作戦会議

 僕はレンフィード邸に戻ってきていた。異界の森の中を歩いて、グレナのババアと咲世が楽しくおしゃべりしている光景が目に映る。それと同時に周辺の木々がなぎ倒された凄惨な光景も目に入ったが。エマがババアに駆け寄っていく。


「何してるのお祖母ちゃん、もう年なんだからこんなことして腰痛めるわよ」


 ババアが何かやらかしたっていうのは共通認識だったか。


「ババア血の気が多いぞこんなことをして」


「いいや、丁寧に歓迎してくれたぞグレナさんは」


「この惨状で?」


「ああ素晴らしい魔法を見せていただいた」


「それ攻撃されてない?」


「いやすべて私に当たらぬようコントロールされていたよ、魔女とはかくあるべしという姿を見せていただいた」


「そこの小娘いや小娘は失礼かね、咲世ちゃんはすごく肝の据わったいい子だね。あたしゃ関心したよ」


 咲世ちゃん……ちゃん付けあの意地悪クソババアが…妙のときも思ったが仲良くなるのが早すぎないか、無意識に魅了の魔術をかけてるのか?


「この子が言ってたグラシャラボラスに狙われてる子なの?かなくん」


 ああエマに紹介しなければなこの光景に目を取られて忘れていた。


「この子は遅塚咲世ちゃんだよ、こっちのがうちの孫娘エマだよろしくやっておくれね」


 咲世が席を立ってエマに手を差し出す。


「遅塚咲世だ、彼方には世話になっているよろしく頼む」


エマがその手を握って握手する。


「お祖母ちゃんに気に入られるなんてやるじゃない、エマ・レンフィードよ。よろしくお願いね」


 エマが手を離さず握手を続ける少しづつ握る力を強めていっているようだ、そのまま咲世の耳元まで顔を近づけて小声で囁いた。


「かなくんは私のものだから手を出したら許さないからね」


 あれ僕が聞こえるの知ってて言ってるんだよな~もうちょっとああいうの抑えてくれたら完璧なのに。グレナが手をパンパンと叩く。すると椅子とカップが四人分現れた。


「自己紹介はこれでいいね。座りなご当主は話があるんだろ」


 席に着くとティーポットが宙に浮かびカップに紅茶を注ぎだす。


「エマいつまでその眼鏡かけてるの素顔みたいんだけど」


 エマがいそいそと眼鏡をはずす、眼鏡をはずすと地味な印象など消え去り、輝かんばかりに美しい顔が現れる。


 魅了の面相生まれながらに持っていた他者を無意識に魅了の魔術にかけてしまう顔、幸いそこまでの強さではないが、小学生の時にモテまくったエマに僕が嫉妬してそれを抑えるためにプレゼントした眼鏡をかけていたのだ。


「ほら早く話しな今回はどんな厄介事を持ってきたんだい」


 僕は無理やりテンションをあげて言う。


「グラシャラボラス抹殺会議を始めたいと思いま~す」


「キャーーかなくん最高、かなくんはそうじゃなきゃね」


 もしかして問題起こして厄介事を持ち込むのがいつも僕だって思ってるってこと。


「昨日の夜グラシャラボラスに襲撃を受けました、分霊だったそいつは殺しましたが本体は生きたままです。なので取り込んだ分霊の縁を使って本体の位置を割り出し他所津神にて引っ張りだしてきて殺します。明日決行ね、電話したことの進捗はどうなってる……グレナ婆さんどうぞ」


「悪魔マルファスとその軍勢にグラシャラボラスの領地に攻め入らせる、準備は整ってるよ。明日にはもう攻め入れられるそうだ。」


 ババアはさすが仕事が早い、悪魔を殺すときは残党処理もかねて悪魔を参戦させておいたおくべきだからね。こういうときは歳の功が役に立つ。


「なら僕がグラシャラボラスを連れ出してそのまま嵐目で地獄の領地を滅茶苦茶にするからそれが合図だと言っておいて」


「わかったよ。で本題は何だい?」


「グラシャラボラスの能力への対策を話し合いたいんだ、まずはグレナ婆さんグラシャラボラスの詳細を聞かせてよ」


「奴はソロモン七十二柱の一体だ、あとは透明化を自身と他者に施すことができるよここまでは知ってるね」


「うん」「はい」「あぁ」


 透明化の能力のこと知れ渡ってたんだ、僕昨夜の襲撃で見るまで知らなかったな。


「昔は研鑽などという言葉は忘れ堕落していたようだが、今は神々が嘯く世界の時が巻き戻ったという救世の日から始まりいまだ収まらない大騒動、救世騒乱にて天使や他神話の神、同種の悪魔さえ手にかけ名と力を上げたと聞いているね」


「詳しい能力の詳細は?」


「いま言ったことが知るすべてだよ」


「じゃあ次は咲世、前回グラシャラボラスと戦った時にどんな能力を使ってきたか聞いても良いかな?」


「わかった、そうだなまずはグレナさんが言っていた透明化だ。かつてより精度が大きく上昇している、私でも近距離に近づかれなければ気付かなかったほどだ。だが人間が気を付けるべきなのは二つ目の方だろう、奴は人間に殺人衝動を植え付ける人間を殺したくて仕方なくさせるのだ、これによってかつて私は自殺しかけた」


「それはなに人間だけを殺したくなるってこと」


「あぁそうだ」


「人間以外の妖魔には効かない感じなの」


「そうだろうな、少なくともバアルに効いている素振りはなかった」


「自殺しかけた時はどうやって危機を脱したの」


「私が自殺する前にバアルがグラシャラボラスの首を斧で落としていた。奴は私が殺したとでも思っているだろうがな」


 ふ~ん殺人衝動か……聞くに対象は人間だけに絞られた精神干渉の類か。もう僕にはあの盲目白痴の魔王のせいで精神干渉の類はほぼ効かないし、どうにでもなるかな。エマが首をかしげながら問いかける。


「遅塚さん殺したって、分霊でも殺したの?」


「約束通り話しても良いね。咲世ちゃん」


 グレナババアの放った言葉に対して咲世が頷く。


「咲世ちゃんは救世主なんだよエマだから本体を殺したことがあるのさ、エマ後で詳しく聞かせてあげるから今は黙っときな」


「わかったわよ、お祖母ちゃん」


 咲世、話したんだごまかし方はいくらでもあっただろうに、誠実だね。ポイント高いな~。


「そのふたつはどうにかなるから、相談したいのはもうひとつの能力だ」


 昨晩の一万の軍勢によって放たれた総攻撃を避けた能力あれについて考えてみたが、あれは透明化の先透過だろう自らを世界から透過することであらゆる力を避けたと考えられる。何かしら弱点か対策を見つけないことにはどうしようもないからな。


「どんな能力なんだい」


「多分透過の類だ、僕の攻撃が透かされてしまった」


「どのレベルだい」


「嵐目でも存在を捉えられなかったところを見るにその体、魂さえ世界から透過させているよみたい」


「魂までかい、なら長くは持たなかっただろう」


「そうだね、自由に使えるのなら最初から使っていたはずだ、攻撃を当てる時には解かれていたし、だがそれは力を分けた分霊だからかもしれないんじゃない」


「それはないだろう、力の大小にかかわらず世界に干渉する能力は消耗が大きい長くはもたない、というかあんたの他所津神で空間に干渉して使えなくさせてたり、無効化できる付喪神のいる武器も持っていたろう」


「他所津神は弱ってるから転移以外はあまり……武器は壊れたし」


「何をやってるんだい……」


 グレナがどこからか小瓶を取り出し差し出してくる。


「何これ」


「因果逆転の呪いを込めた小瓶さね、放った攻撃は必ず当たる、運命をつかさどる神でもなければ確実に攻撃を当てられる代物さね」


 小瓶を手に取って眺めてみる、紫の液体が入っている。


「グングニルみたいなこと?」


「そんなものだね、だが三度しか効果はないよ」


「どうやって使うの?」


「あんたの血鏡にでもその液体を注ぎな、呪いの専門家たるあんたならそれだけで使えるようになるだろう」


「ありがと……グレナ婆さん」


「どういたしまして」

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