異世界恋話
「瑠璃ちゃんご飯ですよ」
咲世と喋っている間に妙がバカ犬にエサを与え出した。
「瑠璃ちゃん幽霊だから、これでいいかしら」
「うんいいよ、あっお水だ」
ドッグフードが入れてある皿を無視して、瑠璃は水の入った皿に向かった。
「ぼくはお水には厳しいよ、なんたって水木様の眷属だからね」
水神水木様の眷属だと言うのなら、汚水だろうが自分で浄化して飲め。
瑠璃が水をペロリと舐める。
「おいし〜い、どこのお水」
「愚人池のお水ですよ」
水木様の住処の水か、確かにそれならば美味いはずだ。ことごとくこの家政婦準備がいい。
「うんうん、それなら間違いないね」
「瑠璃ちゃん、これで異世界のこと聞かせてくれますか?」
「まかせてよ、彼方のことならなんでも知ってるんだから」
またえっへんとでもいいたげな表情をする。
「なら、そうですねどうして若様は霊能組織の色仕掛けをお受けにならなかったのでしょう?」
異世界のこと聞くんじゃなかったのか!?
「それはねー自分を利用してやるという気が見え見えだったからだって、初めては自分を愛してくれる人がいいんだって」
「バカ犬その口を塞いでやる」
「咲世、若様を抑えておいてください」
「はい」
咲世が僕を羽交い締めにして動きを封じる。抵抗してみるがびくともしないどんな馬鹿力なんだ。
「あのエマさんとそういう雰囲気になったことは何度かあったはずです、なぜなさらなかったのでしょう」
「んーとねーそもそもそういうことを汚いとかそういう苦手意識があるみたい」
なんでこんな時だけ察しよく答えるんだ、ふざけるなよ。
「あらどうしてですか?」
「異世界のスラム街でいろんなものを見たんだって」
妙の表情が変わる、どこか心配しているような怒っているようなごちゃ混ぜの表情、そして絞り出したように言葉を発する。
「若様は異世界で幸せだったのですか?」
「最初は色々辛かったみたいだけど、最後はね戦友たちと旅をして王様を倒してね、国で祝勝会をしようってところでびゅーんとなったんだよ、でもすごく楽しかったんだよ」
「若様はこの世界に異世界の戦友様のような方はいますか?」
「一人いるよ、そいつのためにあげても良いんだって」
「それは良かった」
妙は酷く安心したような、嬉しそうな顔をしている。
こいつどこまで話せば気が済むんだ、そうだ…血鏡だ。
「血鏡開け、呪いの荊よそのバカ犬を引き摺り込め」
「あっ」
まぬけな声を晒しながら、瑠璃は血鏡に沈んでいった。それと同時に羽交い締めが解かれる。僕はいろいろなショックで、畳にへたりこんでしまった。
「若様、若様にもいろいろな思いがあったのですね、汲み取れず申し訳ありません」
僕の頬に妙の綺麗な手が赤子でも撫でるように丁寧に優しく、愛情を込めて添えられる。
「若様私は貴方を男性として愛しています。小さい小さい赤ん坊の頃から貴方をお世話してきました。いつのまにか愛していたのです、だから私と少しずつ愛を学び、克服していきましょうね」
プロポーズ…なのか、僕はあの流れから受け入れきれずに皮肉を吐いてしまう。
「妙は上憑の後継が欲しいだけだろう、僕なんて見ていないそれなら兄でもいいはずだ」
「いいえ、若様だからです。優しくて、我儘で自分勝手で無鉄砲でどこまでも精一杯な若様でなければダメなのです」
顔をあげてみる、妙の愛おしいものを見るような優しい顔が瞳に映る。照れ臭くて、視線がまた下に下がってしまう。
「彼方こっちを向いてくれ」
妙とは違う、美しく細いのに長年戦闘を積み重ねた歴史を感じさせる重厚な手のひらが否応なしに顔を咲世の顔に近づける。咲世の表情には親が子を見るような慈しみが感じられる。
「まず、すまなかったな。異世界でようやく幸福を掴んだ貴殿の努力を私が巻き戻したことで、ふいにしてしまった。すまない」
「咲世が謝ることじゃない元々は十字の神が悪いのであって、咲世は一生懸命に生きて、戦い抜いただけだ、そのおかげで妙にもみんなにももう一度逢えた、感謝しているほどだ」
「そう言ってもらえてありがたい。その上で聞いて欲しい、私も彼方貴殿を愛している。一目惚れだったんだ。」
えっはっえ!!!
「あのトンネルで血鏡その奥にある魂とその在り方を見て目が離せなかった、他のものなど全て些事に感じた。極光に侵されながらも未だ生きるという強い意思を感じさせるその魂、極光に侵されいまだ激痛が走っているそのはずなのに」
その目は一目見ただけで僕のことをどれだけ見抜いて!
「いまだ諦めず、挫けず克服してやる征服してやるとたけるその闘志それでいて、人の道を踏み外さないブレない本質その全てに一瞬で目を奪われ好きになった」
彼女の瞳は逃がさないとばかりにこちらを見つめ、体は抱きしめられるように腰を掴まれ密着する。
「そして今までの行動の全てで貴殿の本気と優しさを感じ取れた、愛しているどうか私を受け入れて欲しい私の愛しい救世主」
そこからのことはあまり覚えていない、わかるのはいつのまにか布団に入っていることだけだ、眠れもせずぼーっと天井を眺めていると、子犬の瑠璃が布団の上に現れる。
「ねぇ、この世界で戦友が一人ってことはさあいつのことだよね。じゃあさぼくは?」
「決まっているだろう、一心同体おまえは僕自身だ」
「そっか」
瑠璃は納得したのかそのまま寝始めた。こっちが悶々としているのに呑気なやつだ。だがいい加減眠くなってきた。
意識が落ち、こんな日でも関係なく魂は深みへと呼ばれ落ちていく。
目の前にははじめて遭遇した時と同じ球体の肉の塊に無数の触手と口を持つ姿で現れた。
今日はこいつに構っている暇はない、考えなければ一日に二人から告白されるなんて思いもしなかった。どうすればいいんだ。
というか今はアザトースを起こした影響で起きた、天変地異の対応にかかりきりで日本神群
は対処出来ていないが、落ち着けば僕は裁かれ死んでしまうだろうから、足跡程度でも残したくてこんなことをしているのに、どうしよう。
家のことは兄貴に任せればいいと思ってたし、終活は着々と進めてたのに。
「どう……し…た」
「うるさい、今大事な考え事中だ」
待て…いま誰が喋った。目の前のアザトースを見つめる。
「アザトース貴様が喋ったのか?」
「その…とお…り…だ」
親和性は高くなっていると思っていたが、声を聴き取れるまでになったか、学校でも寝ていた甲斐があった。これならばなんとか生き残れるかもしれない。
いやまずの問題は恋愛の話だ。そうだちょうどいい相談相手がいる、アザトースに恋愛相談しよう。
「アザトース僕は、今日二人の女の子に告白されたんだ、どうしたらいいと思う」
「………?」
そんなふうに恋愛相談をしながら夜は更けていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます