎ澄まされた刃のようだった。
エルキス殿の経験によれば、魔族の体は強化魔法で守られているという。強化されたはずの魔族の身体を、風の剣はものともせず切り裂いたのだ。
幸村君の炎の柱を見ようと、エルキス殿が城壁へ登ってきた。
「盛大な魔法じゃのう!」
エルキス殿は感嘆している。
エルキス殿は魔導士、つまりは魔法の専門家だ。
私はエルキス殿に教えを乞うことにした。
「エルキス殿、このところ幸村君の魔法がどんどん強力になっている。私の魔力も強くなっているのを感じる。何か原因があるのだろうか?」
「それはのう、先生と幸村殿の魔力が共振しているのじゃよ。」
「共振によって魔力は強くなるのか?」
「さよう、おぬしらの属性は風と火じゃ。合体魔法バック・ドラフトでも分かるように風は火を強化するのじゃよ。逆にじゃ、火と水の場合はお互いを打ち消し合うように共振する。これは属性の相性のようなものじゃ。」
「エルキス殿、明快な回答だ。よくわかった。私と幸村君の魔力は無意識に共振している。これを意識的にやって威力を増すことは出来るか?」
「できるよ。お主らならばな。なかなかの名コンビじゃて。」
名コンビか…、言われてみればその通りだ。
グランローゼ城の攻略戦、幸村君が馬上から手を差し出し、私はその手をつかんだ。敵と味方だったはずが共に戦うことになった。
あの時から、異世界の歴史が動き出したのだ。
そして、風と火の魔力が共振を始めた。
この共振は戦線の膠着を打破する力を秘めている。
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