第89話 挨拶

 弘樹が一番大きな化け物を倒したのち、電話での通信が回復し、何人かの携帯電話が次々と鳴り始めた。


 本部や警察、途中で別行動となった隊員、常設隊の斉藤などからだった。状況整理のために小一時間ほどがかかった。その間、弘樹は別室に移されて横になっていたが、会議だからと起こされて裃を着せられた。


 体調が悪いうえに化け物と戦わされたおかげで、弘樹は真っ青な顔をしていた。美津子の前に引き出されて、挨拶をさせられた。


「当道場の当主、風見弘樹でございます」と弘樹が手をついて挨拶をした。後ろには正一、仁美、蓮と蘭が正装で並んでいた。


「私は竹田美津子といいます」と美津子。「化け物を撃退してくれてありがとう。あなたと道場の皆さんがいなければ、私たちはみな無事ではなかったはずです。」


「私が望んだことではありませんが、致し方ありません」と弘樹。


 正一が弘樹の袖を引っ張った。「これ、どういたしましてと答えるんじゃ。」


「どういたしましてと、前当主が申しております」と弘樹。


「体調が悪いのに挨拶に出てきてくれてうれしいわ」と美津子。「あなたにどうしても直接お願いしたいことがあるの。それが済んだら休んでください。」


「どのようなことでしょうか?」と弘樹。


「私をここで匿ってほしいの」と美津子。


「それは無理でしょう。ここはそう長くはもちませんから」と弘樹。


「あなたがいても?」と美津子。


「こちらの手の内が知れてしまいました。次は対策をしてくるはずです」と弘樹。


「朝まででいいわ。明日の朝、迎えが来るの」と美津子。


「誰が来るのですか?」と弘樹。


「常設隊です」と美津子。


 弘樹が困った顔をした。「他には来ないのですか?」


「本部が救援隊を組織中です」と美津子。


「わかりました。今となっては我々にも逃げ道はありません。門人にけが人が出ない範囲でなら、できる限りのことをします。何ができるかは、道場の者たちと相談をさせてください」と弘樹は言って振り返り、正一を見た。


「後はわしらが話し合っておく」と正一。


「ご当主様、ご親切に感謝します」と美津子。


「体調がすぐれないので、わたくしはこれで失礼します」と弘樹。「後は前当主に任せますので。」


 弘樹は仁美に付き添われて退室した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る