第15話 追いかけっことサンドイッチ
気がつけば銀色の宇宙船がしっかり見える距離になっていた。なんか恐ろしくでかい洗濯バサミみたいな船首がガシャガシャ動いていた。
「エラく殺意高いの付いてんだけど」
『先日の襲撃時はアレに噛まれて滅茶苦茶振り回されました』
「ほんと良く生きてたな」
「そうね。ジャジャ、そろそろ始めるわよ」
『了解いたしました』
「え、何始めんの?聞いてないんだけど?」
「ええ、言ってないもの。サプライズよ」
こんなタイミングでサプライズとか求めてねーけど?
『端的に説明するならば』
『―――少し、本気を出します』
「何それフラうごぁ!!」
全身が後ろに引っ張られるような衝撃とともに目の前の銀色の宇宙船の接近が止まる。
「舌噛むとこだったじゃねーか!加速させんなら先言えや!」
アレ?加速?
『右ムゲンジェネレータ出力上昇。サーベラス様もペースアップをお願いします』
「マジで?!さっきの本気じゃなかったの君?!」
急いでペースを上げる。いや確かに割とペース余裕あるなとは思ってたけど。
「イカロスレベル六到達! お巡りさん。キュクレインとの距離は?」
「え、距離?うちの近所の公園の滑り台くらい?!」
「そんな微妙なものに例えられてもわかるわけないでしょ!近づいてきてる?離れていってる?」
「――いや、大体付かず離れずってくらいだ」
『やはり向こうの速度はレベル六が限界のようですね』
「ジャジャもレベル六出せるのかよ」
『昨日はバリアにエネルギーを回していたため使えなかったブースターを解放しました』
「言ったでしょ。サプライズだって」
「サプライズすぎるだろ。マジでびっくりだよ」
宇宙最高速が本当に最高速とは思わないじゃん。
「よーしこのまま惑星キョウまで突っ込むわ」
「待て待てスライム野郎はどうすんだよ」
「考えてあるわ。ジャジャ。スライム野郎の探知。あいつの飛行高度を出して」
『承りました』
「――今度はどんなサプライズを用意してんだよ?」
「あら、気に入ってくれたかしら」
ゴーグルで見えないがとてもいい笑顔をしているに違いない。
「でも残念。お巡りさんへのサプライズはもう品切れ。今度は観客じゃなくて舞台の方に上がってもらうわ」
「どういうこと?」
「――お巡りさん。サンドイッチはお好きかしら?」
────少女説明中
「―――以上よ。何か質問は?」
「スリル満点過ぎやしねーかその策?」
いやもはや策なんて言えるもんじゃない。それは最早博打に等しいものだった。
『合理的ではありますが成功率は五割以下。そして失敗した場合の我々の生存率は一割未満です』
「まぁなんというか死んだらごめんね」
「ほんとにとんでもねー暴君姫だな」
「失礼ね。命令するだけじゃなくてちゃんとわたしもちゃんと命賭けるわよ」
「その発想がすでに暴君だよ?いい感じに言ったつもりかもしんないけどそれただの心中だからね。普通は誰が道連れになってくれようが一緒に死んでくれたりはしねーよ」
「じゃあできるだけ死なないように手を尽くすしかないわね」
グンッと真横に体が引かれる。それまで直進していたのが急カーブを描いたのがゴーグルの風景からもわかった。後ろからは死ぬまで追い続けるつもりらしい銀色の宇宙船。そしてその下の方に緑の惑星が見え始めた。
「…………」
それは五年と変わらぬ美しい惑星だった。
『…来ました!カイロスレベル四、惑星キョウ上空高度一万と十キロ、正面三百四十八度の方角から真っ直ぐこちらに向かってきます!』
「――来たわね」
シキがハンドルを少しだけ左に切る。正確に先ほどの進路から丁度十二度、ジャジャが左を向き直進する。キュクレインもそれを追ってくる。
シキの策通りの陣形は出来た。
俺も自転車のペースを維持しながらいつでも行けるように集中する
『仮称・スライム野郎こちらに直進!接触まで七秒前!』
勝負は一瞬。ぎりぎりまで後ろからも目を離さない。
『五』
前後のどちらかに気取られれば失敗する。
『四』
ハンドルを握り直す。
『三』
ぎりぎりまで堪える。
『二』
――――
『一』
ジャジャが言い終わると同時に全力を脚に込めてペダルを回す。
それと同時に内臓が浮かび上がるような浮遊感にハンドルを握りしめて耐えながら一気に自転車のペースを上げる。
おそらく奴らには俺たちが突然視界から消えて目の前にスライム野郎\銀色の宇宙船が突っ込んできたように見えただろう。
ゴーグルには一瞬だが銀色の宇宙船が出したであろう爆炎が見えた。
「スライム野郎・トムボーイ号・キュクレインが同じ高さで一直線に揃えてギリギリで速度をレベル七まで引き上げて急降下し、スライム野郎とキュクレインを正面衝突させる」
これが一瞬でもタイミングを誤れば俺らがサンドイッチになるシキの策の全容だった。
「この策はね、失敗してわたし達が死んでもほぼ確実にアイツらを道連れにできるってところがミソよ」
本当にロクでもねー暴君姫である。
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