第29話 神殿の街ゴーレア

 私たちはドワーフの族長会議に参加するため、神殿都市ゴーレアへ向かう。

 雪深いノーザン・テリトリーにおいて、冬の移動手段はである。

 犬ぞりは操縦者と同乗者の二人乗りが基本なのだ。


 「飛ばすなりよ!」


 幸村君はのスピードを上げた。


 先行して飛ばしているのは幸村君の操縦する犬ぞりだ。同乗者はエルキス殿。

 ヴァン殿はタリス殿が操縦するそりに同乗している。二人とも楽し気に笑っている。昔話に花を咲かせながら走っているのだろう。

 私はユリス君のに乗せてもらった。

 

 「ユリス君、ノーザン・テリトリーはいいところだな。」


 「はい、僕たち獣人やドワーフにとっては天国です。」

 

 「食い物が旨いな。」


 「はい、美味しいものがたくさんあります。」


 「美しい土地だ。」


 「はい、なかでも雪景色は最高です。」


 ノーザン・テリトリーの大部分は照葉樹の暗い森に覆われていている。

 森の中にはドワーフや獣人たちが通る道が縦横に走っていた。

 犬ぞりは雪の上を軽快に滑っていく。


 「ノーザン・テリトリーには君たちのような獣人もたくさん住んでいるかね?」


 「数は少ないですが、5種族ほどが住んでます。」


 「ほう、5種族か。」


 「ええ、僕たちウォルフ族、猫人のミャウ族、鳥人のバド族、熊人のベア族、それからキツネ人のフォクス族ですね。」


 「君たち獣人にとっては農耕民族の人族よりも、狩猟採取民族のドワーフの土地のほうが住みやすいのかな?」


 「それもありますが、魔王支配の時代にノーザン・テリトリーに移住してきたって聞いてます。」


 なるほど、魔王支配の時代、獣人たちは難民だったのかもしれない。

 魔王の支配を嫌って、この土地に逃がれてきたのだ。



 「ノーザン・テリトリーはドワーフと獣人の土地なんだな。」


 「いえ、ここはドワーフの国です。」


 「ドワーフの国? ノーザン・テリトリーは国なのかね?」


 私の問いかけにユリス君がうろたえた。


 「すいません。今のは聞かなったことにしてくいださい。」


 そういうことか。

 ユリス君が口を滑らせたのは、ドワーフたちが密かにノーザン・テリトリーを自分たちの国と呼んでいるということだ。

 ノーザン・テリトリーは年に一度、王家に対して貢物をしていると聞いたことがる。それにヴァン殿のような傭兵を送ってきている。

 王家にとってノーザン・テリトリーはアマテラーザの一部であり、ドワーフは臣下だという建前がなりたつ。

 一方、作物が採れない北の地は、人族のような農耕民族にとって価値が低い。価値が低いゆえに、半ば独立して自治を行うことが黙認されている。

 まぁ、当たらずとも遠からじ、だろう。


  

 ユリス君が犬ぞりのブレーキを踏んだ。

 私の体が大きく揺れた。


 「どうした?」


 「ベア族です。」


 前方では幸村君の犬ぞりが止まっていて、大男が道をふさいでいる。

 そりを引いていた犬たちが大男に向かって吠えている。

 確かに熊の獣人だ。


 「ベア族の族長クリマ殿です。」


 と、ユリス君が教えてくれた。



 「そなたたち、何物だ。返答によってはこの道をとおることあたわず!」


 クリマ殿はドスの効いた声で私たちを恫喝しているようだ。


 幸村君は動じる様子もなく名乗りをあげた。


 「我が名は真田幸村なり!」


 これにはクリマ殿のほうがたまげたようだ。


 「真田幸村殿か!! 昨日、大イノシシを一撃で倒した御仁ごじんか!!」


 「いかにもなり。大イノシシを倒したのはこの真田幸村なり。」


 昨日の一件が、もう森の奥にまで伝わっている。

 森の中の道は情報の伝達経路でもある。


 「それを証明できるか?」


 幸村君はニヤリと笑って詠唱した。


 <<りん! ぴょう! とう! しゃ! かい! じん! れつ! ざい! ぜん!>>


 -----ギュイーンンン!


 炎の剣が空を焦がさんばかりの勢いで発射された。


 「おおー!」


 クリマ殿は大きく口を開けたまま炎の剣を見上げている。


 「これはご無礼いたした。幸村殿、ここをお通しいたす。」


 大男のクリマ殿が幸村君の前に膝を折った。

 森の中からベア族の大男たちが次々に姿を現した。


 「あの人族が大イノシシを…」

 「真田幸村殿だ…」

 「恐ろしい人間だと思っていたが、ちっこいな…」


 ベア族の男たちは口々にささやき合っている。

 

 そして、彼らもまた幸村君の前にひざまずいたのだ。


 ベア族の大男たちは拳を前に突き出したポーズをとって道の両脇に並んだ。

 これが彼らの最敬礼だ。

 私たちは最敬礼に送られながら、再び犬ぞりを走らせた。


 「ベア族は見た目とは違って優しいんだな。」


 「はい、見た目はコワモテですが、気が弱いんです。だから警戒心も高いのです。」


 気は優しくて、力持ち、か。




 しばらくすると、森の上空を鳥人たちが飛行しているのが見えた。

 

 「バド族か?」


 「はい、そのようです。」

 

 「あれは敵対的な行動かね?」


 「いえ、むしろ歓迎しているようです。」


 ほう、さっきの炎の剣を見て、真田幸村を一目見ようとやってきたのか。


 「はい。おそらくそうです。バド族は強き者を好みます。」



 先頭を飛んでいた鳥人が高度を下げて森の中に降りてきた。照葉樹の梢を縫うようにして私たちの頭上をかすめた。


 「あれはバド族の族長ホーク殿です。」


 族長様自らお出迎えだな。



 「真田幸村殿とお見受けした! 我らが先導つかまつる!」


 ホーク殿が空から叫ぶと、幸村君が答えた。


 「かたじけないなり! 鳥の人!」


 真田幸村の武勇は獣人たちの心をつかんだようだ。

 


 バド族の先導で森を抜ける。

 そこのは平地が広がっていた。山に囲まれた盆地である。

 地平線の向こうに巨大な木造の建物が見える。

 あれが、ドワーフたちの神々を祀るゴーレア神殿だ。

 神殿の周囲にはドワーフたちの街があり、街は高い城壁に囲まれている。


 私たちが城壁に到達するのを確かめてから、鳥人たちは空のかなたへ飛び去って行った。



 ***


 城壁の門は厳重に守られており、私たちが到着すると門番たちが駆け寄ってきた。

 私たちのような人族は警戒の対象らしい。


 「我らは王家よりの使者、族長会議に出席するために参った。門を通されよ!」


 私は大きな声で言った。


 「王家の使者が何用だ! 王家だと、偉そうにしやがって…」


 どうやら、ああまり歓迎されてないみたいだ。


 ヴァン殿が立ち上がった。

 そして門番を一喝したのだ。


 「この方々は、おばば様の客人ぞ!」

 

 「おばば様の客人だと…」

 

 門番たちは顔を見合わせている。

 そして私たちに向き直って、ぺこりと頭を下げた。


 「これはこれは、おばば様の客人殿とはつゆ知らず、失礼申し上げた。」


 「通るぞ!」


 と言って、ヴァン殿は門内へスタスタと歩き出し、私たちも後に続いた。


 「ここでは女王様よりおばば様のほうが偉いみたいなりね。」


 と、幸村君が愉快そうに笑った。



 ここはゴーレア神殿の門前町と言っていいだろう。

 ノーザン・テリトリーの中心に位置するドワーフの国の実質的な首都である。

 ここにドワーフ12支族のおさたちが集まってくる。

 




 






 

 

 


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