第115話 アパート

 「このアパートよ」と五階建ての賃貸マンションの前で朱良が言った。


「聞いていたアパートと違います」と絵里。


「誰に聞いたの?」と朱良。


「友里というピアノの知り合いです」と弘美。


「ああ、蓮を追いかけまわしていた女の子ね」と朱良。


「はい」と弘美。


「あれから引っ越したのよ。狭かったから」と朱良。


「そうだったのですか」と弘美。


「残念そうね」と朱良。


「そんなことありません」と弘美。



 三階の部屋の前で朱良は鍵を開けた。ドアを開けて、弘美と絵里に「入って」と言った。


 三人は玄関で靴を脱いで上がった。入ってすぐのダイニングキッチンで、弘美は持ってきた洋菓子を朱良に渡した。


「ありがとう」とお菓子を受け取りながら朱良が言った。「弘樹はまだ寝ているようだから、静かにして。」


 弘美と絵里は頷いた。


 朱良は荷物をおろすと別の部屋のドアに近づきながら、弘美と絵里に手招きした。


「この部屋で寝てるから」と朱良は軽くノックをしてドアを開けた。


 部屋の中はカーテンが引かれていて薄暗かった。奥にダブルベッドが置かれているのが見えた。朱良が部屋に入って、弘美と絵里に再び手招きした。


 弘美と絵里が部屋にそっと入ると同時に、ベッドで寝ていた人物が体を起こした。蘭だった。続いて蓮が目を覚ました。蓮と蘭に挟まれて、弘樹が寝ていた。


「どうしたの?」と蘭が立ち上がりながら言った。裸だった。


「弘樹の世話を交代するわ」と朱良。


「そうじゃなくて、この二人よ」と蘭。


「お見舞いに来てくれたのよ」と朱良。


「寝室に入れなくてもいいでしょ」と蘭。


「お見舞いは口実で、この二人はわざわざ弘樹の生活環境を見に来たのよ」と朱良。


「だからって、私たちのプライバシーを侵害しなくてもいいでしょ」と蘭。


「弘美ちゃんは弘樹の婚約者なのよ。隠し事はよくないわ」と朱良。


「私はプライバシーの話をしているのよ」と蘭。「相変わらず、姉さんの言ってることは訳が分からないわ。」


 蓮が寝ている弘樹を抱き上げて、朱良に渡した。蓮と弘樹も裸だった。


「ごめんなさい!」と弘美は頭を下げた。「蓮さんと蘭さんが弘樹お兄さんと一緒に寝ているなんて知らなかったんです。本当にごめんなさい!」


「大きな声を出さないで」と朱良。「弘樹が目を覚ましてしまうわ。恥ずかしがるから面倒よ。」


「私たちはシャワーを浴びてくるわ」と言って蓮と蘭は部屋を出ていった。

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