異世界鈍感英雄“百合”物語 〜そのチートスキル、恋愛だけに効果なし〜
夜燈鶫
第1話 第一話ですがまずは新人冒険者を助けて惚れさせようと画策します。
んー、今日も冒険者ギルドは本日も賑わっているねー。
ギルドハウスはレンガと木で出来たこの街一番大きな建物。木目とフチが荒れた大きいテーブルが広い空間に何個もあって、一人席の小さなテーブルが壁沿いに数個。ど真ん中に受付、右に酒場、左に書庫を兼ねた資料室。書庫と受付の間に二階に続く階段。
朝方に依頼を済ませて来たのか布袋に薬草か何かを詰め込んだ人が気だるげに中央の受付に進んだり、依頼の読み上げ屋と、冒険者パーティが何組か会話をしている。
そろそろお昼時なこともあって、併設している酒場にも沢山の冒険者が食事をとったり、自慢話に花を咲かせたり、それをギルド職員が働けと目で訴えていたり、と実に異世界ファンタジーな光景だ。
そして、もう一つそれっぽい光景が受付横の掲示板前で発生中。
「――だからな、嬢ちゃん。新人でソロは止めておけって」
一人はベテランのオッサン。私も一応顔見知りで、気の良い世話焼きな人。
「うるさいわね、私は一人でやれるわよ。たかだかゴブリン程度で先輩面して干渉してこないで。地元で何匹も殺してきたし、そのくらい余裕よ」
もう一人は赤髪で長髪な可愛い女の子。やばい、すっごい可愛い。好みです。あのツンとした表情が大変いいですね。
「あのなぁ、わざわざ手配書が出てるってことはそこらのノラとは違って被害が出てるってことなんだ。いくら経験があるっても……」
「ああもう、いい加減にして! 男ってのは女に言うこと聞かせないと気が済まないの!? 気持ち悪い!」
「な……ッ! てめぇ、気を使ってやってるのがわかんねぇのか!?」
おぉ……やってるやってるぅ! ってわけで冒険者ギルドの花と言えば喧嘩だよねー。ただいま私はギルド内で厚切りベーコンを齧りながら新人と先輩の喧嘩を見学中でーす。
「誰が気遣ってくれなんて頼んだのよ。あんたみたいな髭もじゃの男の手を借りるなんて真っ平御免だわ!」
「もじゃ……ッ! ……チッ、なら勝手にしろよ。後で泣いても知らねぇぞ」
気の良い髭もじゃオッサン冒険者が舌打ちしてギルド内のテーブルに帰っていく。それはもう不機嫌そうに腰掛けた。あんなに馬鹿にされて手を出さないのは素直に尊敬。この世界、手が出やすいし。特に冒険者。つまり私たちじゃん。
オッサンが大声でビールの注文をすれば、ウェイトレスがそんな尊敬できるオッサンに苦笑いしながら待ってて下さいね〜と酒場の奥にある厨房に向かっていく。オッサンのパーティメンバーも半笑いな慰めモードっぽい。
いやぁ、不機嫌にもなるよねぇ。新人が跳ねっ返りなのはよくある事だけど、恩に着せてどうにかしてやろうとしてる、みたいな言い方されたら腹立つもん。どんまい気の良い髭もじゃオッサン。
そしてその跳ねっ返りな新人冒険者ちゃん。腰あたりまで伸びた長くて綺麗な赤髪と、深くて濃い青眼のスレンダー美少女ちゃんだ。うーん、可愛い。すっごい可愛い。勝気な美少女、ありゃ性格が良ければ間違いなくモテますね。ちょっぴり男嫌いっぽいのは、なーんか過去にあったのかなぁ。あったんだろうなぁ。
でもフラグがすっごい立っておりますわよ。
一つ。街に出てきたばかりの新人なのに自信過剰であり、先輩からの手助けを断る(ざまぁ、当て馬、敗走、死亡フラグ)
一つ。ゴブリン程度、と油断している(想定以上の強さのゴブリンの登場、大量繁殖、単純な油断による敗北フラグ)
一つ。新人女性冒険者でソロ、かつあからさまな男性嫌悪(襲われるフラグ)
うーん、どう足掻いてもトラウマ植え付けられるシーンへ直行の未来しか見えません。
「ふん! 私は一人でやれるんだから。一人で自由になってやる……ッ!」
私が入口近くの席に座ってたせいで、新人ちゃんが木製のウェスタン扉をギイギイ言わせながら、ギルドハウスから出ていく時にボソッと言った独り言が聞こえてしまった。こ、これは……仲間を作るフラグですね! わかります! 一人でやれるもん! は一人じゃ無理なのが基本。
さっきの男嫌いな発言と組み合わせると、信じてた男に……例えば、裏切られたとか? もしくは親友に好きな男寝盗られて、他人なんて信じない! とか、そんな感じ? 若いなぁ。世界は広いぞ美少女! たまたま一人二人裏切る男に出逢ったって、信頼出来る男は沢山いるぞ! 私は女だけど。
まあ、今拾える新人ちゃんの情報はこんなもんかな? それじゃ移動しますか。
「やほー、ミィちゃん。ちょっとさっきの新人ちゃんが受けてた依頼見てもいーい?」
私はギルド中心にある受付で、お気に入りの受付嬢に話しかける。肩くらいの長さなピンク髪で、お胸も大っきい長身美人さん。カウンターに乗せられたお胸が今日も目の保養です。ピンク髪は淫乱は流石に古いけど、夢見ちゃうよね。異世界だし。
「誰がミィちゃんですか。別に掲示板に貼ってるので勝手に見れば良いのでは?」
おほ〜。誰が〇〇ですか、というテンプレながらも味わいあるやり取りが大変気持ち良い。おっと今はオタクしてる場合じゃないね。
「りょ。勝手に見るねー」
ツンケン気味なミィちゃんの了承を聞いて、受付横の壁に掛けられた掲示板からゴブリン退治の依頼を探す。
ゴブリンの依頼なんていっぱいありそうだけど、気の良い髭もじゃオッサンが言ってた通り“依頼”になるものって少なかったりするからすぐ見つかった。
「ふんふん、この手配書ね。森の浅い所にゴブリンの巣が出来ている、と。目視の範囲では小規模コロニー、上位種・変異種の確認なし。浅い所に来て巣作りっていうのは……ちょっと変だね?」
「ですね。獣とナワバリ争いをしているせいで森の環境が荒れてきているようです。木こりの方々からの依頼ですよ」
この街の近くにある森は浅い所は獣たちが、深くに行くと魔物たちがテリトリーを作ってる。テリトリー同士の境界で小競り合いはよくあるけど、わざわざ獣達のナワバリの中にゴブリンが巣作りしてるのは変だ。
「こりゃ森でな〜んか起きたフラグだなぁ」
あと獣のナワバリの中で巣作り出来たってことは、それだけ力があるってことでもある。確認出来てないだけで上位種……いや小規模コロニーって情報が間違ってないのなら変異種かな。そこら辺がいると仮定して、新人ちゃんは早めに助けに行った方が良さげだね。
「――また人助けですか。そうやって困ってる人がいれば誰彼構わず助けて……ほんと、こりませんねツバメさんは」
ミィちゃんがじとーっとした目で私を見ている。やだ……そんな目で見ちゃだめ。ジト目フェチに目覚めちゃう。もう目覚めてたわ。ごめんね手遅れなのでそのジト目に興奮してるんだ。そんな私も愛してね。
「んー? そんな高尚なものじゃないと思うけど」
可愛い女の子が困ってるところを助けて恋愛フラグが立つことを求めてやってるだけだし。一応男も助けはするけど、助けられるのに助けないのは夢見が悪いってだけだもんねー。
「あ、もしかして嫉妬? 助けるなら私だけにしてよ! みたいな」
「………………そんなわけないでしょう」
「だよねー」
何を隠そうミィちゃんも助けた事があるのです。厄介な貴族に絡まれた時に色々と頑張りました! 恋愛フラグ? 立ちませんでしたよ? 何でだろうね……(遠い目)
いやだがしかーし! 今度は立つ。立つさ!
なにせゴブリン! 新人! 勝気美少女! 危ない所を助ける先輩冒険者! これで恋愛フラグが立たずにどこで立つのさ! 異世界ものの王道だよ!? 助ける! 優しくする! なでポ! 抱いて! で完結!
「ふっふっふ……これは勝ったな、ガハハ」
勝ちフラグ、成立! スキルは確認してないけど、わかる。私にはわかってしまうね。勝ちフラグ大成立ですよ!
「……はぁ、何でこんな人に」
勝利の笑みを浮かべているとミィちゃんの呆れかえったため息が聞こえてきたのであった。美人さんのため息ってなんか、いいよね。
「あ、そういえば正式にここを拠点にする書類を王都で提出してきたからさ、これからよろしくね?」
「――はい? え、王都から最前線に移動しろって辞令が出てましたよね?」
「うん、だから断って、ここから離れないって宣言してきたよ?」
「――――。は……はは……また……また、私の監督不行届とか意味わかんないこと言われるんだ……なぜ、どうして……あはは……」
ありゃ、ミィちゃんが胡乱な目になっちゃった。私の担当になっちゃったから仕方ないね! 上司からネチネチ言われたらご飯奢るよ。うん。
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