第二の人生を家族と共に生きる
女月満月(めつき まんつき)
第1話
俺は第2の人生を歩き出した。
とても不思議で信じがたい人生だ。
第2の人生の舞台はパラレルワールドだった。
見慣れた街並みだが、設定がとても違う。そんな世界だった。
ある夜。俺は金縛りにあう。体は動かせず声も出せない。
その状態の中、脳に話しかけてくる存在がいた。
これから実験をする。
パラレルワールドで入れ替わった存在が生きていけるか観察する。
君は選ばれた。我々からの干渉は無い。好きに生きてくれ。開始する。
内臓が全部吹き飛んでしまうような圧がかかる。耐えられなくて気絶した。
目が覚めた。そこは俺の部屋だった。ただし、中学三年の時の部屋。
当時俺は癌を患った母と二人暮らしだった。
小学六年生の時に倒れた母は放射線治療を受け退院できるまでになった。
退院後もパートなどで働いていたが、見ているこちらとしては本調子には見えなかった。
当時のことを思い出し、部屋を出る。
リビングに母はいた。その姿は病気やつれした姿ではなかった。
若々しく魅力的な女性の姿があった。
「たかちゃん、辛そうだよ。大丈夫?」
「頭痛がしてて、少し朦朧としてる」
「大変、救急車を呼ぶから横になってなさい」
「わかった」
救急車が来て脳神経外科に運ばれた。すぐに検査となり様々な検査をされた。
検査後個室に案内された。
個室は追加料金が発生するのにと思ったがなにも言わずにおいた。
頭痛は続いていたが、検査結果は正常という。
この間接してくれた、見渡した中の医師 看護師の中に男の姿は無かった。
頭痛の原因は混乱が続くせいなのか。
心配そうな顔をした母だと思う人が「私のことわかる!」
と聞いてきたが、気を失ってしまった。
目が覚めた時、母だと思う人が俺を見ていた。
「母さんなの?」
「わからないの」と泣き出した。
「なんか、うっすらとしか覚えてないんだ。母さんのことも、それ以外も。ごめん」
「大丈夫だよ。母さんが守ってあげるから」
抱きしめてくれた人を、母なんだと感じた。
俺が十六の時死んだ母との思い出が薄れていた時に、母と呼べる人がいて甘えていいんだという思いがストンと心に入ってきた。
母の死後十年くらい経った時に、もっと甘えたかったと思った。
男らしくを植え付けられてたので甘えることが出来なかった。
「母さん、甘えていいかい」
「当たり前でしょう。なに言ってるの」
俺の脳は母だと認識してないのに涙が溢れた。
これだけでも第二の人生を迎えて良かった。心の中からそう思った。
泣き止んだ後、ゆっくりと母に質問した。
俺の名前は永田 隆。合ってる。母の名も西暦も合ってた。
「男性を見てないのだけど」
答えは日清、日露戦争も第一次世界大戦も第二次世界大戦も激しい戦いだった。
若い兵隊さんはどの軍も壊滅的になり世界的に見て総動員された若者が死んでしまった。
結果、男が少ない世界になった。
全世界的に国の立て直しをしてる中、男の拉致誘拐が多発した。
男は引き籠りになり、不安によるものか短命になっていった。
そんな折、国会で男性保護法が成立する。男性は社会進出しなくてもいい。
義務として精子提供を求める。
男性が過ごしやすい環境を整えるというもの。
数も少なく引きこもり。見かけないわけだ。
「俺も引き籠ってたの」
「中学校に上がってからは引き籠っていたわ。
でも思春期で女性に抵抗感が出てくる間は皆引き籠るものよ」
一呼吸おいて「さっき母さんが抱きしめた時、嫌じゃなかったの」
「嫌じゃない。甘えていいんだと思って嬉しかったよ」
「最近は触れたら嫌がられたのよ」
思春期では普通ではと思ったが、何も言えなかった。
俺が中一の時母の入院に伴って父に兄と二人で暮らすためのアパートを借りてもらった。
数か月後家出した兄はこの世界に存在してない。
代わりに姉がいた。
俺はままならないことに癇癪を起すと姉にあたっていたらしい。
当然姉は俺を極力避けている。
父はどうでもいい人だったので聞いてない。
そんな家族構成だった。
一時的な記憶喪失ということで、もう一日入院することになった。
今後は保護者がついているので自宅観察で済んだらしい。
母はこまごまとしたものを取りに帰った。
精神的疲労が凄くて横になる。
たぶん常識や価値観が違うだろう。俺は順応できるだろうか。
高校に行くこと無く、引き籠る。
その先にどんな人生が待ってるのか。
今の俺には手本も道しるべも無い。不安しかない。
看護師さんが昼食を運んできた。何故かおどおどしている。
「ありがとうございます」と、顔を見て言った。
「はひぃ」と噛んでいた。面白い人だ。
食事は普通の病院食だ。特別美味しくもないが食べた。
母がボストンバッグを持って戻ってきた。
「母さんご飯は」
「食欲がなくて」と言ってバッグからあんパンを取り出す。
「後で食べるから心配いらないよ」
「そう」ぎこちない会話だ。
それも当然だが、家族になって甘えることができるのかなと不安になる。
本当に生きていけるかの実験だなと感じた。
この不安感の中、実験動物としていいようにやられるかよと思えれば良いのだろう。
今の俺は中学生だ。自力で解決する能力はない。
まして、わからないことだらけの世界で。その考えにはたどり着かない。
それでも、第二の人生は幕を開けた。
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