殺意強めの悪虐嬢は、今日も綱渡りで正道を歩む ※ただし本人にその気はない

嵐華子@【稀代の悪女】全巻重版

1.殺意衝動には忠実に①

__ドドドドドドドドド。


 密閉性を高めた地下室に、水が満たされていく。水は壁に描いた魔法陣から、滝のような勢いで流れていた。


「た、助けて、ゴルレフ嬢……」


 部屋の中央に設置した、人が数人入れそうな檻。その檻の中には、助けを求めて震える令嬢が1人。


 ピンク頭に緑眼の令嬢が助けを求めるのは、これから自分の起こす殺人に心を躍らせている……私。


「ふふふ、チムニア嬢。このままだと死んでしまうわね?」

「お、お願い! 私が関わっていたわけではないけど、もう私と仲良くしている令嬢達には、あなたを貶めたりしないようきつく言い含めるから!」


 そう。チムニア嬢は随分と長い間、私を蔑み、貶めてきた。


 と言っても、これまでに彼女が自分の手を直接的に汚す事はなかった。せいぜい取り巻き令嬢達を、言葉巧みに誘導した程度。


 私の物を隠すのも、歩く私の足を引っかけようとするのも、私を校舎裏に呼び出して集団で罵るのも、ありもしない下世話な噂をでっち上げて流すのも、全て取り巻き令嬢達が自主的に行っていた。


 もちろん私に実害を与えられた令嬢は、いなかったけれど。


 自分の手を汚さないやり口には、むしろ感心していたのに……。


 結局、最後は自分から私に危害を加える事を選んだ。残念ね。


「そうなの?」

「ええ! だから……」

「じゃあ、死んで証明してちょうだい?」

「……は?」


 せっかくの可愛らしいお顔が、呆けたような間抜け面になってしまう。


 これも残念。チムニア嬢の可愛らしい、物語に出てくる正ヒロインのようなお顔は気に入っていた。


 返り討ちに合えば自分が死ぬかもしれない覚悟まではしなかったのね。他人に死か、それに近い暴行を与えようとしておきながら。


 浅はかなところもまた、可愛らしい。


 自分達の膝下まで満ちた水に、ツイと視線をやる。


 私は動きやすいズボン。けれど貴族令嬢らしい出で立ちのチムニア嬢は、水を吸った裾が絡んで、動く事もままならないはず。


 檻から離れ、扉近くの机に鍵を置く。


「檻の鍵は、ここに置いておくわ。もちろん固定もしない」

「自分ごと閉じこめるつもり!? わかったわ、やっぱり脅しなのね! お望み通り、もう何もしないであげる! だから早く水を止めなさい!」

「ふふふ。勝算ありと踏んだ途端に強気になって。お茶目な人ね」


 鍵を開けたとしても、既に扉は水圧で開かない。それこそ魔法でも使って穴を開けるか、水で満たされた後でなければ。


 魔法が使えないなら、水で満たされた後でも開かない可能性もある。気密性を高めるのに、かなり重厚な扉にしたもの。


 そんな恐怖の中で、冷静に呼吸を止めて対処できるかしら? きっと無理ね。


 想像するだけで……笑いがこみ上げそう。





※※後書き※※

ご覧いただき、ありがとうございます。

カクヨム・魔法のiランド企画に参加中です。よろしければフォロー、レビュー、応援、コメント下さいm(_ _)m

1話1,000文字程度の全8話。1日2話ずつ投稿予定です。

そのうち長編にしようと考えてますが、ひとまず短編で完結します。

以前、サポーター限定記事にて投稿したやつを加筆修正しています。

あらすじがまだの方は、ご覧いただくと話の筋がわかるかと。


こちらもよろしければ↓

◯《書籍化、コミカライズ》稀代の悪女、三度目の人生で【無才無能】を楽しむ

https://kakuyomu.jp/works/16816927863356796443

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る