第22話 魔物の群れ
「魔王殿、ガストン様が討たれ申した。」
そう言って、オルス卿は気を失った。
私たちはオルス卿をエルキス殿の
「エルキス殿! 治癒魔法をたのむ。」
「これは魔導士ではないか。何があったのじゃ。」
エルキス殿はささやくように呪文を唱え、オルス卿の体に掌をかざした。
光の粒子がオルス卿を包み、傷口がみるみる塞がっていく。
しばらくしてオルス卿は目を覚ました。
「オルス卿、何があった?」
「アーレス・トクーガ殿、ご謀反!」
「なんだと、謀反だと。」
アーレス・トクーガはドメルグの長男である。
当然、嫡男として大公家を継ぐと思われていたが、
なぜ廃嫡になったのか、私は知らない。
ドメルグ殿に聞いたことはあるが、ごまかすような口調で答えなかった。
「アーレス様は魔物を率いておりました。魔物たちがガストン様の行列を襲い、我らも応戦しましたが多勢に無勢、ガストン様はお討ち死に…」
オルス卿の悲痛な声だった。
「なんということだ。これではせっかくの和平が
「悔しゅうございます!」
「しかし魔物を使役できるのは魔族の暗黒魔法だけだと聞いている。アーレスは暗黒魔法が使えるのか?」
「魔王殿、その質問に答えるには大公家の恥をお話しせねばなりません。」
「大公家の恥だと!」
「アーレス様は幼少より武芸にも学問にも優れ、将来を嘱望されておりました。特に魔術において才能を発揮され、このわたくしが指導を行っていたほどでございます。」
「人族がエルフの魔導士から魔法を習うというのは異例のことだな。」
「はい。優秀な弟子でございました。ところが、アーレス様の魔法研究はエスカレートし、密かに暗黒魔法の書物を集めていたのでございます。」
「それが見つかって、ドメルグ殿はアーレスを廃嫡にしたということか。」
「ご明察。」
「しかし、幽閉されていたのではないかね?」
「何者かがアーレス様を解き放ったものと思われます。」
「アーレスは幽閉中にも暗黒魔法を習得を止めなかったというわけか。ギヨーム殿は、人が暗黒魔法を習得したとき魔族になる、と言っていた。つまり、アーレスは魔族!」
その時、森の奥から呻くような声が聞こえてきた。
-----うぉぉぉぉ、うぉぉぉぉー
「ゴブリンじゃ! ゴブリンの奴らが襲ってきよった!」
エルキス殿の言葉に、幸村君が即座に身構えた。
私たちが庵の外に出たときには、すでにゴブリンの群れが押し寄せていたのだ。
「オルス卿を追ってきたんだな。どうする幸村君! 来るぞ!」
「降りかかる火の粉は払うのみなり!」
幸村君はスラリと刀を抜き、襲い掛かるゴブリンを斬り捨てた。
-----ザグッ!
「石田三成君が錬成せし名刀ムラサメ、天下第一の
-----ビシッ! ドグッ!
返す刀で、二匹目、三匹目を刀の
その隙に、オルス卿が詠唱を始めた。
<< アルゴ・デム・バルガ・オン・ソワカ! >>
-----ドン! ドドン!
しかし、数が多い、このままではじり貧だ。
「みんな下がるなり!」
<<
幸村君、炎の剣で薙ぎ払え!
「我が燃えさかる火よ、ゴブリンどもを焼き尽くすなり!」
-----ギュイィィィィィーン
ゴブリンの群れに直撃した炎の剣は、森の木々もろとも魔物たちを焼きつしていく。
幸村君は、二射目、三射目の炎の剣を発した。
ゴブリンたちは炎の中でもだえ苦しんでいる。
しかしだ、ゴブリンたちは森の奥から次々と湧いて出てくるのだ。
「まずいな、このままでは囲まれる。」
「先生、アレをやるなり。」
「アレって何だ?」
「あたしの火と、先生の風、合体魔法なり!」
「おう、アレか、アレをやるか!」
「あたしが炎の剣を放つなり。」
「私の風が追いかける。」
そう、風が炎に酸素を供給する。
「合体魔法、バックドラフトなり!」
「いくぞ、幸村君!」
「おう!」
<< 『
「いくなりぃぃぃぃぃぃぃー!」
-----グォォォォォx-ン
<< 人間五十年! 下天の内をくらぶれば、夢幻のごとくなり! >>
「風よ、来い!」
-----ごぉぉぉぉぉぉぉぉぉー
――合体魔法バックドラフト!――
燃え上がる木々が発生させた大量の可燃ガスに新鮮な空気が送り込まれたのだ。
可燃ガスに引火した炎は、凄まじい爆発を引き起こした。
-----どぉぉぉーーーーーーーーーーーーん
真っ黒なキノコ雲だ。
炎は森を焼き尽くさんばかりに荒れ狂った。
炎の中からゴブリンたちの断末魔の声が聞こえてくる。
「オルス卿、エルキス殿、逃げるんだ。このままでは森ごと私たちも燃えてしまう。」
「ここは
「幸村君、馬車を出せ! ここを離れるぞ!」
燃え落ちる木々を縫うようにして馬車は走った。
***
ようやく、森を抜けたところで、私たちは一息ついた。
幸村君は手綱を緩めた。
「オルス卿、大丈夫か?」
「おかげさまで。」
「エルキス殿は?」
「なんとか生きておるわい。」
とにかく、みんな無事でなによりだ。
しかし、この事態は深刻である。
魔族が復活したのである。
そして魔族に使役された魔物がガストン殿を殺したのだ。
「このことを、グランローゼ城に知らせるなり。」
「そうだな、また戦いになる。今後のことを検討しなくてはならない。」
その時だった。
私たちの頭上を巨大な影が覆った。
「あれはワイバーン、翼竜なり!」
「魔獣か…」
そして、ワイバーンはゆっくりと私たちの眼前に降り立ったのだ。
「誰かワイバーンの背中に乗っているな。」
「変な格好をした女なり。」
女はワイバーンの背中に仁王立ちになった。
「ほぉーほっほっほっ! 先生、お久しぶりだねぇ。お待ち申しておりましたわ。ほーほっほっほ!」
「おまえは大河内瑠奈! なんだその恰好は。ボディコンの鎧かね?」
肩パットにミニスカートに網タイツ、バブルのころに流行したボディコン・ファッションの戦闘服だ。
「ボディコンなんて時代遅れなりよ! 戦隊ものの悪役女王みたいなり!」
「ほぉーほっほっほ、お黙り! 小娘に何が分かる。このファッションこそがこの世界の最新モード。わたしはこの世界のファッション・リーダー、この国を統べる女王になるのだよ。」
「おまえが女王だと。片腹痛いとはこのことだ。何もかも中途半端な三流歴史学者め、大河内瑠奈、おまえに何ができる!」
「ふん、マドンナとお呼び。アーレス様はこの私が解放した。アーレス様が王となり、私が女王となるのだよ。この国をいただきますわ!」
オルス卿が歯噛みをしている。
目の前にいるのはガストン殿の仇だ。
幸村君が刀に手をかけると、マドンナは短く詠唱した。
<< ユリアナ・トーキョー! >>
マドンナは氷の矢を放ち、幸村君の刀がそれを跳ねのけた。
氷の魔法か、水属性とみた。
「これはほんのご挨拶ですわ、先生。またお目にかかる日を楽しみにしておりますわ。ほぉーほっほっほっ!」
ワイバーンはゆっくりと地上を離れ、マドンナを乗せて空に舞い上がった。
幸村君がワイバーンに向かって掌を突き出した。
<<
「よせ、幸村君。炎の剣の撃ちすぎだ。もう魔力は残ってないだろう。」
「悔しいなりね。」
「悔しいな。スローライフは当分お預けだ。」
私たちはワイバーンが飛び去るのをただ見守ることしかできなかった。
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