第5話『他の言葉を学ぶということ』

 バベルの塔。


 それが完成すれば、雲の上まで続く塔となる。


 ヒトは、持ち前の技術を駆使して、あの手この手で、煉瓦を積み上げた。


 塔を築くというのは、「ヒトにはなんでもできる。雲の上までだって行けるのだ」という勘違いから生まれた発想だ。


 かみさまは、そんなヒトたちに対し、傲慢な奴らだとして、罰を与えた。


 雷。


 ヒトの言葉は、何千何万の種類へと、バラバラになった。


 すると、ヒトは意思の疎通がままならなくなり、塔の建設は滞った。




 しばらく経って……




 ヒトは、バラバラな言語どうしを繋ぐ方法、つまりは「翻訳」を覚えた。


 そうすることで、ヒトは再び、意思疎通できるようになるので、塔の建設は再開する。


 はずだったが……


 ヒトは、他の言葉を学ぶのに熱心になった。


 それはそれで、良いことなのかもしれない。


 しかしヒトは、他の言葉を学ぶのに、あまりに時間を割き過ぎた。


 やがて……


 ヒトは、塔を築くための技術を忘れた。


 言葉は大切だ。


 だが、それはあくまで目的を達成するための「手段」である。


 やたらめったら他の言葉を知っても、たしかに意思伝達の手段は増えるが、情報量やその質自体は増やせない。


 それは、貨物列車があっても、巨大タンカーがあっても、運ぶものがなければ、さみしいのと同じ。


 単に手段を増やすよりも……


 何を知っていて、何を考えることができ、何ができるのか。


 そっちの方が、大事なのではないか?


 また来週の星期一げつようびでお会いしましょう^ ^

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