伊達さんストラッグ!!~戦国系乙女ゲーの伊達政宗に転生した俺は可愛い妹の為にバットエンドを目指す~

海鳴ねこ

天下の空

 

 ――なぜ?


 何故だと男は問う。

 心から愛した女を胸に抱いて、もう目覚めない彼女を抱いて叫ぶ。


 凛と一本の桜が如く佇む彼女はもう居ない。

 包み込んでくれるような空の様な笑顔はもう向けてくれない。

 どんな時でもしっかりしなさいと怒ってくれる彼女は何処にもいない。


 月は今沈んだ。

 誰も無くした月を手に掴むことは出来ないのだ。


 何故?

 何故だと男は滾る。

 ああ、だってそれは――。


 ◇


 時は戦国時代。

 名をはせる男たちが天下統一を目指し駆け抜けた時代。


 ――奥州。

 奥州が独眼竜、伊達政宗が治める地。

 今日は此処で婚礼の義が行われていた。


 皆が祝い酒を飲み、馳走を掻き込み、宴を楽しむ。

 その中心と言っても良い場所。そこには仲睦まじい若き夫婦めおとの姿があった。

 男の方はこげ茶くせっ毛の長髪を後ろで1つに束ねた、竜が如く金色の左目。独眼の男。

 言わずもがな、独眼竜政宗その人である。


 その側には女が一人。

 奥州の竜の嫁となるのは田村家の姫――愛姫めごひめ……。

 ではない。


 亜麻色の髪をポニーテールに。大きな桃色の瞳をした。甘い心地よい匂いがする。一人の愛らしい娘であった。

 彼女の名を花姫。

 豊臣秀吉の義理の妹姫であり、日の本一と呼ばれる美姫びきだ。


 そんな二人が今まさに夫婦となろうとしていた。

 酒を酌み交わし、一組の夫婦として添い遂げようと見つめ合う。

 長い困難の末、彼と彼女はこれより永久に幸せに暮らすのだ――。


「待て!」


 2人が酒を飲みかわそうとしたその時の事だった。ドンっと音と共に扉が開かれ声が上がったのは。

 その場にいた全員が開いた襖を見た。

 目に映ったのは扉の前、一人佇む女の姿だ。


 一見、彼女は誰もが見惚れる程の美姫だった。 

 肩まで綺麗に切りそろえられた栗色の髪。

 雪の様に白い肌に。形の良い卵型の顔。スラリと筋の通った小さい鼻。

 ふっくらと艶やかな唇に、長い睫。

 何よりも、その瞳。空を映しとったか如く蒼い瞳。


 花が来る前は奥州一と、竜の蒼い月と呼ばれ親しまれた毒蛾。

 ――。――。

 政宗が妹、紫荻しおぎがそこに立っていた。


 彼女はその手に刀を握り、花姫を睨む。


「悪鬼め!!」


 ただ一言。高らかに声を振り上げ、地を蹴りあげる。

 一国の姫の行動を周りの者は唯唖然と見つめる事しか出来なかった。

 いや、唯一人冷静に、いつも通りに、身体を動かす。


 唯一愛することが出来た女の為に政宗は刀を抜く。

 それは日ごろ戦好きの妹に付き合わされていたからなのか、女を心から愛していたからなのか分からない。

 ただ頭は真っ白のまま勢いのまま刀を握って振り上げていた。


 辺りが赤く染まる。

 周りが嫌に、甘ったるい匂いが掻き消されるぐらいに鉄臭くなる。


「お、にいさま」


 血まみれの顔で紫荻が零れるような言葉を紡ぐ。

 涙の溜まった蒼い瞳が揺れ、彼女の口からは血が噴き出た。

 崩れ行く身体。誰も支えはしない。どさりと音が響いてあたりに血だまりが出来る。


 紫荻はぼんやりと天井を見ていた。

 辺りから浴びせられる罵詈雑言は耳には届かず。

 身体は痛くもう起き上がれそうにも無い。


 何処で間違えたんだろう?

 何が間違えだったんだろう?

 誰が間違えていたんだろう?


 いろいろな考えが巡り消えてゆく。

 全部全部消えて、彼女の中にただ一つの成し遂げられなかった思いが浮かんだ。


 ――。

 ああ、死ぬのなら。

 この命が燃え尽きる場所は戦場が良かったな――。なんて


 酷く馬鹿馬鹿しく叶わない願いを言葉に、蒼い月は沈むのだった――。



 ◇



『パチン――。なにかがはじけ飛んだ音がした。』

「はい、死んだ!紫荻姫しんだ!バッドエンド!」


 暗転したゲーム画面。そこに映る文字を無視して俺は声高らかに上げる。

 持っていたコントローラーをベッド上へと投げ飛ばし倒れ込む。

 視線の片隅に入った「天下の空」と書かれた乙女ゲームのパッケージを握り俺は歯ぎしりでもする勢いでゲーム画面に文句を垂れる。


「いや、何度やっても、見てもかわいそすぎるだろ、姫!紫荻姫!」


 もしこれが生の実況だったらコメント欄が荒れに荒れていた事だろう。

 生憎俺はゲーム実況者じゃないので俺の文句だけで終わるのだが。


 一瞬画面に悲痛に歪む伊達政宗の姿が映し出されエンドロールへと移ったゲームを見つつ思う。

 本当に何度やってもコレは糞ゲーであると。



 ☆


 さて、自己紹介をしようか。

 俺の名前はマサだ。高校三年生。ゲーム好きのオタク。

 顔は皆から十人並みと呼ばれる程度で特徴的な声を持っている訳でもない。本当に至って普通のオタクだ。


 趣味と言えば、ゲームと。今こんな風に実況のフリをして頭の中で物語口調に話を進める事。

 え?そんなオタクが何故乙女ゲームをやっているかって。


 それを語るにはまず。

「天下の空」この説明をしなくてはならない。


「天下の空」略して天空

 今から三年前に「イケメン!戦国!」とかありふれた謳い文句で発売されたイケメンの戦国武将といちゃいちゃラブラブできるゲームと手始めに簡単に説明しておこう。


 あらすじとしては戦国時代のとある小さな村が織田信長によって焼き払われるところから始まる。

 村の正体は怪しげな妖術を使う忍びの隠れ里だったのだが、そこで信長に仕えていた豊臣秀吉が村人の一人だった女の子を可哀想だからと救い出すのだ。

 十年後。立派な、『くのいち』になった主人公「花」《デフォ名》は秀吉の天下統一の夢の為に各地のイケメン武将の元に忍び込むってのが内容だ。


 ただこのゲーム。ストーリーと言うストーリーが無い。

 忍び込んだ屋敷……。どんな選択肢を選んでも敵武将に簡単に捕まり、そこから何があったのか分からないが一目ぼれでも起こしたかのようにラブラブな展開が訪れる。最初こそ警戒していた武将でも一月も経てば主人公にメロメロだ。

 そして何やかんやあって武将と主人公は結ばれるって聞けばありふれたストーリー。


 しかしゲームをやっているこっちからすれば一体主人公のどこに惚れるか分からない出来。

 コレは俺が男だからじゃない。発売当初から女性ユーザーからも多くの文句が溢れ出ていた問題である。


 とりあえず。本当に武将たちがすぐに惚れる。

 問題が起こり、ふたりで解決した際に好意を抱くとかならまだ分からなくもないが。

 突然デートしてなんか惚れる。主人公が茶を入れたら惚れる。手ぬぐいを渡したら惚れる。一目ぼれを通り越して敵と現れた瞬間に求愛するとか理解が出来ない。最後のは伊達政宗ルートでの一齣だ。

 挙句の果てに逆ハールートなんて物も存在し、攻略キャラ全員と婚儀を――結婚できると言う一妻多夫制の誕生。


 攻略キャラは義兄であるはずの豊臣秀吉から義兄上司の織田信長。

 武田信玄。毛利元就。長曾我部元親。明智光秀。徳川家康迄。

 若い所を言えば伊達政宗。真田幸村。石田三成。直江兼続。そのまた部下の片倉小十郎から猿飛佐助まで攻略できる時代背景如何したとツッコミ殺到のラインナップ。(上杉家はなんかの問題で出せなかったらしく、謙信は死没。後継者は見登場であるが。)

 勿論皆イケメン。豪華声優陣で固められた鉄壁要塞にして糞ゲーオブザイヤーに選ばれた一作が此方である。


 そして何より一番の汚点と呼べる点がある。

 ぶっちゃけストーリーが悪いのはよくある。

 時代背景が酷いとかも戦国物にはよくある事なのだから其処ら辺は仕方が無いと言えなくも無い。

 ――問題は異常なまでに不遇なキャラクターが居る事だ。


 ソレがさっき政宗によって切り殺された政宗の妹。

 主人公と同じくゲームオリジナルキャラクターの一人である《紫荻姫》だ。

 最初は主人公のライバルキャラとして容姿端麗。少し気の強い戦好きの姫。兄を心から慕っていると、ブラコン気質の妹として公式にて紹介された。こんな紹介だからこそ発売前は主人公を邪魔してくる様な嫌な女キャラクターを想像いたのだが、これが大きな間違いだった。

 驚くべきかな。今流行の『悪役令嬢』位置のキャラクターである。


 まず、少しこの強いなど紹介されていたが実際の性格は真っすぐで真面目。

 そりゃ気の強い所は勿論あった。戦前で兄である政宗が間違えた行動を取れば容赦なくその頬を張り倒しは違いを制した具合だ。


 ただ、彼女は基本誰に対しても真面目で優しく芯の強さがある。

 その優しさと言うのがこれまた女子受けの良いモノで。ごろつきに絡まれていた町娘を助け、泣いている子供がいれば何処からともなく駆け付け問題を解決する。

 むしろゲームの中ではどのキャラクターよりも男らしさを発揮し、ゲーム中の女性キャラクター(主人公以外)から憧れの存在として慕われているほどだった。


 まずここで主人公を食いつぶしているのだが。主人公は男に頼りっきりで女性キャラクターからは嫌われていたからな。


 兄の政宗は珍しく普段は冷静クールな寡黙キャラで書かれていたのだが、妹は正反対と言っても良い程の性格だった。


 性格の面で問題点を上げるのなら戦馬鹿。いや、戦闘狂と言っても良いかもしれない。

 10の時に初めて刀を持ち、敵を切り伏せ、勝利。其処から小競り合いがあれば楽しそうに馬に乗り押し掛ける。


 北に戦があれば出向き、南で戦が起これば出向き、海を越えたことも何度もあったらしい。そのくせ実家が何より大切で奥州に何かあれば誰よりも一番で駆け付けて特攻する。そこら辺の男より男らしい「前田慶次」並み。県の腕も確かなものでどこぞのゲームの様に一人で千人切りを達成してしまう程の剛腕。


 嫌だがソコが良い。戦場での紫荻のスチルは数多くあるがどれも狂っていて美しく描かれているほどに。

 普通に主人公を食いつぶさんかのような設定モリモリの準主役だった。


 だと言うのに。

 彼女はどのルートでも必ず不遇な目に合う。

 先程の通り大好きな兄に切り殺されるのは通常。

 同じように攻略対象者に切り付けられ、二度と歩けない身体になったり。

 遊郭に売り飛ばされて梅毒に掛かって死ぬ。

 武将の先で嫁いだは良いが一生座敷牢の中。刀を持つ事すら許されず耐え切れずに自害。etc.etc.


 これが、彼女が悪い事をしたのなら因果応報しょうがないと言えなくも無いが。紫荻は何も悪い事はしてない。

 例えば先程の婚礼の一幕だって。アレが普通の兄の婚儀の邪魔なら切り殺されても可笑しくない場面だったが、じゃあ逆ハールートの一幕であったら?


 沢山の男たちと婚儀を交わした後、最後にのこのこと何食わぬ顔で兄やその部下の嫁の座を奪って行ったら。そりゃ主人公が悪い。魔性の類と間違えられても仕方が無いし、そもそもの話政宗には元々愛姫と言う史実通りの婚約者がいたと言うね。


 そもそも主人公を巡って各地で戦が起こりに起こり、町民が上や疫病怪我で苦しんでいるのに、そこから米を巻き上げて主人公の為に戦をおっぱじめたり、豪華な宴を用いた婚儀を執り行うとか可笑しいとしか言えないだろう。


 紫荻や他の女性キャラクターが苦言を零しても聞きやしない。

 そして我慢の限界が来た紫荻が立ち上がり悲惨な目に合うコレが通常。

 可哀想でしかない。紫荻も他の女性キャラクターも至極真面な事を言っているのに。

 そもそも主人公が現れる前はどう見ても紫荻に惚れていた武将たちが簡単に主人公に鞍替えすのが可笑しい。


 まぁ、政宗切り殺されルートでは何故か最後に政宗が悲痛な顔を見せるから、まだ多少の情はあったのかもしれないが。なんにせよ、この作品では彼女には悲痛な最期しか無い訳である。


 豊臣秀吉なんて実は「紫荻に恋心を抱いていたんだー」とかほざいていたくせに、どのルートでも花にメロメロなバカシスコン兄貴になるし。展開が無茶苦茶すぎて本当にストーリーは糞。


 そして次。

 この紫荻姫なのだが。何より顔が良い。いや、本当に顔が良い。それこそ主人公より断然。

 最初から容姿端麗と書かれているので仕方が無いかもしれないが、とにかく顔が良いのだ。


 主人公が垂れ目の少しふっくらした丸顔のしかしスタイル抜群の――名の通り花のような美少女であるなら。

 紫荻はきりっとした澄んだ蒼い瞳が嫌でも目に入るしっかりとした顔立ちの、スラリとしたモデル体形の其れこそ月を思わせる美女。

 明らかにイラスト上では紫荻の方が美しく描かれているしな。胸が小さいのが残念とか言わない。


 ――ああ、もうめんどくさい。

 ぶっちゃけ正直に言おう。

 俺はパッケージの隅に描かれた彼女に一目で心を奪われた乙女ゲーなんぞ、それも糞の付くやつを買ってしまったと。


 ここ迄長々と語ったが、正直な所。推しが酷い目に合っているからこのゲームは糞ゲーなのである!


 でも彼女に惚れた男は俺だけじゃない。

 日本中にパッケージの彼女の可憐さに目を奪われて乙女―なのを承知なうえで購入した男性ユーザーは数多くいる。そして俺と同じように痛い目を見るという訳だ。むしろ女性ユーザーたちも紫荻の方が可愛いと言いだし、これ実は主人公間違っているんじゃない?なんて言われ。


 ついには製作者の一人から実は紫荻を主人公に造っていたがサブヒロインの声優事情でプロデューサーが花推しに。急遽主人公が変わったと言うタレコミが起きたのだ。


 この結果。二次作品では紫荻が幸せになる話やらモブどもが彼女の身体を良い様に使う作品やらで埋め尽くされ。

 プロデューサーのSNSには随時アンチが湧き、遂には降板。一番可哀想だったのは紫荻と花の声優さんのみと言う散々で終わった。


 ――いや、終わらなかったと言うべきか。

 プロデューサーが降板した直後に新プロジェクトが発表。

 それが、紫荻が主人公の乙女ゲームが開発されると言うもので、之には世の中の紫荻推しが湧きだった。


 そしてそれが去年発売された「蒼月そうつきの空」と言うタイトルの乙女ゲームである。

 何故か現代ものとなり、「天下の空」と同じ顔で同じ名前の戦国武将たちと紫荻が青春ラブコメを贈る作品だ。


 攻略キャラは減り。真田幸村。豊臣秀吉。石田三成。猿飛佐助。片倉小十郎。この5人。

 織田信長とか武田信玄はキャラクターデザインを一新されイケメンキャラからおじ様キャラへと変貌。


 其処ら辺は良い。

 ただ、当初はなんで学園もの?だし。紫荻を酷い目に合わせた武将と恋愛するのは腹が立ったが。

 正直、ストーリーは凄く良かった。男の数だけ多い共通ストーリーばかりの前作と違い。共通ストーリーは殆どなく。其々の全てのストーリーに置いてキャラの良い所、個性が立っており。何より紫荻が可愛かった。

 スチルも絵師が本気を出したのだろう男の俺ですら泣けるほど綺麗で、これぞ神ゲーと言えるレベル。


 いや、神ゲーでも問題だってある。

 一番は何故か花が出てきた事だ。しかも全てのルート。ライバルキャラとして。


 転校生で途中からの参加だったのだが。(今作は豊臣は関係しなくなった)登場して直ぐに、こちらでも男子から異様に愛されモテモテ。紫荻孤立状態。

 学校三年間で特定のキャラと親密度を上げていない勿論ハッピーエンドにはたどり着かない。


 ただバッドエンドに辿り着くと言う事は無かった。

 紫荻は好きな男も作らず。学校卒業後、自由気ままに旅立ち、巡り巡り合った先で本当に好きになった人物と添い遂げた。そんな連絡が政宗の元に送られてきた。という寧ろエンドとしては一番良いエンドとすら思えるもの。


 他のルートの悲恋ルートとか言う奴の方がバットエンドだ。面倒なのでここには書かないが。


 と言うか、ここで重大な秘密が明らかになる。

 実はこの「蒼月の空」は「天下の空」の数百年後の話であり、紫荻や花。武将たち含めた全員が戦国時代からの生まれ変わりと言う設定が隠されていたのだ。


 そして同時に花が前作で異様に異性に愛されていた事実も明らかになった。

 何でも花の「くのいち」の能力。

 信長が滅ぼそうとしていた忍び里の特殊な忍術が、

「他人の愛を奪う」と言う忍術どころか魔術にも似た呪術だったらしい。


 どういうことかと言うと、花は紫荻に呪いをかけ、彼女が貰うはずだった愛情を自分のモノにすると言うのだ。

 だから他の男が紫荻を好きになればなるほど何故か術のせいで花を好きになる。花に愛情を注ぎたくなる。良いところを横からかっさらう呪術。ソレはとても強力な物で解く方法は2つ。


 術を掛けられたものが「死ぬ」か、そしてもしくは「心から愛するものと結ばれる」と、一見したら鼠の国の様な解き方。


 ――ただ、まぁ。実はこのゲームはR18で作られている訳で結ばれると言うのは実は、そう言う事なのだが。


 とりあえず、花が異様なほどに愛される理由はコレで判明した訳。

 だから実際は前作から皆紫荻ラブだったと言う事。

 実に邪魔でしかない。花、まじで要らない存在じゃん。とか世間は盛り上がった。

 前作の汚名を振り払うために入れ込んで来ただろうと思える設定だ。


 何故だか今作の「蒼月の空」略して蒼天では花の能力が下がっており。親密度が高いキャラクターには忍術が聞かないと言う都合の良い設定に落ち着いていたが。


 後余談だが。何故か政宗は血のつながりのない義理の兄になっていたにも関わらず、何故かお助けキャラとして降板していた。紫荻との出会いのシーンをゲーム最初に入れていたのに、そこの伏線の回収もしなかったところも減点するところか――。


「なーんて、文句を言いつつ今からその「蒼月の空」をやる訳なのだが……」


 文句や今までの出来事を思い返し、をブツブツ零しながらも俺は体を起こし次のゲームをセットする。

 今言った通り。このゲームをやる為だ。

 発売されてから、もう一年も経つと言うのに、酷く懐かしい。


 なぜ今この時長々と語りながら名作をプレイするのかだって?

 簡単だ。


「実は遂に戦国物の紫荻が主人公のゲームが来週発売なんだよな♪」


 はい。コレが理由である。それは半月も前から発表されていた事だ。

「天下の空~蒼月の章~」これが来週発売されるからおさらいと言う事で前作たちをプレイしているのだ。

 相変わらず忍術のせいとは言え紫荻に散々酷い目を合わせた男達にはムカつくが、また可愛い紫荻が登場すると思うと楽しみでならない。(R18的に)


 そう言えば次作では遂に政宗が攻略キャラになるらしいが、実は血のつながっていない兄弟の設定を通すつもりらしい。また何か繋がりがあって解明されなかった謎が解けると言う奴なのか。


 まぁなんだって良い。

 はちきれんばかりの楽しみさを胸に、来週発売のまだ見ぬ推しに期待して。

 とりあえず三日もあれば全員を攻略できるな……なんて考えながら。浮かれる頭でボタンを押した。




 ☆



「政宗。政宗!降りて来なさいもう行くわよ!」

「…………は?」


 唐突に幼い“伊達政宗”が目いっぱいに映ったのは正にその時だった。

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