第9話 口裏合わせと暇人達

「まず何の依頼なのか決めてないとのことでしたけど流石にそれだと前依頼人に言い訳が立たないので」

「正直、貴方たちがわたしをもう狙わないという確約さえしてもらえればなんでもいいのだけれど、貴方たちの方は傭兵部隊としての信用問題があるからあまり角が立たないような建前が欲しいってことよね」

「話が早くて助かります」

「じゃあ、それなら―――」

 シキとリーダー君が何やら重要そうな交渉をし始める。重要そうだったので話に混ざろうと思ったのだが開始十秒でよく分からなくなったので、横一列に体育座りで縛られてる部下四人と一緒に体育座りすることにした。

「…いい天気ダナー」

「そーっすねー。ここ室内だけど」

「そっかー。さっきまでの喋り方やめたんだー」

「ええ、あれリーダーの発案なんすよねー」

「子人族って他の種族に比べて小さいから子供っぽく振る舞うと相手が勝手に油断してくれるんすよー」

「なるほどなー俺完全にひっかっかってたなー。今リーダー君が真面目に難しいこと話してるのスゲー違和感あるもんなー」

「その割にはさっき思いっきり鉄棒でぶん殴られた気がするんすけどー」

「ああ、俺ケンカの時は老若男女関係なくぶっ飛ばすことにしてるんだー。昔それで油断してたら痛い目見たからさー」

「なるほどなー。メーサー銃は関係なかったかー」

「はっはっは、なんかいい感じの棒持ってる時の戌人族は自分のこと無敵だと思ってるからなー。覚えといた方がいいよー」

「いやそれはお前だけじゃろ」

 ライラさんがログインしてきた。

「さっきこいつらからぶんどったメーサー銃の方はどうなった?」

「ああ、子人族用の排熱システムだったからとりあえず分解してカートリッジのエネルギーはコンデンサーの方に移した。ひとまず大気圏脱出の分は確保完了じゃ」

 子人族用の排熱システムというのは子人族が他種族に比べて高温に非常に強い体質を持っていることに由来する仕様である。

 簡単に言うと子人族以外が使うと手を火傷する。

「いいメーサー銃使ってたんだな。あんたら」

「もうジャンクになったっすけどねー」

「まぁ念のためじゃ」

「いや実際、隙を伺うつもりだったから正しい判断っすねー」

「傭兵ってのも大変なんだねー。俺絶対やってける自信ないわー」

「まぁお兄さんは向いてねーだろーなー」

「腕っ節は強いけどお人好しそうだしアレそうだしなー」

「はっはっは、そのアレってのが何を指すのかは知らんけど、ちょーっと素振りしたくなってきたなー」

 横に立てかけておいたさっきの鉄棒を手に取る。

「冗談です」「マジすんません」「許してください」「靴でもなんでも舐めます」

「もう完全にトラウマになっとるな」

「………」

 昔、試合で派手にぶっ飛ばしちゃった先輩がその後に校内ですれ違うたびに似たような反応してたのを思い出した。

 割と傷つくんだよなぁ、なんかすげぇ悪いことした気分になる。

「いや、その、なんかごめんね。一応怪我しない程度には加減はしたんだよ」

「器用な男じゃなお前は」

「あー、その、アレだよ。試合とかで怪我させちまうとマスコミとファンが怖いんだよ。相手が美形だと特に」

「あーそっか。さっき経歴にあったアガルタの剣術大会ってアレか。共和国のテレビでよくやってるやつっすよね」

「そうそう、共和国中で中継されるからあんまりスプラッタなことは出来ねーのよ。それに警察学校じゃ剣術は表向き暴徒鎮圧のために教えているってことになってるから余計に文句が出やすいし」

 俺もジャーナリストにストーカーとかされてたし……いやあれはまた目的が違ったか。

「表向きはってことは別の目的があったんすか」

「戌人族の剣術を後世に残し、更に技術を発展させ裾野を広げていくため。ってうちの教師が熱弁してた。実際歴代の大会の資料も充実してたしな。俺もよく技の研究に使ってたし」

「…え、技の研究?」「研究っつった?」「この莫迦今研究っつったの?」「莫迦による研究ってそれただの休憩時間じゃん」

「よーしてめぇら歯ぁ食いしばれ」

 並んでる内の一番右の部下の左脇腹に鉄棒を当て地面を踏みつけると共に右手で鉄棒を持った左腕に力を加える。

「「「「〜〜〜!!!」」」」

 四人が同時に水に上げられた魚のように跳ね回り出す。全員の脇腹に痛みが走っているはずだ。

「おー。久しぶりにやったけど綺麗に入ったみてーだな」

「な、なにしたんだテメェ?!」

 む、一番左の部下が一番早く回復した。やっぱ遠くなると威力も下がるらしい。

「今のは研究してたうちの一つでな、峰打ちで外傷を与えずに内臓に衝撃を与えるって技なんだが嫌味ったらしい先輩とかキザなイケメン野郎に試合で当たったらよく使ってた。傷は残らないけどくっそ痛えんだ」

「性格悪いな?!」

「はっはっは」

「あら楽しそうなことやってるわね」

 シキがリーダー君のロープを解いていた。どうやら話はまとまったらしい。

「お前ら、引き上げるぞ」

「「「「うーす」」」」

「で、結局どうなったんだ?」

「ヌートリアはターゲットであるシキ殿下を発見できなかった。わたし達はココノスで襲撃されることはなかった。戴冠式が済んだら正式にヌートリアを雇ってゴミ処理をしてもらう。以上よ」

「……あのーゴミ処理って一体何の暗喩でしょうか?」

「さっき彼からお父様がシキ殿下暗殺を依頼した通信記録を受け取ったわ。これを証拠にすればお父様はすぐに失脚させられる。でもこの通信記録の出所を調べられたらわたしもヌートリアも口裏を合わせた事実が露見しかねない。だから戴冠式が終わったらすぐにヌートリアにこの辺の証拠を隠滅してもらう。まぁそんな感じね」

「とりあえずリーダー君が盛大なため息ついてる辺りロクな取引じゃねーことはわかった」

 めちゃくちゃゲンナリした顔してんぞリーダー君。

「しっかり頼むわよ。下手うつとわたしもあなた達も諸共破滅するんだからね」

「やばいっすねこのお姫様。お兄さん以上に性格悪いぞ」

「次期女王だもの。可愛いだけじゃ務まらないわ」

 本当に心底楽しそうな笑顔であった。一国のお姫様ということを抜きにしてもこいつだけは敵に回してはいけないと再認識した。

「あ、言い忘れてた。今回の暗殺計画、俺らとは別に【キュクレイン】って名乗る別の傭兵も雇われてるみたいだから気をつけてくれ」

「あら、情報提供感謝するわ。でもそれならもう昨日会ったわ」

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