第3話 イワン・レフレリア
もう少しで15歳になる日。
ギルドに両親へ弁当を届けた時のことだ。
「え?私が様子見に行くの?」
「頼むよリーシャ。
手が空いてるのリーシャだけなんだよ」
父からそう言われて、向かったのは王都近辺の魔獣の森と呼ばれるエリア。
薬草採取に行った新米冒険者のパーティーが帰ってこないということで、私が捜索依頼で行ったんだけど……
なんか凄い魔獣と戦ってたんですけど!
デカい!10メートルはある見た目は子猫だ!
しかもイワンもいて、苦戦してるし!
あ~もう!厄介事起こしちゃって!
「くっ!逃げるんだ!僕が囮になってる隙に!」
そんなこと言ってるイワンの剣も防具も既にボロボロ。
新米冒険者たちは、足が竦んで逃げることもできないようだった。
「はいはい、ちょっとどいて〜」
スタスタ歩いて、巨大な子猫の前に出た私。
「な!君はたしかギルドの少女⁉
何をしてるんだ!武器も持たずに立ち向かうなんて!
うおおおおおおお、魔獣め!この僕を狙いたまえ!」
「うっさい!ちょっと黙ってて!」
剣を構えて攻撃しようとするイワンを手刀で倒し、巨大な子猫に向き合う。
「ニャーニャーニャー!」
「うんうん、わかったわかった。
最近引っ越してきたのね。
大丈夫、人間食べないなら討伐対象にならないから。
もうちょっと奥地に行こっか?
地図読める?」
「ニャー」
地図見せて説明する私。
巨大な子猫は私を舌でベロンと舐めて去っていったのだった。
おにょれ、早く帰ってお風呂に入らなければ。
ん?私がどうして魔獣と話せたかって?
前世を思いだすまでは疑問に思わなかったんだよな〜。
両親からは、あまり他言するなよって釘刺されていたけど。
前世の記憶を思いだしてからは、これが前前世の魔王だった時の能力かもっては妄想している。
そういえば岩下真帆時代も、なんとなく動物の言いたいことわかったんだよね〜。
おっと話が逸れた。
イワンとの出会いの続きをどうぞ。
「き、君は一体……」
「あ、えっとイワンだっけ?
ダメじゃない、討伐対象じゃない魔獣を攻撃したらこうなるのは当然なんですよ」
「え、あ、はい。すいませんでした」
「わかればいいんです。
それと新人冒険者さんたち、薬草採取の依頼でしたよね。
さっきの猫さんちょっと怒ってましたよ!」
そんな私の説教に、新人冒険者さんたち4人組もシュンと項垂れていく。
「じゃあ帰りましょう。大丈夫?怪我してない?」
「あ、ああ。大丈夫だ。それよりも君は一体……」
「リーシャ・リンベル。
ギルドの事務員してる両親のお手伝いしてます。
そんなことより、猫の唾液べっちょりなんで先に帰ってお風呂入りま〜す!
お先に失礼しま~す」
そう言ってダッシュで帰ったのはいいんだけど……
翌日、いつものように作ったお弁当をギルドにいる両親に届けに行ったら、イワンが待ち構えていやがったのだ。
しかも頭を下げてきて!
「リーシャ!良かったら少しお話してくれないか?」
ギルドからどよめきが湧き上がる。
一匹狼で行動している凄腕の若き冒険者(正体は王子)が、私みたいな少女に頭を下げたのだから。
「ちょっと、リーシャ。昨日何があったんだい?
朝からずっと私と父さんに、リーシャに会わせてくれって言い続けてたのよ」
母さんが不安そうに私に耳打ちしてきた。
「別にいつも通りにしただけだよ?」
「いつも通りって……
昔からリーシャは魔獣に好かれやすいわよねえ。
でも、知らない人からしたらビックリするんだから、気をつけろって父さんにも言われてるでしょ?」
そう言われたってなあ。
私にとっては普通だし。
「えっと、いいかな?」
困惑して私を見てくるイワン。
おっと、いかんいかん。待たせてしまったか。
「あ〜はいはい。それでなんのお話でしょう?」
「年齢は14歳と聞いた。僕と同い年だね」
「はあ……え!背が高いからもっと歳上だと思ってました!」
うう〜む、緊張するなあ。
イケメンだし、優しそうだし。
なにより評判の良い謎の冒険者だし。
「どうだい?僕に魔獣について教えてくれないか?
平たく言うと、パーティーメンバーになってもらいたいのさ」
どよめくギルド、私にこんな声が届いてくる。
あの一匹狼さんが⁉とか。
あの凄腕の天才に認められるなんて⁉とか。
あの娘は玉の輿じゃん⁉などなど。
「はあ……ただ私、冒険者じゃないので。
なる気もないのでお断りします」
またもどよめくギルド。
リーシャちゃん、昔からはっきり言う子だからねえ、とか。
マジでならないのかい、とか。
イケメンにも心が揺らがないって、とか。
結構言われてるなあ。
私だってイワンのこと、カッコいいとは思ってるよ?
でも恋って言われると違うんだよねえ。
う~んなんだろ?上手く説明できないや。
「そうなのか……残念だ。
でも良かったらガイドを頼めるかい?
よくやってるって話を聞いているよ」
「それなら喜んで。
ただ、ガイドは指名すると指名料必要ですけど大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫だ。それでは頼んだよリーシャ」
「はい、ご指名ありがとうございます」
かくして私はイワンと、ちょくちょく魔獣の森に一緒に入って行く日々を送ったのであった。
それからまた暫くして、私が前世の記憶を取り戻し、1年が過ぎようとしたある日のこと。
「リーシャ!喜んでくれ!君の入学が決まったよ!」
いつものように魔獣の森で、探索していたら、突然イワンが叫んできたのであった。
「は?入学?どういうこと?」
「ほら、この前呟いていたじゃないか。
『ギルドの事務員の人生か〜、う~ん、学歴あればギルドマスターになれたりするのかなあ』と」
ああ、そういや呟いちゃったっけ。
個人的に魔獣の森のガイドや、ギルドの事務作業も苦ではないけど、やはり上位職でゴロゴロしていたいと思ってしまったのも本音。
ほら、日本人だった頃の記憶蘇って、将来の人生設計を考えるのが増えちゃったので。
それと、今のところ私のファーストキスを狙う勇者が接触してこないのだ。
ギルドマスターになって、逆にこっちから勇者の転生体を探してやろうとも考えていたのだ。
「入学かあ……うん。あり、かな?」
私は単純に、日本で通っていた公立学校を想像した。
「おお!では明日、共に参ろう!
全寮制だから今から必要な物を買うとしよう!
お金は心配しないでくれたまえ。僕が全て払おう」
「は?え?ちょっとイワン?」
混乱する私の手を引っ張って、王都に戻っていくイワン。
そうして私はバタバタしながら、全寮制の学校に入る準備をして。
赤色のブレザーに、チェックのスカート着た私は鏡見ながらニヤついたりして。
今の王立学校の教室の後方で王子だったイワンの隣に座っていたのだった。
ってのを、小休止時間にサクッとカリーナに説明したのであった。
無論、前世部分は言わないで。
「へえ〜。リーシャって凄いのね。
そりゃあイワン様も惚れて当然だって」
「そうなのだよ。
入学して感謝感激して抱きついてきて、結婚してくださいと言われるのを待っていたのだが……
リーシャは僕の予想をことごとく超えてくる。
まさか、コークスクリューパンチを食らう想像はしてなかったよ」
って!イワンめ。
しれっと女子トークに参加すんなっての!
しかもなんだその都合の良い妄想!
連れてこられたのが、貴族しか入れない王立学校と知った時の私の衝撃も想像しておけっての!
「イワン様、私は応援します!
是非リーシャを口説き落としてください。
協力は惜しみません。
成就したあかつきには私に褒美をお約束してくれるなら、ですが」
「フッ、カリーナ・オルロフ嬢。約束しよう」
こらこら〜。
イワンもカリーナも、本人を目の前にして密約するな〜。
カリーナの性格、私の前世の親友にそっくりだぞ。
「というわけで、リーシャ!
イワン様をどう思ってるのか、今の率直な意見を言ってみて〜」
「カリーナ、楽しんでるなあ。ま、いいけど。
一応、感謝してるよ。
ギルドのガイドに、毎回私を指名したから結構裕福な暮らしができたし。
それにイケメンで紳士で、今までは安全安心な男の人ってイメージだったかな?」
「え?今は違うのかい?」
「そりゃあ強引にキスしようとしたからねえ。
それとフィアンセだと私を紹介したこと。
ちょっと怒ってるんだからね!
お陰で私はクラスで微妙なポジションをゲットしちゃったんだから!」
そんな私の言葉に、ズーンと沈んでいくイワン。
ちょっと言い過ぎたかな?
でも、この反応。もし勇者の転生体がイワンだったら、見事な演技力だと言わざるをえない。
「ま、まあ。優しい人なのはわかってますし、嫌いではないですよ!」
「ありがとうリーシャ!
僕の暴走で迷惑をかけてしまい申し訳ない。
君の信頼を一から獲得し直し、次の告白ではキスしてくれるようにこれから努力し続けよう。
見ていてくれリーシャ。
君にふさわしい男になって見せよう」
うん。イケメンにここまで言われて心揺らがぬ乙女なんていないだろ。
「ま、ま、まあ。頑張ってください」
ちょっと動揺しちゃったよ。
でも、前世の記憶が蘇った今、単純に恋愛感情だけで動くわけにはいかないんだよなぁ。
クスッと笑うイワン。
あ~あ、私の前世を殺した勇者疑惑がなかったらなあと、素直に思った次第です。
かくして、私は王都の貴族しか通えない王立学校での生活が始まったのであった。
色々面倒な問題多すぎだけど。
***
『岩下真帆殺害事件
第1容疑者
イワン・レフレリア
年齢 16歳 王立学校1年生
容姿 サラサラの金髪 イケメン 長身痩せ型
身分 レフレリア王国第一王子
能力 剣技一流 頭脳明晰 一流冒険者もしているのだ
性格 万民を護る王家の使命に燃えている
人生 リーシャに出会うまでは順調だった
目的 リーシャと結婚すること(本当かは不明)』
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