11.2度目の投票と2人目の脱落者

 拳太は『玉村夏風』と書いて投票した。

 いちごと夏風も、とっとと投票。

 ヤマトだけが少し悩んだ様子で、それでも名前を書いて投票完了。

 ユグゥラが言う。


「ふむ。今回の投票はすぐに終わったのう。では投票結果の発表じゃ」


 ユグゥラは言って投票結果を読み上げた。


「明夜いちごは、ふむ宣言どおり玉村夏風に投票。秋海拳太も同様じゃな。これにて玉村夏風の脱落は決定じゃな」


 それを聞いて、夏風は小さくため息をついた。


「まあ、しょうがないわね」


 その声はずいぶんと落ち着いていた。


(なんだ? 夏風さんのこの落ち着きは……)


 残る夏風とヤマトの投票がどうあれ、夏風の脱落は決定した。

 夏風がいじめっ子なら、なんにしてもゲームセットだ。


(……そのはずだ。そのはずなんだ)


 だが、夏風の表情を見ていると不安になった。


(ぼくは、また間違えたのか?)


 拳太はユグゥラに確認した。


「これで、ゲームセットだよね?」


 ユグゥラが怪訝そうな顔をする。


「なぜかな、秋海拳太」

「だって、夏風さんは脱落したんだし……そりゃあ、もしかするとぼくかいちごちゃんが脱落する可能性は残っているけど、いずれにしてもいじめっ子は負けたんだ」


 その言葉を聞いて、ユグゥラは意地の悪い笑みを浮かべた。


「玉村夏風がいじめっ子ならば、たしかにそのとおりじゃな」


 拳太の背に冷たい汗が流れた。


(まさか、その言い方は……)


 ユグゥラは言った。


「玉村夏風はいじめっ子ではない。残念じゃったな、秋海拳太。お主はまた間違えたのじゃよ」


 拳太は目の前が真っ暗になる思いだった。


(いじめっ子は夏風さんじゃなかった!? だとしたら……)


 完全に混乱する拳太を尻目に、ユグゥラは投票結果の発表を続けた。


「次に足利川ヤマトの投票相手は……秋海拳太か」


 ユグゥラの言葉に、拳太の心臓がドキンっと跳ね上がった。


「ヤマトくん、どうして!?」

「ごめんなさい、拳太お兄ちゃん。拳太お兄ちゃんを信じているけど……でも、夏風お姉ちゃんがいじめっ子かも分からなくて。ボクだって負けたくないから」


 ヤマトはそう言ってうつむいた。

 そこで、ようやく拳太は気がついた。


(そうか、ヤマトくんからすればこれが1番勝ちやすいんだ)


 拳太といちごは夏風に投票すると宣言していた。夏風ははっきりとは言っていないが、拳太に投票する様子だった。ヤマトからすれば、夏風だけを脱落者にするか、あるいは夏風と拳太の二人を脱落者にするかの選択肢だ。

 ゲームのルールを単純に考えれば、1人脱落させるよりも、2人脱落させた方が勝てる可能性が高いのは当たり前だ。


 拳太はそれ以上ヤマトを責めることができなかった。


「気にしないで、ヤマトくん。ぼくはキミを恨んだりしないから」


 拳太はそう言って微笑んだ。昭博ほど自然な笑顔ではなかったかもしれないが。


(夏風さんはぼくに投票したはずだし、これで、ぼくも脱落決定か)


 拳太はユグゥラに確認した。


「残り2人になったら、脱落した3人で最終投票をするんだよね?」

「そのとおりじゃな」


 次の投票は拳太と夏風、そしてすでに脱落した昭博の三人がすることになる。


(まだ、負けたわけじゃない。優衣の病気を治す願いは叶えられなくなったけど、ゲームに負けて殺されないようにするチャンスはあるんだ)


 拳太はそう考えたが、ユグゥラがさらに続けた。


「じゃが、それは残り2人になった場合のこと。玉村夏風だけが脱落するならば、残りは3人じゃ」

「でも夏風さんはぼくに投票したはずじゃ……」


 ユグゥラが首を横に振った。


「玉村夏風の投票相手は秋海拳太ではない」

「え?」


 拳太は夏風を見た。彼女は表情を変えないまま、一言も発さない。


「玉村夏風が投票した相手は……」


 ユグゥラはゆっくりとヤマトに近づいた。


「足利川ヤマト、お主じゃよ」

「え、ボク!?」


 びっくりした表情を浮かべるヤマト。驚いたのは拳太も同じだ。


「夏風さん、どうして?」

「さあ、どうしてかしらね? よく考えなさい。私がいくら言っても、今のあなたは納得しないでしょうから」


 それが、夏風の最後の言葉だった。

 ユグゥラが右指を鳴らし、昭博と同じように、夏風も教室から姿を消した。

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