33話 白鳥さんと爆弾発言と百合 1

「銀藤さん。 そっちのプリント、揃えた?」

「むぇぇ……」


「ありがとう。 じゃあ次はこれね」

「むぇぇ……」


「銀藤さんって、こういうのに慣れてる私より手際が良いのよね。 すごいわ!」

「むぇっ!?」


学校って理不尽だよね。


そんなわけで今日も、たまたま廊下歩いてたって理由で担任にドナドナされた僕は、自主的にお手伝いしてる白鳥さんと一緒に先生とか生徒会しか使えない狭い部屋で仕分け作業。


……白鳥さん、学級委員長じゃないのに、もう事実上の委員長だよね……本物の委員長は「私が委員長なのに……先生からも見捨てられた……」って肩落としながら帰っちゃったし……不憫に。


「……話は変わるけど。 銀藤さんって、強いわよね」

「むぇ?」


「だって、ほら。 私が遅刻して怒られてた教室で、怒ってる先生と座ってるみんなの中で、手を上げたんだもん。 人と話すの、ちょっと苦手なのに」


あー、そういやそんなことあったねぇ。


あと、こういうときに「ちょっと」とか配慮できる君が好き。


中学までなら速攻で攻略してたね。

かわいいしおっきいし良い子だし。


「そりゃあ、話し下手……っていうかあがり症?なせいでたどたどしかったけど、それでもちゃんと言いたいことは分かったし。 なにより、一生懸命説明してるもんだから、最後の方は先生も真剣に聞いてたわよ?」


「むぇぇ……」


分かる。


ジャンガリアンハムスターたちとか黒木さんとかが、好きなこととかについて一生懸命、つっかえながらも早口で、真剣な顔して説明してくるときとかは本当にかわいいし。


社会に出ても、営業って意外と話し下手な人が成績よかったりする……ってのは自信ありげな前世の僕の記憶。


……なるほど、前世の僕は黒木さんを男にした感じか……。


けど、ああいう子たちって、趣味とかに興味示して話聞いてあげるだけでちょろいからおつまみにちょうど良――こほん。


「だから、かな」

「むぇ?」


やば、つい前世の記憶に引っ張られてた。


なにが「だから」なんだろ?


「銀藤さんみたいに話すのが得意じゃない子とでも、他の子たちが話しかけるようになったのって。 ちゃんと話聞けば、その子らしい答えが返ってくるって、分かったから」


……いやいや白鳥さん、君、ちょっと本当にいい子すぎない??


他の生徒たちなんて絶対そんなこと考えてないよ?

「なんとなく話しやすくなったから」とかそんなノリだよ?


「私もね。 たとえば……紅林さんみたいな子って、どうせ遊んでるんだろうって決めつけてた。 プリントの提出期限とか守らないし、廊下は走るし、緩い校則でもダメなアクセとか香水とか付けてきたりするし」


そうね、紅林さん自身はしないけど、紅林さんの取り巻きさんたちはしてたね。


「でも、ちゃんとお願いすれば分かってくれるって思って、お願いして……本当に、ちゃんと分かってくれたから。 『白鳥さんは委員長じゃないでしょ』とかも言わなくなったの」


ギャルとかって、舐めた相手にはそんな感じだよねぇ。


1にも2にも上下関係、派閥が絶対。

だからカースト制と完璧に相性が良いんだ。


「やっぱり、ちゃんと話すのって大切なんだなって。 相手とコミュニケーションを、相手と合わせてするのが大切なんだなって、高校生になって初めて知ったの。 それは、銀藤さん、あなたのおかげよ」


優しい顔をさらに優しく笑う白鳥さん……え、ちょっと、この子天使とかじゃない?


天使とかの生まれ変わりじゃない??


ほら、おっぱいでっかいし、前世があるのは僕で実証済みだしさ。


「……って褒めすぎると銀藤さんは困っちゃうって知ってるから、このへんにしておくね」


「……むぇぇ……」


ああよかった。


このままだったら僕、天使の後光で干からびるところだったよ。


いや、僕の中の卑しさを直視させられて灰になってたかな?


「……で、話は変わるんだけどね」


とんとん、と、終わったタスクの束を抱えた彼女が、それまでとおんなじ口調のまま、おんなじ顔のままで聞いてくる。


「銀藤さん。 同性を好きとか、どう思う?」

「むぇ……?」


「つまり、銀藤さん的には『女の子が好きな女の子』って」

「むぇ」


ゑ?


なんでそうなる??


「ほら、今週の保健の授業でLGBTとかの話があったじゃない?」

「……あぁ、なるほど……」


彼女が次のタスクの束を渡してくる。


そのプリントには確かにその授業での小テスト。


……ていうか、小テストだろうと同級生にやらせるのは……いや、今さらか。


あの先生、とことんめんどくさがりだからなぁ……まぁ成績にたいした影響はないし、内容もその前の単元のだからたいしたのじゃないしってことなんだろうし。


「で、どう思うとか聞いて良い?」

「……な、なんで、私にぃ……?」


「あ、そうよね。 私が言わないのに聞くのは失礼よね」


いや、そうじゃない。


なんで僕にそれ聞くのかってことよ?


だって密室で女子2人きり、たいして仲良くは……ちょっとしか良くなくって、どう考えてもそういう話する段階じゃないからね?


「私は女の子が好き」

「むぇっ!?」


「……かも」

「……むぇ……?」


真ん前から僕を真っ直ぐに見てそんなことを言ってきたもんだから、危うく口説きスイッチ入っちゃうところだった……危ない危ない、黒木さん黒木さん。


「たとえばぁ……こほん」


ようやくに視線を逸らしてくれた彼女は、急に声も小さくなり。


「……銀藤さん……とか、結構良いかもって……」


「……むぇぇぇぇぇ……?」



◆◆◆



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