何を優先するかを選びなさい


 

 「悪いね、ゴブリン。我慢すんの辞めるわ」


【身体能力強化】消費した魔法力に応じて全身の能力を強化。

【硬質化】消費した魔法力に応じて皮膚の硬度を上げる。

【魔力再生】消費した魔法力に応じて負った外傷をある程度再生させる。


 立ち上がった身体に力がみなぎってくる。

 奪ったスキルを同時発動。ばかすか殴られた時に手が触れた際に奪いとったスキルだ。

 この3つのスキルはどれもコストに魔法力を使う。

 特に考えずに発動したけれど今の消費だけで合わせて300だ。

 それぞれ100づつだ。


 ただそれだけの消費でもこのスキルの凄さがわかる。

 まずは傷の再生。殴り折られた足も、内臓もほぼすべてが動かせるくらいには治っている。

 硬質化のスキルは握った拳をかちあわせるだけで金属同士がぶつかった様な音が響く。

 

 正直、ゴブリンからはぎ取れるスキルでこんなにも効果が出てくるものなのかと驚いた。

 おそらく魔法力をどれだけ注ぐかで出力が変わるんだろうね。


 目の前で威嚇するゴブリンたちを見て思った。


「なんだ、さっきよりも弱く見えるね」


 力の行使で気が大きくなっているのかな。全然怖くないや。

 とりあえず目の前の敵を倒そう。



 ぎゃいぎゃいと声を荒げるだけで動かないゴブリンたちに歩み寄って、握りしめた拳を脳天に叩きつけた。


 ——パンッ!


 という破裂音と共にその頭がはじけ飛ぶ。

 一撃だった。これが身体能力強化の性能かと、内心震えた。


 恐怖もあるが何より高揚感と万能感が心を震わせた。




 ≪ケンセイ君がレベルアップ! やあ!ようやく感じてもらえたようだねっ!背徳者の権能を!≫

 

 潰されたゴブリンの姿を見て、恐怖か怒りか分からないけれど仲間たちが鳴き声を大きく合唱させた。

 ああ、神様が何か言っているけどとりあえずは後だ。

 今は目の前のこいつらに集中したい。

 

 「ぎゃぎゃぎゃ!!」

 

 1匹のゴブリンが奇声を上げ、こん棒を振り回しながら突進してきた。

 それを皮切りに隠れていたゴブリンたちも一斉に飛びかかってきた。

 

 身体能力強化はあくまでも能力の強化だ。格闘術の達人になるわけではない。

 素人同然のケンカだ。

 よく言えば野性的な攻勢になる。


 飛びかかってくるゴブリンの攻撃を硬質化した腕で防ぎながら、カウンターで右手を顔面に叩き込む。

 右から1匹——防いで殴る。

 左から2匹を躱して叩き潰すように腕を振り下ろす。これで3匹目。

 遠くから矢を放ってくるやつもいるけれど、その矢は硬質化に阻まれて傷もつかない。無視でいいね。

 

 さらに襲ってくる大きなこん棒持ちの攻撃を受け止めて、そのまま組み伏せる。

 喉元に腕を押し当てそのまま体重を乗せてへし折った。


 ≪またまたレベルが上がった!おめでとう!チキン君!≫


 レベルが上がると体が軽くなって感じるのは、ステータスが上昇しているからかな。


 ≪その通り。そして魔法力も最大値まで回復するからだ。レベルが上がり続ける限りいくらでも戦えるわけさ!≫


 ますますゲームみたいだね。でも今の状況なら渡りに船。


 木の上から矢を射ってくるゴブリンに近づきながら道中の個体を潰していく。


 ≪この調子でどんどん強くなってくれたまえよ!うんうん、本当は召喚時点でお友達のスキルとかをガンガン回収してくれたら良かったんだけどね≫


 そんなこと、僕の性格的に出来なかったのわかってたくせに。


 ≪そうなんだよねー。だからさ今、少しはやり易いだろう??今は矜持を捨てて強くなれ、少年≫


 遁走を始めているゴブリンたちを追って、1匹ずつ仕留めて進む。

 言い方は意地悪だけど、それはそうだった。僕自身の考えだけでじゃあスキル盗んで強くなるぞってならないし。

 神様が恣意的に用立てたこの状況になってようやくって感じだし。

 卑怯だけど、何かしらの免罪符が欲しくなってしまうものなんだ。


 ≪そうそう、私が許そう。君の道に最大の敬意と祝福を——なんてな。まあ頑張ってくれたまえよ、かなえたい願いがあるんだろう?≫


 開けた場所に出てみればそこはゴブリンの巣だった。追ってきた数の数倍はいるのがわかる。

 途中から完全に作業になってしまっていた。命を奪っているはずなのに感慨すらない。

 思えば昔もそうだった気がした。

 優しく、臆病で、いじめられっ子の僕。でもその実は存外、利己的な生き物だったのかも。


 迎撃態勢をとって波状的に襲い掛かってくるゴブリンたちを一撃一殺で捌きながらさらに奥へ進もう。


 ≪でなければそんな嫌そうな顔で私に従ったりしないだろうさ。なあ、チキン君≫


 神様がうるさいけれど、その通りだ。

 僕は帰りたい。

 あの世界に残してしまった母さんの元へ、帰りたいんだ。

 でないとあの人がきっと泣いてしまうから。


 何を優先するのか、その時の思いの比重で選びなさい。母さんはそういった。

 自分が後悔しない為に。常に選択して、その責任は必ず取りなさいと。


 

 だからこそ今、僕がすべきことはルーナリアの為にも、僕自身の為にも——強くなることだ。

 


 



 森の奥。ゴブリンたちのねぐらに激しい衝撃音が木霊する。

 幾つも、幾つも連続で鳴り響く。

 

 キリがないって思えるほどの時間殴り合いを続けた。

 森の中はすでに闇。昼間に来たはずなのにもう夜中になってしまった。

 【暗視】のスキルを奪えていたのが幸いしたね。


「っと、そらぁ!……たの、しくなってきたなぁあ!」


 暗闇から飛びかかってきた気配に裏拳を叩き込む。


《スキルを取得——》

 

 数え切れないほどのアナウンスを聞いた。

 ここまでで倒したゴブリンの数は100を超える。そのほとんどから何かしらのスキルを奪っていた。

 確認したいところだけど、正直その時間がない。


「うわっ?!」


 木の上から三体同時に飛びかかられた。 

 うち2匹は叩き落としたけれど1匹だけ、僕の背中に飛び乗って首を絞めてくる。

 戦い始めの頃なら慌てたけれどさすがにこれだけ戦っていれば——


「スキル【魔力発気】」


 スキルを発声発動すれば、自分を中心に魔力で構成された衝撃波が迸る。

 ただ唱えるだけで自動的にスキルが発動するなんて便利だね。


 ≪あー、レベルアップ―……ふわぁああ、君、飽きないねぇ≫


 飽きてるよ!延々と襲ってくるゴブリン!神様が嗾けているんでしょう?!

 ああもう!次から次へと!



 既に何レベル上がっているのかも分からない。たぶん20レベル以上にはなってるんじゃないかな。

 初めは1匹で1レベル。しばらく上がると5匹で1レベル。10匹で1レベルと上昇感覚が変移していった。

 レベルが上がる度に魔法力は最大値まで回復するから無限に戦っていられるね。


 ≪と、ここでチキン君に朗報だ。奴の王様が出てきたよ≫


 ずしん、と森が振動した。

 留めなく襲ってきていたゴブリンたちが波引くように森の奥へと消える。それと入れ替わるように大きな影が現れた。


「ぐおぁぐおぁ!」


 背丈は木ほどの大きさで筋骨隆々。ゴブリンと同じような緑色の肌は硬質で鱗ばっていた。

 肩に担ぐモノはこん棒などではなく巨大な鉄の板——一本の巨剣だ。


 ——ブォンッ

 

 巨剣を一振りして、傲慢で獰猛な笑みを僕に向けた。

 周囲の木々が一薙ぎに倒され、暗闇の森に月明りが降り注ぐ。

 つーっと背筋に汗が伝うのを感じる。緊張感だ。

 

 あのデカゴブリン、アレを片腕で振り回すんだ。

 

 ≪あれはゲームで言うところの、ユニーク個体って奴だねぇ。今の君でも楽勝ではないと言っておくとしよう≫

 

 呼吸を整えて、心を落ち着ける。

 ここ数時間で掴んだスキルの最良の組み合わせを発声発動する。 

 

 「【身体能力強化】【硬質化】【筋力上昇】【脚力強化】【魔力壁】【鎮静】ッ!」


 きっとこいつで最後だ。早く帰って眠りたい。

 

 

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