第5話 メインヒロインの名前が判明するまで一万字以上かかるって本当ですか?
一夜明けて森の調査前にギルドにやって来た。万が一私が帰ってこなかった場合に備えてこういった連絡は必須です。
淫乱ピンク(願望)な受付嬢のミィちゃん目掛けて歩いて行くと、昨日の新人ちゃんがミィちゃんと話している最中だった。指導者制度のお世話になろうとしていたみたいだし、その手続きかな〜とちょっと距離を空けて待っていると、新人ちゃんが私に気がついて近づいてきた。
「――私の指導者になって」
「お?」
前置きもなしに新人ちゃんがそう言うと、ギルドにいた他の冒険者たちがざわつきだす。
「マジかあの新人。勇気あるな」
「やめとけって」
「何時ぶりだっけ」
「指導制度始まったばかりの時ぶりじゃない?」
「ツバメの指導……? 冒険者やめちゃわないかな」
「容赦なくてみんな逃げたもんね」
「耐えきれれば優秀な冒険者になるよ。耐えればね。僕は逃げたけど」
「そんなにヤバいんですか……?」
「若手は知らないよね。あの人の容赦のなさ」
「知らんでええこともある」
キレてええな?
「ほほーう? 本人が聞いているのに、みんな随分とお口が回りますねぇ?」
一斉に私から視線をそらす冒険者たち。一部の人は震えてすらいる。まるで私が拷問官みたいな扱いをされている件について。食べないよー? 怖くないよー?
「聞いたの。ここのギルドって新人が入ってきたら、実力のある指導者が新人に付きっきりになって冒険者の基本を教えてるって」
そしてこの子はこの子で周りの反応をスルーしてる。なかなか肝が据わってる新人だぁ。
「それで私にってことね〜。でも周りの反応からみても私って不人気だってわかるでしょ? 普段ならベテランのパーティに短期間所属して面倒みてるみたいだし、別の人がいいんじゃない?」
面倒くさいとかじゃなく、この子のためです。周りの反応もそうだし、自覚はあるけれど、私って生き残るために必要だと考えたことは容赦なく頭に叩き込むからね。死なせたくないから。
それに森の問題もある。調査を進めるのが今一番必要なことだと思ってるし、時間的余裕があんまりない。指導者側に余裕がないのは受ける側にとってもマイナスだもの。
だから断ろうとしたところでミィちゃんから待ったの声がかかった。
「――ツバメさん、ここをホームにするんでしょう? なら久々に指導しても良いとは思いませんか?」
……ん? んん〜? この雰囲気は、もしや?
「……もしかして怒ってらっしゃる?」
わ〜ニッコリスマイルで返答された〜。これはキレてますね、はい。
「その、ごめんね?」
もしかしなくても理由は――。
「いえ? 最前線への招集に応じるかどうかは冒険者本人の意思で決めるべきことですから? ツバメさんが悪いことなんてないんですよ? ただ? 長くこの街でいて下さったツバメさんが? 私と良く会話をして頂けるお陰で? 私がツバメさんの担当だとか言われて? 招集に応じないのは私がツバメさんをコントロールしていないからだとかよく分からん理由で上司からネチネチ言われただけですので? まーーーったく謝る必要なんて無いのですよ?」
「……あ、あっはは〜。今度、奢ります」
やっぱり最前線への招集を蹴ってここを本拠地にしたことだよね。申し訳ないことしたかなぁ。
「それで、受けてくれますよね?」
圧! ミィちゃんから凄腕冒険者並の圧がありまーす! 断り辛いねぇ!
「んーとねぇ……」
森の案件を一旦置いておいて、考えてみよう。
ゴブリンの危機から助けてなでポ作戦は失敗に終わったけれど、指導者として関わってく中でゆっくりフラグを立てるのも、乙なものだよね。うんうん。
新人ちゃんは可愛い。見た目に関しては私の好みにどストライクではあるし、指導にかこつけてイチャコラ出来たらそれはもう楽しいだろう。
ただまあ、勢いで行くのではなく向き合っていくなら伝えておかなきゃね。
「指導者はやってもいいんだけど。私って女が好きなんだよね。あ、ここでの好きは恋愛的な意味ね? だからよく分からないパーティに所属するのが怖くて、一応は知り合いかつ同性だから安全、みたいなもの求めてるなら無理だよ? もし怖かったら別の信頼出来るパーティを――」
「それは既に聞いているわ。それを理由に貴方を貶せばボコボコにされるのも知ってる」
「はい!? 私そんなことしないよ!?」
この街の人達ならみんな把握してることだけれど、新人ちゃんは知らないであろう事実を伝えようとしたら、遮られて既知だと言われた挙句にとんでもないデマが飛び出てきた。
誰だそんなタチの悪い噂を新人ちゃんに教えた馬鹿者は――!?
「――貴方じゃなくて、街の人からボコボコにされるのよ……とても慕われているのね、街の英雄さん?」
「え? ……あ、あはは」
え、どう反応するのが正解? 街の英雄? なぁんで来たばかりの新人が小っ恥ずかしいあだ名を知ってるのぅ!?
と慌てふためいていると、新人ちゃんは距離を詰めて私の手を握りこんだ。わぁ、柔らかくて温かい手だなぁ。好き。
「わかった上で貴方が指導者であってほしいと思ったの。だからお願い。私を一人前にして」
問題。恋人探しに日夜走り回るオタクに対して、好みにどストライクな少女がとても真剣な顔で手を握りながら、上目遣いでお願いをしてきました。オタクの返事はどんなものになるでしょうか。
「あ、はい。頑張ります」
答え。若干キョドりながらお願いを聞く。
§
勢いに負けた気配はあるけれど、指導者になることが決まった。決めた以上は真剣にやるべきってことで、ギルドのテーブルに腰掛けて自己紹介。その後に指導内容を確認する流れになる。
新人ちゃんの名前はレルフェア。レーちゃんというあだ名を付けたらなんとも微妙な顔をされました。私のあだ名、何故かいつも不評です。
「――じゃあ他の人にも必ず聞いているんだけど、レーちゃんの目標を教えてくださいな」
「目標?」
「いえす!」
指導の最初はここから! 『貴方の目標なんですかー!?』です。目指す場所がないと努力の行き先がとっ散らかるからねー。
あと下手に目的意識がない状態で力をつけると、悪い方向に走ることもある。目標に届かなくて挫折した結果悪行に走るときもあるので、最終的には人によるけど(人によるって便利な言葉だね!)
「私は……一人でも生きていけるようになりたい」
レーちゃんは、少し暗い表情で呟くように私の質問に答えた。
髭と喧嘩してた時に言ってたやつかー。なーんか思い詰めているようなや〜な感じの目標だなぁ。出来ればもっとこう、若さ溢れる煌めきが欲しいです……はっ、年寄りみたいなこと考えてる!?
「確認するけれど、それは山奥とかに引きこもって孤独に生きていきたいって意味? それとも冒険者として独り立ちしたいって意味?」
「独り立ちよ。私は他人に依存したくない。他人に自分の人生を左右されたくないの」
「んー……りょーかい」
前者だったらどうしようかと思ってたから、独り立ちが目標なのは良し。でも私は独り立ちって他人から影響を受けなくなる訳じゃなくて、単に生活基盤を自力で確保出来ることだと思うんだけど大丈夫かな?
人間って他人と関わらざるを得ないっていうか、社会を形成する生き物だから、コミュニティに所属する以上は他人の影響を取り除けない。そも冒険者として独り立ちするって、冒険者ギルドの報酬に依存するって意味でもある。冒険者ギルドも依頼者に依存しているわけだし。
指摘するべきかなぁ。まだ早い? なんでそんな考えになったのかのバックボーンを知らないし、ムキになっちゃうと不味いよね。
「じゃあ冒険者として独り立ち目指して頑張ろう〜! 具体的には“自分で解決出来る依頼を選んで、生活費の確保と貯金を無理なく出来るようになる”ってのを目標にします!」
とりあえず、悩みは後回し! 自分で気付く場合もあるだろうし、必要なら仲良くなってから指摘すればいいからね!
「えぇ、頑張るわ! 早速今日から始めるの?」
具体的な目標が決定したからか、さっきの暗い表情は姿を消して、やる気が顔に現れている。可愛いねぇ、やる気のある新人ってだけで可愛いけれど、レーちゃんはシンプルに顔が良い。相乗効果でとても可愛い。
「いや、資料室を借りる申請とか、教材の準備とか諸々あるから三日後からだね。ちなみに今って生活出来てる? もし宿費とか厳しいなら申請を出せば補助金出るよ」
「……受付で言えばいいのかしら」
新人って金欠でしんどいよね。わかる。
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