第5話

「もう……だめです……」


 告白しただけなのに何故かめでたいムードが巻き起こったことで、勇者と魔王の戦いは一時休戦となった。

 彼は自室で茫然自失としている。


「……お嬢様に嫌われました……」

「みー」


 ベッドで落ち込んで涙目になるアランの背中を、猫がふみふみと一生懸命に揉み仕事をしていた。

 アランは完全になすがままである。


「こんな残酷な世界……滅ぼしても良いですか……」

『勇者よ! 諦めるな! まだ告白の返事をもらってないだろう!』

「そうだ。相手の出方を伺うまでは、決断をするには時期尚早だ。それににゃんこに踏まれるなんてけしからんぞ勇者、そこを代われ!」


 ベッドのすぐ床下には、聖剣が横たえられている。

 アランの部屋には、何故か猫まみれな魔王もいた。

 敵である勇者を励ます魔王に向かって、アランは寂しそうに答えた。


「いえ、お嬢様は態度でお返事になられました……。ぼくと顔も合わせたくないと……ぐすっ……」


 アランの脳裏によぎったのは、暴露した直後のセルシアの様子。


「うぅっ……。お嬢様は猫で顔を隠すくらい、ぼくの顔が見たくなかったんですね……」

『……あれは恥ずかしがっていただけだと思うのだが?』

「そうです。ぼくなんかに告白されて、お嬢様はどれだけ恥ずかしい思いをされたことか……」

『勇者よ。お前何でもこなせるハイスペックなわりに、小娘相手だと気が弱いのはなんなのだ?』

「惚れた故の弱みというやつか。であれば、吾輩が代わりに引導を渡してくれよう。小娘に貴様をどう思っているか、このにゃんこパワーで吐かしてくれようぞ」

「にゃー!」

「うわああああ!! やめてください!! ぼくの心にトドメを刺すのは!!!」

「吾輩は魔王であるぞ。勇者にトドメを刺すのは当然だ!」


 賑やかに騒ぎ立てる勇者と魔王の様子を、聖剣は地べたから呆れた様子で眺めていた。


『我思うに、勇者と小娘は両想いだと思うんだがな?』

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