第41話 壬申の乱の影
吉野の山々に静けさが広がる中、大海人皇子は緊張した面持ちで立っていた。草壁皇子を抱きかかえるようにしながら、彼の視線は遠くを見つめている。鸕野讃良皇女は彼の隣に立ち、心配そうに皇子を見上げた。
「大海人、これからのことを真剣に考えなければなりません」鸕野は静かに言った。「政争を避けるためとはいえ、ここに隠れているだけでは何も変わりません」
「分かっている、讃良」大海人皇子は険しい表情で返した。「だが、私の決意を知る者は少なく、今はじっと耐える時期だ」
草壁皇子が大海人の足元で眠っている。その顔には無邪気さが残っているが、鸕野は彼の未来を思うと胸が締め付けられた。
「父上が再び立ち上がる時、草壁と忍壁はどうなるのか」鸕野は小さな声で呟いた。「私たちも運命を共にしなければならないのでは?」
「私もそう思う」大海人皇子は彼女の言葉に耳を傾けた。「私が動けば、妻も子も巻き込まれる。しかし、これが私の選んだ道だ。共に戦ってくれるか?」
鸕野は大海人の手を強く握り返した。「もちろんです。あなたと子供たちのために、私は全力を尽くします」
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翌年、大海人皇子はついに決起する決意を固めた。彼は鸕野に草壁皇子と忍壁皇子を連れて、美濃国に向けて脱出するよう指示した。
「吉野を離れるのは辛いが、我が家族を守るためにはこれしかない」大海人は力強く言った。「早く行こう、讃良」
鸕野は二人の皇子を抱きかかえ、強行軍を開始した。疲労と不安が彼女を襲ったが、持つべきは信頼と希望だと心に誓った。
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脱出の途中で、彼らは伊勢国桑名に立ち寄ることにした。そこでは土地の豪族・尾張大隅が彼らを迎え入れてくれた。
「私の私宅はあなた方のために開かれています」尾張大隅は深く頭を下げて言った。「私の持つ力を使い、あなた方の安全を守ります」
鸕野は感謝の意を表しつつも、心に不安を抱えていた。「この場所で待つことが、果たして正しい選択なのか…」
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大海人皇子は、盟友たちと共に再び集まり、乱の計画を練っていた。「私たちは、権力を取り戻さねばならない。天智の家系がこの国を支配することは許されない」
鸕野はその場に参加することを決意した。「私も、計画に関与させてください。私たちの未来を守るため、全力で戦います」
彼女の言葉に、大海人は目を輝かせた。「ありがとう、讃良。君の力が必要だ」
脱出を続ける中、鸕野は大海人の肩に手を置いた。「私たちが一緒に立ち上がる時、草壁と忍壁も我々の後を追う。歴史が変わる瞬間を共に迎えよう」
大海人は鸕野の言葉に頷き、彼女の手を強く握り返した。「共に戦い、共に未来を切り開こう。我が家族のため、そしてこの国のために」
その瞬間、彼らの絆はさらに強くなり、運命に立ち向かう覚悟が生まれた。
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この物語は、大海人皇子と鸕野讃良皇女が共に困難に立ち向かい、家族と国の未来をかけた戦いへと向かう姿を描いています。壬申の乱を背景にした彼らの決意が、歴史に新たな一ページを刻むこととなる。
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