第8話 新婚生活
――――ヨルとの新婚生活には、幸せな時間が流れている。
「あの……ヨル」
「どうしたの、イェディカ」
ふかふかベッドの上で、ヨルが私にすりすりと腕を抱き付けながら名前を呼んでくる。
やっぱり夫……なのよね。今まで婚約したことも付き合ったこともなし。いきなり結婚なんて、貴族王族なら……まぁなくもないわね。
結婚式すらせずに王命で結婚なんて、ツリーランド王国ではよくあったことだわ。私も元貴族だったし、平民でも借金のかたにいきなり娘を嫁がせるなんてこともよく聞いた話だ。
豊かな国でも、ギャンブルで借金を作ることはあるし、豊かだからこそ物価も高く、借金でも作らなくては生活していけないこともあるのだ。
……あれ、ツリーランドってわりとブラック?いいえ、あの国は元々ブラックすぎたのだけど。
しかし、いきなり結婚生活と言うのは世界的にどうなのか……は、この勇者がやっちまっている以上はシュテアランド王国でもアリなのかもしれない。
結婚したことは何も覆らない。結婚の予定もなかったので別にいいのだが。……つか、別にいいんかい、私。……とは言え他に結婚するようなひともいない。この箱庭ではヨルと2人だけの世界だ。
食事だって1日3食何故か用意してあり、屋内の掃除もクリーニングも完璧なのだ。でも何故かヨル以外の誰にも会わないのよ。その疑問をヨルに直接問うてみれば。
『え、必要ある?』
……瞳孔、開いてたぁ――――。ちょま、この勇者。もしかしてとは思うけど、病んでない?長い封印生活のせいかしら。それとも……もともと?
しかしなぁ。私たち、ずっと一緒にベタベタしながら2人っきりで過ごしているわけだ。
正確にはヨルがベタベタくっついてくるのだ。
そうだ。こう言う時は、押してダメなら引いてみよ!
「ちょっと、離れてくれない?腕どけて。くっつかないで」
――――と、注意してみる!
まずはこの怪力を穏便に私の身体から外さなければ。もし仮に勇者の召喚時基本スペックがレベル30だとしよう。この世界にはレベル制はないのだが、ものは例えだ。そして勇者は召喚された時からスペックが高い。
いきなりジャンピングキックをかませたり、剣をふるって無双できたり。だからレベル30。そしてレベルを順調に上げ、訓練したのがレベル50。ツリーランドの最後の勇者である。
そして仮に魔物退治やら実践訓練を組み、かつてヨルを封じた勇者をレベル100としよう。
そうして考えた場合、長年の封印によってスキルスペックいろいろ爆成長したこの勇者・ヨルはレベル999くらいと考えて……間違いない。この世界にレベル計測システムはないが、多分そう。この勇者はこの世界で最強だ。
世界を支配とか魔王退治に出ていないのが不思議なほどである。因みにこの世界、魔物はいても魔王伝説は聞いたことがない。もしいるとすれば……このヤンデレ最強勇者の源氏名だわ。
だからこそ穏便に引くために離れるところから……と、思ったのだが。
「え……何で?どうして?もしかして俺以外に誰かを……?誰?それ。殺してくるから、教えて。名前と住所」
こ、ええぇぇ――――――――わっ!完全に瞳孔開いてる上に至近距離いぃぃぃっ!!!溺愛も病み具合が重要ね。初めて知ったわ。
しかしながら引けない。引けないのか。ならば、引いてもダメなら押してみよおぉぉ――――――!!!
ぐいーっ。
渾身の力を込めて両手でヨルの胸元を押すのだが、うんともすんとも言わないいぃぃっ!!
「イェディカ」
ぽすんっ
背が柔らかな布に着地し、ベッドに背をつくかたちで押し倒されたのだ。そう、気付いた時にはもう遅い。
ぼすっ。
ひえっ。ベッドにこれでもかと言うような重量で沈んだヨルの掌。目と鼻の先のヨルの瞳孔開いた完全病みすぎ恐怖の顔……!!
これぞ壁ドンならぬ、ベッドぼすっ。全然上手くないじゃない。
この状況全く笑えないし!キュンともしないし!見上げればそこには恐怖の……無。
ひぃ~~~~っ!?私、どこで選択肢を間違ったの……っ!?
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