第18話 黄色の魔法少女
「いなばちゃん、」
聞き馴染みのあるハキハキとした声で目を覚ます。
瞳を開くと、そこには横たわる私を見下ろすひびき先輩の姿があった。
「ここは……」
体を起こし、辺りを見渡すと目に入るのは一面真っ白な空間。
しかし、壁や床は一部歪んでいて、グリッチやノイズを吐いている。
『異質』この空間を一言で表すのならその言葉が相応しい。
本当に、異世界にでも来てしまった気分だった。
「ここもまたグリッチ世界の内部みたいね。あの空間からは出られたっぽいけど……」
ひびき先輩は私の問いに対しそう答える。
「ダンジョンみたいな構造ね。本当、個室があって……クリアすれば進められるシステムとか」
そうため息をつくひびき先輩。
ダンジョンか……どちらかと言えば要塞に近いと思うけど。
そんなことを話していると、どこからか「ざけんじゃねぇよ!」と怒声が響く。
口調は荒々しく乱暴だが、この声は幼い少女のものだとわかる。
もしかしたら私達と同じで迷い込んだ人かもしれない。
私はひびき先輩に声をかけると、その声の方へ向かった。
『ひ、ひどい……我はこころの為を思ってだな……』
「必要ねぇって、いらんことするなよ。ありがた迷惑なんだよお前は」
近づく程、そのひどい会話内容がはっきり聞こえる。
鮮明になりつつある後ろ姿はいやに見覚えがあった。
茶色いツインテール、獣の耳の様な髪飾り、セーラー服でやけに長すぎる袖。そして会話相手の金色のステッキ。
その特徴に思わず私は息を呑んだ。信じたくなかった――。
だって、それは私の
「いなばちゃん?」
違う、違う。こんなのは
さっきまで信じていた理想が音を立てて崩れていくのが分かった。
目を逸らしたい。結局私は、くだらない希望に縋ってたかっただけなんだ。
私は、壊れて欲しくなかっただけなんだ。
「あ?」
英雄はギラギラとした金色の瞳を向けてくる。
目の下には青黒い隈があり、英雄のあのオーラは無くなっていた。
「もう来たのかよ……、変に助け呼びやがって」
英雄は舌打ちをすると、そう呟く。
他にも何か不機嫌そうに呟いていたが上手く聞き取れなかった。
いや、私が聞き取る為の思考を放棄していただけなのかもしれない。
「アンタもしかして、
ひびき先輩はスマホで撮っていた写真と英雄の姿を見比べる。たしかに比べてみると、特徴がいくつか一致する。それに彼女の隣に浮かぶ黄色のステッキ……まさか……。
彼女はわざとらしくため息をつくと言った。
「そうだよ。アタシが狼谷こころ。見ての通り、お前達と同じ"魔法少女"だ」
私は思わず息を呑んだ。この子が狼谷こころ。しかも、魔法少女の存在を知っている?
そしてステッキを持っていると言うことは……。
「貴方が……この事件の主犯者」
私の言葉に、狼谷こころは高笑いをする。
それと相反する様に彼女のステッキから声が聞こえた。
『やっと来てくれたか!よかった……本当によかった』
安堵の声をあげるステッキに私は動揺してしまった。
「ステッキが喋った……?」
しかし、思考をする暇もなくフヨフヨと向かって来るステッキは狼谷こころによって振り落とされてしまった。
固いものが落下した、鈍い音が響く。
「るっせんだよ、すだち。黙ってアタシの言うこと聞いとけよ、変身道具のくせに」
狼谷こころの冷たい声色が耳に入る。私に手を差し伸べた時の明るく暖かい声とは大違いだ。
「ちょっとアンタ、いくらステッキでもそれはないでしょう。いくら物だからって、魔法少女のすることじゃない」
ひびき先輩の逆鱗に触れたのか、眉間にシワを寄せ狼谷こころに噛みつく。
「はは、そうやって群れて正義ごっこ。楽しい?アタシは壊れてるから理解できないけど」
次の瞬間、彼女の姿は突如として消えてしまった。
一体何処に行ったの……?
辺りをキョロキョロ見渡すと、次の刹那、狼谷こころ姿は――ひびき先輩の背後にあった。
「……え?」
狼谷こころはひびき先輩の背中に強い蹴りを入れようと振りかぶる。
「ダメ!」
私は咄嗟にステッキで変身をする。
「『ヒーローフィジカル』」
そう唱えると、私の身体から力がみなぎっていきその足が振られる前にひびき先輩を突き飛ばした。
やはり、まだ魔法に身体が慣れてないからか咄嗟に扱うと体力を大幅に消費してしまう。
「へぇ、アタシの攻撃を避けたんだ。案外やるじゃん。」
私はひびき先輩の無事を確認すると、狼谷こころの方へ振り返る。
狼谷こころの手には既に、彼女の体よりも大きな斧付きハンマーが握られていた。
あれで攻撃をされたら、流石に私の魔法でも防ぎきれないかもしれない。
「ねぇ、どうしてこんな事をするの?貴方はそんな人じゃない。正義感のある優しい人だった」
私は狼谷こころにそう言うと、狼谷こころは眉をひそめる。
諦めたくない。まだ信じたい。私は知っているよ、貴方が優しい人だって。
しかし、狼谷こころの返答は私の淡い期待からはかけ離れたものだった。
「知らね、誰それ」
狼谷こころから言い放たれる冷たい一言。
それは私の現像を砕くのには容易。ただ、諦めないと決めた私には無効。
「それでも……私はまだ信じてる。あの時の貴方が、今もどこかにいるって!」
声を張り上げ、高らかに言う。狼谷こころの冷たい眼差しが少し歪んだ。
それでも、私は言葉を続ける。
「私はここに閉じ込められた人を解放して、貴方のことも救ってみせます。皆で帰りましょう」
私は狼谷こころに歩み寄り手を差し伸べるが……。
パチン――。
狼谷こころはそんな私の手を振り払ってしまった。
狼谷こころは唇を嚙みしめ、私を睨んでいた。
「アンタさ、何様のつもりなの。『貴方を救う』バッカじゃないの?」
空間内に響く怒声。冷たく鋭い言葉の数々。
「いいよね。最近魔法少女になった奴は、何も知らないから。だからそんな呑気な事言えるんだ」
狼谷こころはハンマーを振り上げる。
咄嗟に私はステッキを使い、ドーム状のバリアを繰り出した。
案の定、振り下ろされたハンマーはバリアで封じられる。
「自分を守る事しか考えてない。なのに理想ばかり語る。頭がお花畑にも程があるでしょ」
狼谷こころはそう言葉を放つと深呼吸をし、笑みをこぼした。
「どうせアタシも、もう終わるんだ。魔法少女として……最後のお
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