第20話 デート 番外編 爺やの場合

「どうですかなリーシャ殿。

 進展はありましたかな?」


 夏季休暇も半分が終わり、私は帰省していた実家から女子寮に戻っていた。


 その日、ソフィアとのデートの待ち合わせ場所に行くべく、女子寮の外へ出たら、白髪に白い口髭にタキシードをパリッと決めた、ソフィアの老執事である爺やさんが現れたのであった。


「うわっ、びっくりした。

 爺やさん、女装やめたんですね。

 色々な意味で良かったです」

「……妻に、離婚すると脅されてしまいまして。

 ですので外見はわからぬように、下着だけ女性物を着用しております」


 めっちゃ、どうでもいい、聞きたくない情報を耳にてしまった。

 想像してしまうのを必死に掻き消していく。


 爺やさんの姿は威厳に満ちていながら、女性用下着を着用しているという事実。

 知っちゃうと、この変態の立ち振る舞いすべてに滑稽さと不思議な二面性を感じてしまう。


「って!奥さんいたんですか!」

「……何故いないと思われたのか心外でございますな」


 いや、だって……爺やさんだし。


「と、ともかく、まだ魔法使ってる人はわかってないかな?」

「左様ですか。わかりましたら、それがしにも教えてくだされ」

「はあ、わかりました。でも、どうしてですか?」


 気になる。爺やさんという変態、一体何者でなんの目的で私に協力しているんだ?


「王国の平和のためでございます。

 魔法使用者は魔王の転生体である可能性が高く、見つけなければならないからです」


 ビクッとしてしまう。

 私が魔王の転生体だと知られたら、爺やさんと戦う未来になるのだろうか?

 

「もし、爺やさんの仕えるソフィアさんがそうだったらどうするんです?」

「はっはっは、もしそうなら、知った者を始末してからそれがしも自害しましょう。

 王国の未来より、ソフィアお嬢様の幸せが大事なのです!」


 さらりととんでもないことを言ってるけど……目がガチだ。

 この爺やさん……わかっていたけど激ヤバだわ。


「何故そこまでしてソフィアに仕えるんですか?

 爺やさんの腕前だったら、他に仕事がいっぱいあると思うんですが?」

「リーシャ殿、人には事情があるのですよ。

 ……妻の実家がグラナーク公爵家だっただけでございますが。

 それと、余生は実家で暮らす、でないと離婚すると脅されましてな」


 ほえ⁉ということは公爵家の奥さんを迎えたってことは、この変態……もとい、爺やさんて上級貴族?


「ソフィアお嬢様はそれがしの孫でございます。

 可愛すぎて、他の者に任せたくなくって執事をしているのです。

 喋りすぎてしまいましたかな?

 ではそれがしはこれにて」


 姿が消える爺やさん。


 人生って色々だなあ。

 ん?ちょっと待て、私が魔王だとバレたら敵対確定だけど、ソフィアがもし勇者だったら、より厄介な敵として立ち塞がるのか。


 嫌だなあ、女物の下着を着用してる変態と戦うのは。


「あれえ?まだ出かけてなかったの〜」


 カリーナが暢気な声で女子寮から出てきた。


「うん、ちょっと変態……もといソフィアの執事である爺やさんに会ってたんだ。

 めっちゃ疲れた」

「へえ?先王様が来てたんだ〜」


 はい?


「あれ?リーシャ、知らなかったの〜?

 退位してイワン殿下のお父様に王位譲って、王太后様の実家であるグラナーク公爵家で余生過ごしてるんだよね〜」


 マ、マジか。


「凄い人なんだよ先王様って。

 戦争よりも治安を重視するって政策で、レフレリア王国を今の版図にしたんだよね〜。

 近隣諸侯が次々傘下に入ってきたって、結構有名な話だよ〜」


 いや、凄い人だとは思っていたけれど、晩年の姿は完全に変態さんじゃないですか!


「ソフィアって爺やさんの正体知ってるの?

 ていうかイワンとソフィアって従兄妹だったの?」


 考えてみれば王侯貴族の頂点って、婚姻で関係を強化するよねえ。

 盲点だった。

 イワンとソフィアは、私という異物が現れなければ結婚確定って言われていたらしいけど、本人たちはサバサバしていたから。

 案外、どっちも王侯貴族の役目ぐらいにしか思ってなかったのかも。


「あはは、ソフィア様も知ってるって〜。

 ……知ってなかったらビックリだよ」


 ちょっとカリーナ?

 もしかしたら知らないかもって思っただろ。


「あっ、そろそろ行くね。

 ソフィアを待たせたらプンスカされるかもだし」

「じゃあねえ〜。楽しんでこいよ〜」


 カリーナに手を振って走りだす私。


 ともあれ爺や……もとい元先王との戦いを避けるべきだろう。

 変態の真の目的が勇者の転生体を守ることだとしたら、より警戒が必要かもしれない。

 もし私が変態の敵対する対象であると認定されたら、厄介かも。

 あの変態こそが、最も本当の意味で危険な存在なのかもしれない。


 今まで以上に気をつけながら、魔法を使用したり魔獣の森を危機に晒した勇者を探りべく、私はソフィアとのデートに向かうのであった。


 ***


『爺や


 年齢 71歳 

 容姿 白髪に白い口髭 ダンディな紳士 女性下着着用

 身分 元国王にしてグラナーク公爵家令嬢ソフィアの専任執事

 能力 ブラジャーのホックが外せなくて苦労している

 性格 変態

 人生 ソフィアお嬢様に仕えるまでは順調だった

 目的 魔王を倒すこと(確定?)』

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