第19話 初代王アマテラス

 私と幸村君はグランローゼ城の図書室にこもった。

 まずは古文書や文献をあたってみるためだ。


 初代王アマテラスとは何者か?


 初代王アマテラスの戦いは凄まじい。

 初代王が最初に現れるのは魔獣グリフォン退治である。

 グリフォンは初代王の光の魔法によって滅ぼされたと文献にある。

 この快挙により、全国の冒険者たちが初代王のもとに集い、対魔王の大軍団が結成されたのだ。


 幸村君は初代王アマテラスと魔族との戦いに、戦国武将の活躍を重ねながら高揚している。

 


 「初代王の軍勢は魔王軍の拠点を焼き討ちにしていったなりね。」


 「魔族の女も子どもも容赦なく殺したようだ。」


 「魔族は魔物を使役できるなりね。魔族との戦いは魔物との戦いだったのだ。」


 「これに対抗するために、初代王は光の軍団を呼び寄せたとあるぞ。」


 「光の軍団って何なりか?」


 「これも召喚者かもしれん。三成君が召喚されたとき光の粒とともに落ちてきたからな。」


 「初代王は召喚者の力で魔王軍をねじ伏せようとしたなりね。」


 「この国の成り立ちには、召喚者が深くかかわっている可能性があるな。」



 すべての文書に共通しているのは初代王が強力な魔力の持ち主であったことだ。

 彼の生まれ育ちについて言及しているものは皆無だ。

 この世界に突然現れたように見える。


 「状況証拠からアマテラスは召喚者だったと言えるなり。」


 「あくまで推測だが、その線で研究をすすめよう。」


 「ギヨーム殿に聞いてみるといいなり。」


 「そうか、ギヨーム殿は初代王アマテラスと同時代を生きた、いわば生き証人だ。ギヨーム殿より年上のエルフ族に聞けば詳細が分かるかもしれんな。」


 「でも、何も教えてくれなかったなり。」


 「何か隠している可能性があるな。」


 「エルフ族の秘密なりか?」


 「そうだ、そこに答えがある。」



 ***


 私たちは図書室にギヨーム殿を呼び出し、私たちの疑問をぶつけてみることにした。



 「先生は初代王についてお調べでしたか。」


 ギヨーム殿は悲しそうな顔をして答えた。


 「申し訳ないが、この国の由来を解き明かすことは、アマテラーザの国にとって重要なことなのだ。答えてくれ。」


 「分かりました。それではエルフ族の悲劇についてお話ししましょう。」


 「悲劇?」


 「初代王アマテラスの魔王軍討伐において、エルフ族は人口の半分を失いました。」


 「戦いで討ち死にしたのか?」


 「いえ、討ち死にだけではありません。初代王は500人にも及ぶ大規模な異世界召喚を行ったのです。」


 「召喚者は強力な魔力を秘めている。この世界にとってはチート兵器だからな。」


 「初代王は召喚者の兵力をもって魔王軍を制圧しました。」


 「初代王というのは、無茶苦茶な男だったんだな。」


 「魔王よりも恐ろしい男です。魔王を倒したとはいえ、エルフ族はその犠牲になったんです。」


 大量の異世界召喚によって、多くのエルフが寿命を削られた。

 なかには体力が弱って死んでいくものもあった。


 「もともと人口が少ないエルフ族です。エルフの数は三百人を割り込んだと言われています。」


 「そんなに人口が少ないのか?」


 「なにしろ、発情期は百年に一度の交霊祭の時だけです。人族のように年がら年中発情しているわけではありません。」


 人族は魔力も力も弱いが、繁殖力だけはほかの種族に勝っているということだな。

 年がら年中交尾して、産めよ育てよで繁栄を築いてきたのだ。



 「ギヨーム殿、初代王に従って魔王軍と戦ったエルフはもう残っていないのだな。」


 「生き残った者もありますが、もはや廃人同然です。」


 確かに、悲劇だ。

 魔王軍を倒す代償に、エルフ族は滅亡の一歩手前まで追い詰められたのだ。


 「この国の平和はエルフ族の犠牲のうえに成り立っています。」


 ギヨーム殿は遠い目をして言った。



 「ところでギヨーム殿、魔族というのはどういう存在なのだ?」


 「魔族ですか? 暗黒の魔法を使う者のことです。暗黒魔法は魔物を使役し、魔物はすべての種族の天敵です。」


 「魔族という種族があるわけではないのかね?」


 「はっきりは分かりませんが、魔族はもともとは人族のなかから生まれたという者もあります。人が暗黒魔法を習得したとき魔族になるという説です。」


 「ほう、魔族は人か。」


 「初代王によってこの国を追われた魔族たちは、海や山の向こうや逃れました。彼らは改心して魔族であることを止め、人として暮らしていると聞きます。」


 「なんと、魔族は人に戻ったのか?」


 「確かな話ではありませんが、わたしはそう聞いております。そこは人知の及ばぬところです。」


 

 人知の及ばぬところか…

 この世界の住人は何でもかんでも、それで納得してしまう。

 これも魔法という不思議な力があるからだ。

 魔法は理解する必要がない。

 ただしだ、私たち学者は人知の及ばぬところを探求するのが仕事だ。



 「ギヨーム殿、ありがとう。手がかりがつかめそうだ。」


 「どういたしまして。エルフ族の知識がお役にたてれば何よりです。」


 「また、何かあったら教えてくれ。」


 ギヨームどのは再び哀しそうな顔になって言った。


 「一人だけいますよ、卑怯者のエルキスならば当時のことを知っているはずです。」


 「卑怯者のエルキス?」

 

 「エルフ族の恥さらしです。魔王討伐戦の時、恐ろしさのあまり逃げ出した魔導士です。デレス山にふもとにいおりを結んでと生きております。誰も訪ねる者もなく、世捨て人のようにしてね。」


 ギヨーム殿は吐き捨てるようにつづけた。


 「エルキス・エクストン。私の父です。わたしは卑怯者の子として、その汚名をそそがんと生きてきました。」


 ギヨーム殿の怒りと哀しみは分かる。

 だが、私は好奇心を抑えることはできなかった。


 「それでも私はエルキス殿にお会いしたいと思う。」


 「先生は不思議な方ですね。あのような者、会うだけでけがれますぞ。」


 「それが、学者のごうというものだ。」


 ギヨーム殿は苦虫を嚙み潰したような顔をして図書室を去っていった。


 おもしろい!

 当時の歴史を語れる生き証人がいるのだ。

 歴史学者にとって、これほどの吉報はない。



 *** 


 私たちが歴史研究という趣味に打ち込んでいた頃、大公家の後継者ガストン・トクーガは王女ツキヨミと結納ゆいのうを交わすため、一路、王都グランローゼへ向かっていた。


 時に、木々が紅葉に染まる晩秋のことである。

 

 


 


 


 


 



 

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