29話 【アキノちゃんの登録者はうなぎ登り】1

【アキノちゃん、地上波デビューおめでとー!!】


「いやまぁ、テレビ局ってああいう話好きだからさ……それにほんのちょっぴりだし、取材とか来てないからね」


【えー】

【嘘ー!?】


「いやー、あれだけの映像じゃ僕って断定するのムリでしょ。 あ、僕もその日の記憶があいまいだからわかんないってことで」


って感じで「僕っぽいけど僕じゃないかもしれない」ってどっちつかずな返事でごまかす。


実際嘘はひとつも言ってないし?


DMでは来たけど取材は来てないからセーフ。


「よく分かりません」で通したからセーフ。

「お母さんがダメって言ってたので」で引っ込んだからセーフ。


よし。


けども……あー、承認欲求爆上がりするー。


女の子たちにちやほやされるって、男としてのメンタル回復するぅー。


いやぁ、最近はいろいろあったからねぇ。


中学から高校までの、まるで肩書きも身寄りも最寄りもないニートみたいな時期――そんな、春休み。


引っ越し先で地元友達も居ないし、やらかして謹慎中だしで外に出らんないし、ヒマだからって前世転生チートぶち込んでの女子配信者デビュー。


配信のイロハとかなぜか前世で知ってたらしいのと、引っ越してからヒマな1日で調べてからやったのがどんぴしゃだったらしい。


まぁ単純に運が良かったんだ。


ただそれだけ。


……あるいはこれもまた転生特典って可能性もなくはないけども……そこまで考え出したらキリが無いし、まぁ良いかなって。


もしそうならきっと、こんな僕のことだ――転生担当の女神様に拝み倒したんだろう。


「女の子にモテモテになりたいです!」って。


そのおかげかは分かんないけども現状の僕は数多くの女子たちにモテモテで、僕の男としての自尊心もジャンガリアンハムスターな高校生活でも鼻高々だ。


最近はなんか教室で心臓に悪い感じの雰囲気が漂う感じだったし、それから離れられる居場所があるってのは良いよね。


やだなぁ、新学期早々早速にクラスがギスるとかやめてよねー。


だからこそ、今どきの学生には別アカでの活動がお勧め。

学校とは別の自分を表現できるからね。


僕みたいに完全に表と裏を分ければ学校生活にも支障はないし、特定とか起き得ないし?


僕はそういうのが得意だからね。


ほら、中身前世男を隠しながら今世インフルエンサーJKしてる時点でさ?


承認欲求で自爆する人は多いけども、僕はそういう方面のは無いし?


にしても「アキノちゃん」は、なんだか今どきの女子たちの需要掴んでたのか、それとも単純にこの見た目のおかげか、新人配信者のくせにあれよあれよという間に弱小を飛び越え中堅ポジ。


ま、今世の僕ってば女子の好きそうな美人系の顔つきだし、そういう子向けの動画メインだし、単にアカウントの方向性が合っただけなのかもしれないけどさ。


……僕、就活がヤになったらこれで食ってこうかな……受けてはないけど、お金もらえる案件とか来てるし。


や、それ以前に若い女子ってだけで気楽なバイトだけでもいっかな。


そのあとのことは……そのあとに考えることにして。


うんうん、明日できることは明日に回す、それが長生きの秘訣だね。


理想はかわいい子のヒモなんだけど……誰か居ないかなぁ、養ってくれる子。


そんな僕の配信は……学校でぶいぶい言わせられなくなった分をネットでひけらかそうとした結果か、現役JSJCJKDKの心をがっちり掴んじゃったらしく、コメントは明らかに女子、それもギャル系とか陽の気質の子っぽいのばっか。


中身は男なのに「女子の希望」とか言われちゃってるし。


まぁある意味男が全力で女子するのって、店長さんみたいに並みの女子を吹っ飛ばす勢いになるからね。


あー、現役女子に囲まれる生活とか、転生して良かったって実感する。


まぁ肝心の体が女子になってるのは残念だけども、まぁできないこともないし?


いや、まぁ、いわゆるアレがね?


うん、なんていうか、「会いたいです!!」って子の願いをしょうがなく聞く感じでね?


もちろん厳選してるよ?


ちゃんと相手のアカウントとか発言全部見たりしてね?


口止めもばっちりしてるし?


だから僕は悪くないし、相手も大満足。


Win-Winってのはこのことだね。


だから僕は悪くない。


【私……現場に居ました  き、きっと、助けられた子も喜んでます】


「そうだといいなぁ。 あの子、素顔が綺麗だったし」


【キャー!!】

【アキノちゃんってフツーに女の子のこと綺麗とか言うのが素敵】

【分かる】

【ストレートに言うからどきっとしちゃうわよねー】


あと、何気にお胸あったし?


普段が普段だから分からなかったけど、それなりに良いものをお持ちだった。


あの小柄なだぶだぶの服の下には……うむ。


【いいなー】

【羨ましー】


【ね、私も轢かれそうになったら守ってくれる?】


おっと、これは見過ごしちゃいけないコメントだ。


「言っとくけど、わざとやらないでね? 僕は配信と動画で君たちと会うのがいつも楽しみだからね? 健康で文化的で、あと勉強も運動もそこそこ自分なりにがんばって輝いてる君たちが好きだからね?」


【¥1000】

【¥2000】

【アキノちゃんのイケボボイス集はよ】

【切り抜きだけじゃ物足りないの】


「あはは、うん。 みんながちゃんと元気で居てくれたらね」


気を引こうとしてヤンの気質を出してくるコメントもあるけども、そこは僕だ、抜かりない。


元々こういう配信には一定数こういう子が居るんだ、いちいち気にするよりもまとめて返しちゃった方が良いもんね。


この通りに完璧にさばけているし、ヤバそうな子は配信後にDMでちょっと音声通話すればたちまち元気。


うんうん、死んだら来世があるとは知ってるけども、そんな若い女の子が死ぬなんてもったいないもんね。


【その子が……お礼したいとか言ってたらどうしますか?】


【え、でも、それ、どうやって本人だって証明するの?】

【確かに】


【あ】


【え、この子本人?】

【なわけないでしょ】

【だよねー】


【う、うん、ごめん  ただ思っただけで】


「うん……てかあの日からめっちゃそういう内容のDM来てるからやめてねみんな……えっとさ、一応知り合いの知り合い的な感じで、その子のことを間接に知ってるからさ、僕。 あの子が誰かは知ってるんだ。 嘘はいけないよ?」


【えー!?】

【アキノちゃん、その子の知り合いだったんだー!】


【………………………………】


そりゃあもう、毎日一緒のハムスター仲間だからね。


最近はちょっと距離近いっていうか、たぶんあんな怖い目に遭ったから無意識で誰かを頼っちゃうんだろうからつまりはくっつかれて僕は大変に気分が良い。


ふと見たときに視線が合う確率が上がってるのも大変に良い。


ビン底メガネさんが殉職したおかげで、つぶらな瞳と顔がはっきり見えるからね。


「それに、人助けって見返り期待するもんじゃないからね。 今回だって、僕が助けなくてもぶつからなかったかもしれないんだ。 むしろあの子を押し倒して怖がらせちゃっただけかもしれないし?」


【アキノちゃんに押し倒されたい……】

【そのまま衆人環視で進められたい……】


「その性癖はしまっとこうね? 妄想は妄想だから良いんだよ? あと、特に女の子はその性癖はなんとかしようね?」


同じ女子、けど男口調だし女の子が好きって公言してるもんだから、わりとセンシティブなコメントもちらほら。


まぁ女の子って言っても同じ人間――つまりは同学年の男子よりはいくらかマシでも、それなりにいろいろなものは持っているもの。


それをスマホの向こうの女子がベッドで寝転びながらぽちぽちやってるって思うと最高だね。


【……その子がかわいくなかったら、助けなかったんですか?】


【ちょっとー、さっきからしつこいってばー】

【落ち着こうよ】

【そうだよ、アキノちゃんはそういうの嫌いだって】


【ごめん  けど、気になって】


ふむ。


女の子は繊細だからそういうとこも気にするよね。


だけど大丈夫。


僕は女の子が好きだから、ちゃんと華麗な返事で満足させてあげるからね。


大丈夫大丈夫、なんか闇堕ちしそうだったらDMして呼び出してちょろっとすればオールオーケーだからさ。



◆◆◆



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