第5話

――ノーク視点――


「なぜだ!!なぜ誰もこの僕の誘いに乗ってこないのだ!!」


リストに載っていた貴族令嬢に宛てて、かたっぱしから誘いの手紙を送ったというのに、成果と言える成果は全く上がっていない。

…このままでは、僕の言っていたことが間違っていて、アルシアの言っていたことの方が正しかったという事になってしまう…。


「…仕方ない、こうなったら多少手荒な真似をしなければならないか…」


…そう思った時が、僕に最後の一線を越えさせてしまった瞬間だった…。


――――――――


「さて、ノーク。お前には正当な貴族家の使命遂行を妨げたという罪が明らかになったわけだが、何か申し開きすることはあるか?」


…次に僕が公の前に姿を現すことになった時、その場は婚約式典ではなく僕の事を裁く即席の法院だった…。


「ち、違うのです法院長様…!僕は本当に、ただただ純粋な思いから彼女たちに恋文を送っていただけなのです!そこになにかやましい思いがあったとか、そんなことはなにもないのです!!信じてください!」

「ほぅ」


…僕の言葉に少しうなずいてくれる法院長様。

しかし、その雰囲気は僕がそう言う事をはじめから分かっていたかのようなそれだった。


「ではノーク、お前は以前婚約関係にあったアルシアの事を一方的に婚約破棄したらしいな。その時彼女に向けて言った言葉が明らかになっているわけだが、覚えているか?」

「!?!?」


…なにか証拠を出されることは分かっていたが、まさかアルシアとのことを詰められるとは想像していなかった…。


「い、一体何のことだか…」


…悪手なのはわかっているが、僕にとってアルシアに屈することほど屈辱的なことはない。

ここは多少自分の立場を悪くしてでも、少なくとも自分の方が彼女よりも立場が上であることを誇示しなければならない…!


「アルシアなど、記憶するにも足らない婚約者でしたから…。印象もあまり残っていませんね…。何を話したか、なにをされたか、どんな時間を過ごしたか、印象がありませんので…」

「そうか、それならば話しが早い」

「…??」

「それだけ印象が薄いというのは、お前が彼女の事をきちんと愛していなかったなによりの証拠ではないのか?そしてその関係を嫌に思ったお前が、他の婚約者をあぶりだすべく今回のような事をしでかしたということではないのか?」

「そ、それは!?」


…アルシアの立場を下げるはずが、思わぬ方向から詰められてしまう。

こうなることは想定していなかったため、言い訳の言葉がなかなか頭の中にでてこない。

そうこうしている間にも法院長様は自身の言葉を続けていく…。


「ノーク、お前は自分の立場を過信しているようだな。お前は何かあるたびに自分の事を王宮に仕える崇高な存在だと言って回っていたらしいが、はっきり言ってそんなものはない。お前はアルシアの事を、いくらでも代わりがいる存在だと言ったらしいが、それはお前にこそふさわしい言葉だ。お前の存在は何も特別なものではなく、その仕事内容は決して崇高などと言えるものではない」

「お、お待ちください!僕は今だって王宮に仕えているのですよ!その僕に対してそんな言葉を言うのは、王宮への冒涜という事に」

「それも問題ない。なぜならお前はもうすでに王宮を追われているからだ」

「なっ!?!?」


…ど、どういうことだ!?

そんな話は僕は全く何も…!?


「王宮側は、お前の事を必要などとは全くしていないという事だ。お前はその事をアルシアに誇示し続けてきたらしいが、やはり最初からそんなものはなかったという事だ。よくわかったか?」

「う、うそだ…。僕はなにも…。嘘だ…」


だって、おかしいじゃないか…。

僕は本当に、次期王様に好かれるほどの素質を持っているんだぞ?

声をかければどんな女性だって僕に振り向くんだぞ?

それほど位の高い僕が、あんなアルシアなどとの婚約で釣り合う立場なわけがないじゃないか。

それをそのまま正直に言っただけなのに、どうしてここまで責められなければいけないんだ!!


「…ノーク、もうお前に居場所などない。そもそも今回の一件、お前は王宮から不当に入手したリストを使って不埒をはたらいたそうじゃないか。そもそも、そこに同様の余地など一切ない。せめて自分の罪を自分で認めるのならまだ考える点もあったかもしれないが、お前はいまだにアルシアの事をさげすんでいる様子…。これでよくわかったよ、どちらが正しかったのかがな」

「………」


僕はなにも間違っていない…。

全ては僕を中心に回っているはずなのだ…。

それを理解できないのは、アルシアだけだと思っていたが…。

それ以外にもたくさんいるという事か…。


――――――――

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