メンバー募集中

 中級興行に参加するための、三人のアクター。

 クランの規模に伴う信用もあるが、それ以上に各レギュレーションに応えるためには、コレが最低人数となる。


 一対一であるノーマルに加えて、二人組のチームアップ、三人によるクランズクラウン、五人による三本先取制ベスト(二敗のビハインド覚悟で三人での参加も可)……中級興行では、団体戦も求められるのだ。



 帰社・帰宅したジュラとレィルは、二階トレーニング施設で打ち合わせをすることにした。


「レィルに伝手はないのか?」

 ランニングマシンを時速二十キロに設定したジュラが、とても整った呼吸に乗せて尋ねた。


「最悪はわたしが参戦、ですよねぇ。あなたを買うときに世話になった奴隷商にもメールで確認しましたが、うーん……」

 タブレットを操作するレィルの顔は険しい。


 テキトーなところでアクターを都合することはできる。しかしそれは、クランとしての信用と引き換えとなってしまう。

 アクターとはクランの代表。マスクド・ペチャパイスキー一人の実績で中級興行に参加できるとはいえ、ほかのメンバーを数合わせで揃えることはできない。


 念のためジュラの意見も聞こうと、マシン脇に立ちメールに添付された商品リストをスクロールするレィル。


「うーん…………」

 都市リベリオの奴隷というのは、社会のセーフティネットに引っかかった者たちだ。身寄りがなかったり興行や冒険で再起不能となった者たち、自身を担保にした負債者や更生の余地はある犯罪者。バラエティに富むラインナップだが、中級興行に耐えうるアクター……魔術使いとなると、どうにも難しい。


「なぁ」

 少し離れたところでダンベルと戯れていた男が歩いてきた。

「オレ、ハブられてたりするのか?」

 ひどく不安げな顔のギソードだ。


 ジュラとの対戦以来、クランに所属していないギソードもまた、クアンタム製術機関の空きフロアに根を下ろしている。彼の婚約者には、一端のアクターになって帰ると約束している。


「そんなわけではないが」

「じゃあよ、なぁ?」

「?」

「?」

 何か言いたげなギソードだが、ジュラもレィルもピンときていない様子だ。ジュラに至ってはわからなすぎてランニングを中断する始末である。


「……わざとやってんのか?」

「って言われても……」

「……はい。ギソードさん、伝えたいことは伝えないと伝わりませんよ?」

「お嬢さんがそれを言うかね」

「は?」


「なるほど。二人とも、普段自分では伝えているつもりだったのか」

「お前にだけは言われたくねぇよ」

「少しは人間アピールを心がけてはどうですか」

「そうだそうだ」


「なんですか、マジの誘拐をショーとして盛り上げたかったって」

「人の心とかないのか?」

「めっちゃ反撃するじゃん」


 閑話休題。


「で、だな。その三人のメンバーだけど……なんでオレに声をかけてくれない? そんなに頼りないか?」

「……」

「……」

 顔を見合わせる二人。


「……いや、ギソードははじめから数に入れてるよ」

「はい。その上であと一人を、という話をしていました」

「え?」


「ギソードさん、無所属でしたもんね。移籍に関わる面倒ごともないでしょうし、それにギソードさん自身のキャリアを考えても、そろそろどこかのクランに属しておかないと厳しいのでは?」

「そりゃ、そうだけどよ……」


「今日お買い物に行く前、ギソードさんの許嫁さんとお話させていただきました。家族思いで婚約者想いの、素敵な女性ですね」

「怖……」


 レィルはこれまで、トップスターアクターであったジュラのストーキングおよび盗撮に幾度となく成功している。言葉の端に挙がった婚約者の一人や二人、探し出し見つけ出し懇意にすることなど造作もないことだろう。コレに狙われていた事実に、ジュラは恐怖した。


「なんでオレより先にアイツと話した?」

「そこだよな」

「……あれ? ギソードさんにはもう話したとばかり……。ペチャパイスキーは話してないのですか?」

「婚約者さんのことはさておき、ギソードはどうせ助けてくれるだろうから話してない」

「どうすっかな断った方がよくないかオレ」

「婚約者さんから代理でサインを頂いておりますので、断るとなると少々手間ですよ?」

「なんでオレが追い詰められてんだ? あれ? なんかおかしくないか?」

「自分でクランに入るって言ったんだ。順序が多少ズレても問題ないだろう」


「…………、いや。まだ入るって言ってないぞ、オレ」


「メンバーへの自薦は同じことでは?」

「よろしくな、ギソード」


「…………おう。ギソード・ルーツ、術式は【八握剣マハラジャ】。宜しく頼む」


 腰を直角に曲げた、深いお辞儀。

 これを以て、クランとアクターの間に、義による盟約が交わされた。これを反故にすることは、一族を辱めることと同じく恥となる。


「さて。あと一人って話ですが……」

「お嬢さんって恥知らずなのか?」

「まぁまぁ。レィルも少し焦っていることだし、大目に見てくれ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る