46話 黒木さんがこわい
「わたし、い、妹さんのおかげで……ク、クラスの友達、できたので……その分くらいは、DMで言ってた……その、舐めるとか……」
「あ、あー! この本読んでみたかったんだー!!」
◇
「……お姉さんに、命ごと助けてもらったので……そ、そういうグッズ、どんなのでも……」
「うん! おもちゃは初心者には早すぎるから! だからそのお店リストしまおっか!!」
「そのかばんの中に……」
「うーん、ちょっと初心者には難しいかな! また今度ね!」
◇
「………………………………」
「さりげなく脱ごうとしないで? またカゼ引いちゃうよ?」
◇
やばい。
なにがやばいって、黒木さん……覚悟決まりすぎてる……!
この子、普段は仲の良い友達と話すのすら目線外してるのに、今日来てからは1回も逸らされてないんだ。
ていうかたぶんこれ、最初に脱ごうとしてたときにメガネさん取っちゃってるから、手元以外良く見えてないってのがあるんだろう。
だから、このつぶらな瞳で僕のことをじっと見ていられるんだ。
まぁ見えてないだろうけど……極度の近視だって前に言ってたし。
今も、しょうがなくって感じで読んでるご本を10センチくらいのところまで近づけて読んで……ちらちらこっち見てるし。
……この子、普段なら最低でも50センチくらい人から離れるのに、今日来てからほとんどずっとぴったり張り付いてきてるんだもん。
やばい。
カゼのときとは違って健康的な匂いがしてやばい。
ジャンガリアンハムスターの匂いがする。
それに案外に体重あるっていうか、身長に応じた体重でも載せてこられると普通に良い感じに密着するし柔らかい体が感じられてやばい。
やばい。
やばい。
飼い主たる僕に全幅の信頼を寄せてぐたーっとしてきてるハムスターのあの感じを擬人化したそのものだ。
しかも相手は積極的に求めてきてるって分かってるから理性のフタがはじけ飛びそうなんだ。
『存外に粘るな』
当たり前でしょ!?
この子、黒木さんだよ?
この子を食べちゃったら……明日からぜっったい気まずいんだよ!?
そりゃそうだよ、学校で親しい友達のお姉さんとえっちしちゃったとか、この子、冷静になったら絶対耐えられないもん。
なんなら話とかできなくなって疎遠になる可能性すらあるんだ。
それはまずい。
それは嫌だ。
僕の平穏で心温まるハートフルな高校生活を、たった1度の過ちで破壊したくはないんだ。
もし食べちゃったらだよ?
仮にもしだよ?
……そうしたら他の子も食べないといけなくなっちゃうじゃん!!
『その思考回路が理解できぬ』
「……お姉さん」
「うん、何かな? えっちなこと以外なら聞くよ? ほら、僕、今は読書モードだから! 続きが気になるときに別のことするとか君も嫌でしょ?」
「え……あ、はい……」
よーし。
この子の性格は知り尽くしてるから、こうしてさくっと思考誘導できるのはありがたい……っていうかそうじゃなければたぶん今ごろ我慢できないくらい迫られてて食べちゃってた。
危ない危ない。
やっぱり普段の行いが大切だね。
『うむ、実に大切である』
でしょ?
「――――――あ」
?
黒木さんの声のトーン、下がった?
「………………………………」
うん、きっと気のせいだ。
ジャンガリアンハムスターみたいにきゅうきゅう鳴いてる子が、今みたいな声出すはずがない。
うん、きっと気のせい。
空耳ってやつだ。
「……お姉さん」
「あと30分、や、1時間くらいかなー!? それが終わったら」
「お姉さん」
どんっ。
胸を、手のひらで押される感覚。
悪意のあるものじゃないって無意識に判断し、抵抗しない僕の体。
「え? ……あっ」
……とさり。
背中が柔らかいベッドに軟着陸。
持っていた本が、ぱさりと落ちる音。
「……え?」
「………………………………」
え?
僕は周囲を見回す。
――2人で並んで座ってたはずのベッドに、どうやら僕は膝から上で仰向けになっている。
だって天井が見えるもん。
――ぎしっ。
僕の腰のあたりでベッドが凹む感触。
「お姉さん」
そして――部屋の明かりを背負っているせいで、顔がまったく見えなくなってる黒木さん。
――のしっ。
「え、ちょ」
あーだめだめえっちすぎます!!
僕のおまたの上に君のおまたが違う違うまたがられてるだけだからそこまで妄想しない。
……けど、え?
「お姉さん」
僕に馬乗りになった彼女が――ぐっと、顔を近づけてきて。
「――――――そのチョーカー。 だれの」
「ひゅっ」
『恐怖』
あ、やっば。
そういやこれ、学校でもしてたんだった……!
『命を守るためとは言え恐怖を覚える』
補整下着は見えないけど、チョーカーは普通に見える。
そしてこれは目ざとい紅林さんに見つかっていろいろ聞かれて、そのときにこの子も居た。
「女?」
「ぴゅっ」
「――銀藤さんも。 ――――――ダレカの、モノ?」
「 」
こわい。
普段は光ってくれるはずのメガネのない彼女の瞳には、光が差し込んでいない。
普段は周りを怖れてシワの寄ってる眉間やぎゅっと結んでるお口が、今は脱力していて表情が消失している。
「男?」
「 」
普段はおっかなびっくりで、発言することすらためらう彼女が――一切の逡巡もなしに、喉の力すら消失し、ただ問いだけを発している。
「あれは、全部嘘?」
あれってなんのことだろうなー。
……だめだ、心当たりが多すぎてどれのことだかさっぱりだ……!
そして、女の子との数々の修羅場を経験している歴戦の勇者たる僕は、よく知っている。
女の子がこういう質問してくる時点で、女の子はその「嘘」について――肉体的には女の子でも中身は男な僕にはどうしても獲得できなかった第六感……すなわち「女の勘」で、全ての決着が事前についている。
ゆえに、下手な返答は致命傷をさらにえぐる。
けども適切な返事ができないと致命傷に指を突っ込まれる。
つまり?
僕はもうおしまいだ。
「――お姉さん」
腰から体重を落としてきて――ふとももにおへそのした、ろっ骨、胸を1か所ずつ僕に押し付けてきた彼女は――最後に顔を、彼女の吐息が僕の唇にかかる距離にまで近づいてきて。
「本当のことを――――――」
彼女の長い髪の毛が、僕の上にをわりふわりと包んできて――。
「へっ……」
「へ?」
「――くちっあ痛ぁ!?」
「み゛っ!?」
――ごんっ。
彼女の、長い前髪が僕の鼻をくすぐったもんだからこらえきれなくって……思いっ切りくしゃみしながら、おでこ同士が正面衝突した。
◆◆◆
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