第62話 試合

 試合の場所は郊外にある材木置き場の空地だった。関係者のみが立ち会うことになっている。朱良サイドには校長の北山、教頭、東山皐月、高木葉子などの学園の関係者と正森ネットワークの監視役二人、それに弘樹と蓮と蘭。


 朱良は紺の袴に白い上衣、額には亀甲の家紋を染め抜いた濃い柿色の鉢巻。安東勇一は金色の地に龍柄のリングパンツに黒い手袋。小学校の体育館ほどの広さのある広場の両側から互いの関係者が近づいて、顔の見える距離に来て止まった。そこから先は、対戦相手と介添え人のみが近づいて挨拶する、という申し合わせだった。


 安東は背の高い介添え人と近づいてくる。朱良は弘樹とともに中央に進んだ。四人は広場の中央で手の届く距離まできて立ち止った。


「姉ちゃん、今日はよろしくな」と安東。


「こちらこそよろしく」と朱良。


「悪いけど、手加減はしないぜ」と安東。


「お手柔らかに」と朱良。


「坊主がセコンドか。本当にお前、この姉ちゃんの同門だったんだな」と安東。


「うん。がんばってね、おじさん」と弘樹。


「ありがとうよ」と安東。


「そろそろ時間だ、始めようぜ」と安東。お互いに20メートルほど離れて正午の時報とともに闘いを始めた。


 先手を取ったのは安東だった。外法と呼ばれる技を始めから使った。一瞬で間合いを縮め、連続技を放った。


 朱良は技を使うことなく、すべてをかわした。安東の技は途切れることなく続いた。相当の使い手であることは確かだが、朱良はすべて読み切ってかわし続けた。


 安東の技の途切れた一瞬の隙に、突きをみぞおちに入れ、さっと身をかわした。安東がどさりと倒れて勝負がついた。その間、三十秒ほど。あっけなかった。朱良は一度も流儀の技を見せなかった。力量の差は一目瞭然だった。

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