第33話

柊木陸、十六歳。双子の妹は柊木凛珠。両親は幼い頃に離婚していて、父親は長距離トラックの運転手で滅多に帰ってこない。その他、双子に関する話で良いものは出てこなかった。その辺は予想していた通りだ。



「柊木陸の彼女が死んだ日……」


「ん? しょたくんなんか分かったの?」



呟いた鍾太郎に、量が尋ねる。



「分かったっていうか……柊木がアカネんとこ来なくなったのって、この辺だったよなって」



鍾太郎に言われて、良や洋平もそれに気づく。



「あー、たしかに。」


「なんか関係あんのかな。」



洋平がアカネを振り返る。



「アカネどう思う?」


「どうでもいい」



問われたアカネは、ぼんやりしながら板チョコをかじっている。喧嘩以外のことにはどこまでも興味の無い奴だ。



「まぁ、磁石ちゃんのことはいいよ。それより、この兄貴の方どうしよって話だろ? あ、磁石ちゃんと仲良いみたいだったし、妹人質に取ったら釣れんじゃね。」


「よへくん鬼みたいなこと言うね。」


「その妹鍾太郎が逃がしたんだろ?」



また泰河が言い出した。もう鍾太郎は言い返す気力もない。第一、さっきの喧嘩を見る限り凛珠で釣るのは難しいような。



「じゃあまず、アカネを餌に磁石ちゃんを釣る?」


「てめェを犬の餌にしてやろうか?」



冗談交じりに言った洋平をアカネが睨んだ。


なんだかんだ言いながら、どこか楽しそうな様子で話を進める四人。アカネが楽しそうなのかは分からないが、いつもよりは口数が多い。


そんな四人の様子を、鍾太郎はどこか遠いことのように眺めていた。思い出すのは、やっぱりあの日泣いていた凛珠のことで。兄の彼女とも仲が良かったのなら、亡くなったことにショックを受けて泣いていたのかもしれない。


あの子はもしかしたら、噂と違う子なんじゃないか。凛珠のことをそう思い始めていたが、それを口にすることはできなかった。言ったところで、アカネ達が耳を傾けてくれるとは思わない。


凛珠に手を差し伸べることも考えたが、アカネは許さないだろう。中途半端になるくらいならやめた方がいい。そう判断して、彼女のことを一度頭の隅に追いやった。

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