第五章 アリシアは革命軍

1. 宣戦布告

 見慣れた王都の街並みは、しかし、激しい戦いの傷跡を刻んでいました。


 あちこちが砕けた石畳、剥き出しの土肌を歩きます。倒れてバラバラになった屋台骨を跨ぎ、いくつもの銃弾がめり込んだ壁を撫で、焼け焦げて煤けた屋根を見上げて。


「……やあ、姉様。お久しぶりです」

「生誕祭ぶりですね、ユリウス」


 見据えます。


 我が弟にして姉、紛うことなきハーノイマン最強の火王家。


 燃える紅蓮の王子、ユリウス・ノア・ハーノイマンの姿を。


 幾つもの大通りが交わる、噴水広場。とっくに水も枯れ、割れた石枠に座り込むユリウスは、一目見て疲れ果てていると知れました。煤のついた手で拭ったのだろう頬は黒く、応急手当とは名ばかりの包帯や絆創膏をいたる箇所に貼り付け。汚れに輝きを鈍らせる王剣を、杖代わりに突き立てて、薄く笑みを作ります。


「まさか……青髪を晒して、革命軍の中から出てくるとは思いませんでしたが」


 それでも。


 意志も、闘志も、欠片とて欠けぬ強い瞳で。


 私と、背後に控える青の軍勢を、近衛とオリビアたちを、睨みつけます。


「革命軍。はて、おかしなことを言いますね。ユリウス」


 ですから。


 私は、『私』の得意分野ハッタリにて、応えます。


 口元に手を当て、きょとんと小首を傾げ、心底不思議そうに。


「こちらは、私の忠実なる火砲の騎士。……ユリウス。あなたを始め、ハーノイマン魔法貴族を討つべく集った、精鋭たちです」

「ほう……?」


 ピクリと、ユリウスの口の端が跳ねます。


 ゆらり、剣を提げて立ち上がる背後に、どこからともなく現れ侍る、四皇たち。


 木家が後継、セイル・フォレスブルム。


 土家が後継、トマス・ランディール。


 金家が後継、トルニトス・ゴルトラオロン。


 水家が後継、マリアン・アクルメリア。


 誰一人として例外なく、多くの傷をその身に負いながらも、決して折れることなき闘志をその視線に宿します。


 当然、先頭に立つは火王家が直系、ユリウスは油断なくこちらを睨み、


「詳しく、聞かせてもらいましょうか。その世迷言の出所を」

「だって、おかしいではありませんか。私とあなたの、婚約者を決める生誕祭だというのに。

 どうしてあなたが居て、この私が、参加していないのです?」

「戦えると? 姉様が、この王家四皇を相手に」

「もちろん……無理ですとも」


 で・す・か・ら。


 私は芝居がかって、立てた右の人差し指を、ゆっくりと口元に添えます。続いてくるりと、両腕を広げながら、爪先だけで踊るように回り。背後に控える軍勢をしかと見せつけて、石畳を叩いて止まります。


 左手は、腰に。


 右手は、斜め下へ向けて広げ。


「私の持てる全てを結集した、この『蒼炎の騎士団』にて、お相手します」


 ユリウスを。


 背後に控える四皇たちを。


 全てを見据えて、宣言します。


「余興は終わりです。私とあなたの生誕祭、その庇護の下で、存分に力を振るいましょう」


 耳に痛いほどの静寂が支配し、一陣の風が吹き抜けていきます。


 笑いが、生まれました。


 ユリウスの口から、呻くような含み笑いが。しばしの後に、堪え切れずと肩を震わせ。最後には、腹と頭を抱えて天を仰ぐ、大音声にて。


 空高く消えゆく響きが、ようやく収まったところで。


「意味を、理解しているのですよね?」


 指の間から見下ろされる、世界を焼き尽くさんばかりの、闘志を滾らせる瞳が。


 背後の四皇からも、この場に立っているだけで圧殺されかねない、気迫が。


「当然です。お互いに『本気で』戦いましょう」


 私は、どこ吹く風と、右手で後ろ髪を払い。


 ただし、と。


「私が勝利した場合は、あなたの王位継承権と、加えて婿を選ぶ権利を、いただきますね」


 告げる言葉に、ユリウスは口元に添えた手を、握り締め、


「……いいですねえ。良いでしょうそうしましょう! 文字通り、僕と姉様の全てを賭けて! この波乱ばかりの生誕祭に、幕を引こうじゃありませんか!」


 この場に居合わせる、全ての者たちの耳へ届くように、叫び。


 赤の外套を翻しながら、踵を返します。


 首だけで振り向く視線は、しかと私を、最大の敵と捉え、


「追って、日時を連絡してください。楽しみに待っていますよ、姉様」

「ええ。首を洗って待っていなさい。ユリウス」


 それだけの言葉を残し、四皇を伴い、王宮へと引き上げていきました。






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