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虹うた🌈 

第一章(前編)女神さまのキッス


 青く澄んだ空が、どこまでも続いています。白い雲達が風に乗り、色とりどりに咲き誇る見渡す限りのお花畑の中をゆっくりと流れていきました。


 お花畑の中心には大きな湖があり、まるで鏡の様に青い青い空を写していましたが、風が有るのに不思議と水面みなもに波は立ちませんでした。


 そんな不思議な湖のほとりで、一人の子供が寝ころびながら水面をじいーっと見つめています。


「う~ん、どうしよう…… 一人になんて、決められないよ」


 思いっきり眉毛を八の字にしている様子は、見ているこちらが可哀そうに思えてしまうほどに真剣。


 ……ねえ。君は、何をそんなに悩んでいるの?


 そんな時です。お花畑を搔き分けて、一人の女性がその子へと近付いて行きました。



「―――やっぱり、此処にいたのね。……どう?お母さんにする人は、決められた?」


 その子に声を掛けてきたのは若い女性でした。青空に負けないくらいの空色のローブに身を包んで、優しい陽ざしの下で輝く黄金色の髪が眩しすぎる彼女は、一体誰なのでしょうか?



「あ――っ女神さま。 ええっと……まだ決められていないんです。みんな素敵な人ばかりだから……誰か一人になんて、決められない」


 女性と目が合ったその子は、オズオズと立ち上がりました。


「………そっか。もう直ぐ出発の時間なのに、困ったわね」


 すると女神様と呼ばれた女性も困り顔になって、その子の前まで歩いて行きました。そして視線が合う高さに腰を落とすと、二人で顔を見合わせました。


 どうやら、この困り顔の二人を悩ませているのは、この子のお母さんに誰を選ぶのか問題みたいですね。




「……でもね、女神さま。私…… 一人だけ、とっても気になる人はいるの」


「うん?気になる人って、誰なのかな?」


「うん。あの人……」


 そう言ってその子は、女神様の手を取りながら湖に指をさしました。すると水面に、涙を流しながら震えている一人の女性の姿が写し出されたのです。その女性の腕の中には、一緒になって大泣きをしている小さな男の子の姿もあります。


「うん、あの人ね。あの人のことが気になるのね?」


 女神様に優しく尋ねられると、その子はコクリと頷きます。


「……ねえ、女神さま。あの人は、どうしてあんなに泣いているの?」


「―――うん、あの人はね。大切なパートナーを亡くしたばかりなの。あの人は、そのパートナーを本当に愛していたし、その人はあの男の子のお父さんでもあるのよ。だから彼女は、とても哀しくて不安なのね」


 その女性を心配そうに見つめながら、女神様が負けないでね……と、声を掛けています。


「……そうなんだね。だからあの男の子も、あんなに泣いてるんだね」


「そうね。お父さんがいなくなってしまって、それにお母さんの哀しい気持ちがあの子に伝わって……きっと、あの子も辛いのよ」


 だけれど、女神様の言葉を聞いた女の子は勢いよく首を横に振りました。


「女神さま、違うの!あの男の子は、ただ哀しくって泣いているんじゃないよ!」


 大人しい性格で、普段はあまり自分の気持ちを表に出そうとしなかったその子が、一生懸命に何かを伝えようとしています。そのことに気が付いた女神様は、少し驚いていました。


 ―――きっと、私には見えていない何かが、この子の目には映っている。


 そう考えた女神様は、その子に尋ねてみることにしました。この子の目には、あの男の子が、どのように映っているのでしょうか?


「……そうなの?ねぇ、もしよかったら私に教えてくれるかな?あの男の子は、どうして泣いているの?」


「うん……あのね。あの男の子はこう言っているんだよ。

 ―――僕が守る!ママは僕が守るよ!だからもう、泣かないでママって!」


 その言葉を聞いた女神様は、胸が熱くなるのを抑えられませんでした。


「きっと……そうね。きっと……あなたの言う……通りね」


「うんっ!あんなに小さいのに、あの男の子強いね!強くてかっこいい!」


 だからこそ女神様は、ニッコリと笑ったその子をギュッと抱きしめ、大きく頷いたのです。


「……そうね、かっこいいわね。とってもかっこいい男の子ね」


「うん!ねえ女神さま、わたし決めました!あの人をママにします!」


 その時です。腕の中のその子が、突然そう言ったのです。


 急な決断に驚いてしまって、思わず抱きしめていた体を離すと、女神様はマジマジとその子の顔を見つめました。


「……え?いいの?他にも大勢いるのよ。あなたのことを待っている、優しいお母さんやお父さん達。そんなに急いで決めて後悔しない?出発なら、また今度に伸ばしてもしてもいいのよ?」


「うん!わたし、あのママがいい!あの男の子と一緒に、わたしもあの人を笑顔にしたいの!もし私が生まれたら、ママは笑顔になってくれるかな?お兄ちゃんも喜んでくれるかな?」


 屈託のない笑顔でそう言ったその子の顔には、もう少しの迷いもありませんでした。気が付くと女神様は、もう一度その子を抱きしめて祈る様な気持ちで、おでこにキスをしていました。


「きっと喜んでくれるわ。きっと笑顔になってくれる。お母さんもお兄ちゃんも、あなたならきっと……」


「そうだといいなぁ~ 二人より、三人の方が絶対に心強いもん。それに楽しいよ!

 ママとも、お兄ちゃんとも、わたし絶対仲良くなる!そしてね、いつかみんなで思いっきり笑い合うの!」


「そうね。あなた達なら、きっと素敵な家族になれるわ」



 その子の笑顔に女神様が優しい笑顔を返した時です。辺りに大きなラッパの音が響り響いたのです。




          第一章(後編)へ続く

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