第19話 弟子と仇討ち

 ――昔、聞き齧った話を思い出した。

 曰く、古代戦乱の世において戌人族の剣術師範というものが弟子を取る場合、その育成方針は大きく二つに分けられたという。

【戦う弟子】と【継ぐ弟子】の二つである。

 【戦う弟子】はその名の通り。流派の技術を学び、技を持って戦いに勝利することを命題として育成される弟子である。

 対して【継ぐ弟子】とは、流派の技術を学ぶところまでは同じだが、その技術を戦いで使う事をせずただひたすらに技を正確に記憶し次の世代に伝えることを命題として育成される弟子である。

 戦争によって弟子が戦死し流派が失われること、もしくは弟子の資質によって流派の技術が変質してしまうことを防ぐために発生したとされている。

 しかし時代が移り変わり戦争が行われなくなったことによって弟子が失われることが少なくなったこと、記録メディアと映像技術の発達で弟子がおらずとも流派の技術を保存できるようになったことで廃れていったという。


 目の前のコイツは【継ぐ弟子】だ。

 いや正確にはそんな古臭い思想の元、より確実に技術を伝えるためだけに誰かによって作られたナニカだったのだろう。


「────!」

 上段の構えから放たれた一撃もまた、左肩から胴を斜めに両断していたであろう軌跡を正確に描いた。

 無論、斬ったのは空ばかりである。


 如何に狙いが正確であろうと、如何に振りが速かろうと、如何に完璧な型であろうと、基本に忠実すぎてどの構えなら何所を狙うのか簡単に予想できてしまう。

 スライム野郎はまた振り抜いた姿勢のまま硬直していた。何故技が当たらないのか理解しているのか、どころか技を当てるという概念自体を理解しているのかさえ定かではないが目鼻の無い顔からは何の感情も読み取ることも出来ない。


 再びスライム野郎が何事もなかったかのように構え直す。

 突の構え。顔の横から伸びる牙刀の切先は俺の心臓に向けられている。


「丁度良い。お誂え向きのがあるぜ」


 心臓の前に指を伸ばした左手。

 その上に右手を置くように構える。

 奴が動くと同時に俺も前へ踏み出す。

 俺と奴の影が交錯し停止する。


 奴は目鼻のない顔で勝ち誇った笑みを浮かべた……ような気がした。

 そしてその笑みのまま、

 ――自分の手に牙刀が無いことにも気付かず

 ――俺の左手に牙刀が握られていることにも気付かず

 ずるり、と断面からずれ落ちて崩れた。

【キョウブ 無限扇刃】

 相手の突きに対して右手で親指をへし折り左手で相手の牙刀を奪って左脇から右肩まで斬り上げる。

 現代剣術ではまず見ることのない実戦本位のカウンター技。

 スライム野郎はまるで人のように崩れ落ちたが、そのまま元の赤い液体に戻って砂に飲まれて消えていった。

 最初から何も無かったかのように。


「………何だったんだよ……オマエは」

 ただ、言いようのない後味の悪さだけが残っていた。

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