第5話 村長の提案

「私はこのカームの村長。ライエトでございます」


「あ、私はセ・・・ユウキ センゴクです」


いつも通り日本式で名字から言おうとしちゃったけど、タヘスさんが鑑定で調べた私の名前は日本とは逆の、外国のやり方だったから、慌ててそっちに変えた。


もしかしたら大和っていう国も日本と同じような言い方なのかもしれないけど、そうじゃないかもしれないもんね。


「これはご丁寧に・・・。それで、ユウキ様は何故この村へ?」


何か外国人に空港でインタビューする番組みたいになってる。

中学校の時はよく見てたんだけど、高校に上がってからは通学時間が伸びちゃってやっている時間に帰れなくなっちゃったのよねぇ。


「え・・・っと、それが・・・ここに来るまでの記憶も来た理由も思い出せなくて・・・お金も持ち物も気が付いた時には全部なくなってて・・・」


嘘は言ってないよね。実際にそうなわけだし・・・。


「・・・大和の貴族様であるというのは覚えてらっしゃるので?」


「はい」


あまり言葉数を増やしちゃうと嘘をついちゃってボロが出ちゃいそうだから私はなるべく多くを語らないことにした。嘘が下手くそなのよね、私って・・・。


「そうですか・・・」


「あ、あの・・・厚かましいとは思いますが、しばらくこの村でお世話になることは出来ないでしょうか?」


私がそうお願いすると、ライエトさんの表情が曇る。


「あ、私、簡単な仕事だったらできます。頑張って働きますので!」


村長の反応に焦った私がなんとかここに居させてもらえるように自分の出来る事を提案した。


「・・・・・・」


村長さんが頷いたまま難しい顔をして俯いてる・・・。何・・・?まさか・・・。時間的にはそう長いこと黙っていたわけじゃないと思うんだけど、私には物凄く長く感じてしまった。


そして


「申し訳ございません」


「え?」


「数日後に人頭税の徴収を控えたこの村では人を迎え入れる余裕もなく・・・先日も納税に向けて数人が奴隷として身売りし、この度村を出るところなのです」


そんな・・・それじゃ私はどうすれば・・・。

生活保護は?よく分からないけれど、フクリコウセイとかあるんじゃないの?


「そこを・・・そこをなんとかしていただけませんか!?いくらでも働きます!お給料はちょっとでも大丈夫ですから!」


必死に食い下がる。だって、もしこんなバケモノが外にウロウロしてる世界で放り出されたりしたら・・・。考えたくもない・・・。


「こんな小さな村で現金を得るような仕事はないのです・・・現金を得る手段は農作物か裁縫した物などを商人に買い取ってもらってうしかありませんが、その商人も先日来たばかりですので、もう外へ売る分の農作物もありませんし、そもそも徴税の日に間に合いません・・・」


「お願い・・・します・・・。私・・・ここを出ていけって言われたら行くところが・・・」


・・・ここまでだって大変だったのに、またあんな目に合うのはイヤッ!


「それでしたら・・・こういうのはどうでしょう?」


「?」


もしかしてフクリコウセイ?というかフクリコウセイってなんなの?だけど、ちょっとくらい辛くたってワタシ頑張ります!汚いこととか臭いことじゃなければ何でもやります!


「この村には今、ちょうど奴隷商人のかたがいらっしゃっています。なので、奴隷として身売りするというのはいかがでしょうか」


「ど・・・れい?」


どれいって奴隷のことよね・・・?人の「物」になって人権なんてなくなっちゃう・・・あんなことやこんなことをされちゃう・・・。


「い、イヤです!奴隷なんかになって知らないブ男に滅茶苦茶にされるくらいだったら・・・私ここで死にます!」


死ぬのなんてほんとは絶対いやだけど・・・こう言わないと私がほんとに嫌だってこと、きっと伝わらない。でも・・・もし本当にそんなことになるんだったら・・・。


「大和では奴隷はそのような扱いなのですか?だったらご安心ください。たとえ奴隷として身売りしても無理矢理手籠めにするようなことはございません。そのようなことをすれば罪人に落とされますので・・・」


「そ、そうなんですか?奴隷っていえば、鞭で打たれたり、タダで強制労働させられたり、夜は・・・男の人に襲われたり・・・するんじゃないんですか?」


私が知ってるアニメに出て来た奴隷も、お兄ちゃんが持ってる本に出て来た奴隷だってみんなみんな酷い目に合ってたもん・・・。


「奴隷に危害を加えたり、契約外のことを強制したりすれば購入者は職業落ちとなりますので、契約内容をきちんとしておけば心身の安全は保障されます」


契約・・・って、奴隷がそんなのできるの?


「奴隷の衣食住は購入者が用意しなければなりませんし、奴隷としているうちは自由は制限されますが、生活に困ることはないでしょう」


「でも、一生自由が無くなるのは・・・」


「契約内容によりますが、普通は購入金額の三割を上乗せした金額を支払えば奴隷から解放されます。購入者はこれを拒否できません」


「・・・それって・・・奴隷を買う意味ってあるんですか?」


凄い良い話だけど・・・衣食住を用意して安全も保障されてて、お給料ももらえて・・・おまけに少し余計に払えばまた自由になるなんて・・・。


「奴隷でいるうちは主人の命令にはある程度従わなければなりませんし、衣食住にかかった費用や病気やケガの治療費は当然給与から引かれます」


「その命令で酷いことをされたりは・・・」


「不条理なことや非道なことを行えば罪人になりますので・・・」


「あ、そうか・・・」


罪人になるとどうなるのかは分からないけど、村長さんの口ぶりだとそうなることはかなり避けたいようなことなんじゃないかな?

だとしたら・・・もしかして奴隷になることって、この世界じゃあまりたいしたことじゃない・・・のかな?


本音を言えばあまり乗り気とはいえない・・・でも・・・。






「私、奴隷になります」


正直かなり不安だ。

この村長が私を騙しているのかもしれない。

奴隷になんてほんとはなりたくない。


でも、奴隷になるか、このまま村を出ていくかの二択なら・・・。


そう思い、私は奴隷になることを決めた。

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望んでいなかった異世界転移だけど、渋々生きていきます! ~無料スマホゲーをやっていたらいつの間にか異世界にいました~ 影出 溝入 @kageidemizoi

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