第6話

 各教科の先生と一連のやり取りをするのを楽しみにしていたが、教師同士の情報共有は生徒の思う数倍は早い。ほぼ話した事のない先生も廊下で俺とすれ違う時に「おお、本当に女子になってる」と言う顔をしていた。


 そしてトラブルなく四限目まで終わり。待望の昼休み。

 今日ならイケる。女子とランチしてやる。俺が履いてるのはトランクスなんだけどね。


 その前に購買で昼飯を買わないと。朝飯は抜いてきたから腹が減った・・・


 購買に着く。さて、今日は焼きそばパンにしようか、コロッケパンにしようか・・・とりあえずいつものきな粉餅オレを片手に悩む。


 すると誰かに肩を叩かれる。

 振り返るとそこいは俺より少し身長の高いショートヘアの女の子が立っていた。

 我が幼馴染、蜂谷ハチヤカナデだ。


「おお!ビックリした。どうした・・・・?」


 俺を見て、カナデは信じられないと言いたげに目を見開く。

 あ、そういえば違うクラスの奏は俺の女体化を知らないんだった。


「・・・本当に女の子になってる・・・・しかも可愛い・・・」


 誰に教えてもらったのか、女体化の事は知っているらしい。まあもう学校中に噂が広まっているらしいしな。


「えへへ女の子になっちゃった」

「どういう事・・・?」

「さあ?」


 もうその質問には飽き飽きだ。

 もっと何か面白いクエスチョンを俺は欲している。


「本当に本当に、ハルちゃん?」

「それ以外の何に見えるんだよ」

「ハルちゃん以外の何か・・・」

「ハルちゃんでーす!」


 カナデは俺の顔をジロジロ見つめてくる。

 そんなに見ても男の俺との共通点など見つからないというのに・・・・というかちょっと近いな。


 カナデはそのまま俺の上から下に健康診断ばりに俺の身体を見回した後、スンスンと匂いを嗅いでくる。


 え・・・俺ってなんか変な匂いする?そういえば土井もやってきたな。もしかして匂いだけで判別できるレベルで強い体臭だったか?


 ちょっと心配に感じていると、カナデは突如としてハッと顔を上げる。何かに気づいたようだ。


「・・・そういえば・・・今日水曜日だけどライブやらないの?」

「え・・・??きょう水曜日!?」

「うん」


 俺もカナデの言葉にハッとする。


 ヤバイ。色々あって忘れていた。

 今日は水曜日。週で一番面白いクエストがある日だった。

 中庭でのライブ。俺達のバンドを生徒達に見せつける一大イベントだ。


「ヤバイ!ちょっと行ってくる!!」

「・・・ん」


 部室にギターを取りに急ぐ。

 ヤバい不破の野郎にどやされる。

 いや・・・待てよ・・・ワンちゃんこの姿で泣いて謝れば許してくれるか?

 あいつの好きなキャラのコスプレとかすればなんでも許してくれそうだ。


 急いで階段を登っていく。普段は二段飛ばしくらい余裕なのに、今は一段ずつしかもいつもの半分以下のスピードしか出ない。さらに追い討ちをかけるように頭痛が酷くなり、さらにスピードが遅くなる。


 痛い・・・なんだ・・・これ・・・?


 かなり痛い。本当になんなんだろう。

 頭を抑えた時だった。思い切り足を滑らせる。


 ・・・・・あ!!ちょま!!


 身体がついてこなかったようだ。


 あ・・・死んだ・・・


 フワッと身体が浮わついた後、一瞬で感覚が消える。神様が重力設定ミスったのかと思うほど、背中が後方に加速していく。


「危ない!!」

「ハルちゃん!!」


 聞き慣れた声と知らない声で聴覚が復活する。

 そして同時に背中にドンッ!と衝撃が走った。


 そして静止。痛みはない。

 恐る恐る目を開くと、天井ではなく階段が目の前にあった。


 死んで・・・ない!?

 え・・・助かった・・・・・?


 振り返る。

 そこにはカナデと・・・誰だろう。どこか見覚えのある黒髪ストレートの女子がいた。カナデと並ぶその子は、『凛とした』という言葉が似合いそうな美人さんだ。


「大丈夫ですか?」


 黒髪美人に聞かれる。


「・・・はい・・・大丈夫です・・・」

「そうですか。気をつけてくださいね」


 黒髪美人はそれだけ言ってツカツカと立ち去ってしまう。後ろ姿も凛としている。

 お礼を言おうとするも声がうまく出なかった。足がほっそいからか、少し痙攣している。いつもの身体ならこんな事絶対にないのに・・・・


 カナデが俺の手を握る。心配そうな眼差しを送ってくる。


「ハルちゃん大丈夫?」

「あはは・・・大丈夫大丈夫。足滑っちゃった・・・」


 久しぶりにぶるった。今はないけど、玉ヒュン案件だ。今はもうないけど。

 強がってみるも、俺の足が震えてるのに気づいたのだろう。カナデはまだ心配そうに見てくる。


「大丈夫・・・?」

「大丈夫だって。ありがとな、助けてくれて・・・」

「・・・・ううん」


 奏は小さく頷いて頬を染める。優しい幼馴染を持ったものだ。


「あ、そうだ。これ・・落としてたよ・・・」

「おお、コロッケパン。あざっす!!」


 どうやらこれを届けに追ってきたようだ。本当に最高の幼馴染だ。


 あれ・・・ていうか・・・あれ?


 俺はある事に気づいた。その可愛い幼馴染が俺の手をガッチリ握っている事についてだ。もう何年も触れていなかったカナデの手の体温を俺は今、感じている。


「あれ?手・・握ってる?・・・奏!お前、俺の事、触れるの!?」

「あ・・・本当だ・・・」

「おお!!触れる!!触れる!!」


 ああ、そうか!俺は今女子だから触れるんだ。

 わー・・・奏と手握ったのなんて何年ぶりだ!?


 嬉しすぎて奏の手をこねくり回してしまう。奏も嬉しそうな驚いた顔をするが、流石にしつこかったのか、手をサッと引いてしまう。


 ごめん。ちょっとキモかったな。

 ああ、それよりも部室に急がないと。


 今度はしっかり安全駆け足で部室に急ぐ。

 なんか恐怖なんて一気に吹き飛んだわ。

 最高の気分だ。

 今ので一気にこの身体がプラマイ一億ターブプラスになった。


 

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