第14話 『狩人の影』
秋の風が少し冷たくなったある日、シオンが静かに私の前に現れた。
森周辺の警備をになってくれているいつもの寡黙な彼が、真剣な表情でこちらを見つめていた。
「……人間、森の端に入ってきた」
シオンが短く告げる。
その一言に、胸が少しざわつくのを感じた。
私たちの平和な森に人間の手が入る可能性は、考えるだけで少しだけ不安な気持ちに苛まれる。
「王都の人?」
「いえ、そうではなさそうです」
「それじゃあたまたまここら辺を通りかかっただけかな、旅人なのか狩人かもしれないね……これはみんなの安全を守るために、警戒を強めなきゃ」
私は深呼吸をしてシオンの肩に手を置いた。
「教えてくれてありがとう」
彼は無言でうなずいた。彼とのやり取りは短いがその分お互いが通じあっている感じがして心地が良い。
シオンのその静かな眼差しには、私たちの生活を邪魔はさせない、というような強い決意が宿っている。
すぐにリュカや他の仲間を呼び集め、森を守るための対策を相談することにした。
フクロウの魔物のリュカは夜の森について詳しいだけでなく、この森のあらゆる道を知り尽くしており、冷静に森の地形と巡回ルートを確認し、私たちに的確なアドバイスをくれる。
「森の端から深く進まれないよう、警戒のポイントをいくつか設けましょう特に水辺や見通しの悪い場所に注意が必要です」
リュカの提案に、シオンも短くうなずく。
彼は既に森の外れで人間の足跡や痕跡を見つけており、その動きから、侵入者の行動パターンを理解しているらしい。うちの魔物達スゴすぎる……!
そんなこんなでリュカとシオンの助けを借りながら、森の外れに警戒ポイントを設けることにした。
リュカが「夜間にはこちらのルートを巡回するのがいい」と冷静に提案し、シオンも手短に「……ここは自分が」と静かに言いながら、巡回ルートを見定めていく。
「メル、リスたちと一緒に日中の見回りをお願いしてもいいかな?」
「うん!任せて!ちょっとでも怪しいことがあったらすぐに知らせるよ!」
メルもほかのリスたちもやる気をみなぎらせている。
ポルカも「食べ物の保存場所も守らないとね」と言いながら、巡回に必要な補給品の準備を進めてくれる。こうして、仲間たちが一丸となって森の安全を守る態勢が整っていった。
その夜、リュカが静かに夜空を飛びながら見回りに向かい、私はシオンと一緒に森の安全ルートを歩いた。
月明かりの下で巡回を続けるリュカの影が木々の間を移動するのを見て、心強く感じる。
「……これで、しばらく安心できる」
シオンが小さな声でそう言うのを聞き、私もうなずいた。
寡黙ながらも信頼の置ける彼の言葉に、安心感が広がっていく。
翌日。メルやリスたちが日中の巡回を行ってくれたおかげで、人間の気配はすっかり途絶えていた。
どうやらリュカやシオンの警戒のおかげで、狩人たちは森に迷い込み、再び近づくのを諦めたようだ。
「聖女さま、これでひと安心だね!みんなで守れたおかげだよ」
メルが嬉しそうに言うと、ポルカも笑顔で「本当に、これで安心だ!」とうなずき、仲間たちが協力して森を守り抜けたことが誇らしげに見える。
夕方、皆で焚き火を囲んでほっと一息ついた。
ティオがリュカに向かって「やっぱり頼りになるな、リュカ」と笑うと、リュカも控えめに微笑みながら答えた。
「夜の警戒は私に任せてくれればいいさ。みんなのおかげで、スムーズに守ることができた」
一方、シオンも小さくうなずきながら、森を見守るその目には真剣な意志が宿っている。
こうして皆がそれぞれの役割を果たし、森の安全を守ることができた。
自分たちで築いたこの「家」を守り抜くために仲間たちと協力することができたことが、私は何よりも誇らしく、そして彼ら仲間たちのことを頼もしく感じた。
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