第15話 狂気

「ポイント交換発動 凶皇の槍」

 凶皇の槍 100,000ポイント 


 戦うならこれと決めていた。一騎当千の聖騎士一人が30000Pなのに、槍一本が100,000P。

 当然尋常の品ではない、実際に存在したのかは知らないが凄まじい英雄様の槍だそうだ。閻魔様(仮)に聞けば知ってるんじゃないかな?


 槍を握りしめ、座り込んで食事をしている難民の前に立った。

「目の前に仇である侯爵軍がいる!間抜けにも領都だけを見て休憩しているぞ!奴らを血祭りに上げろ!」

『おおおおおーー!!!』

「武器を取れ!突撃だ!」

『おおおおおーー!!!』


 能力で安物の槍を大量に放りだした。アリアの願いの範囲はここで打ち止めかな。

 難民たちが勇ましく立ち上がったのは単純に洗脳だ。軟弱な一般人すら死を恐れぬ死兵に変える恐るべき呪いの槍。身体能力も大幅に向上し、武器の扱いを含めて兵士としての能力を強制付与する。

 これの恐ろしいところは、自らの意思で雄々しく立ち上がったと錯覚させる事だ。事後も安心設計である。



「いくぞー!!」

 俺だけ馬に乗って侯爵軍に突撃した。戦術もクソもない、雄叫びを上げながらの突貫だ。

「敵襲だ!敵襲ーー!」

「遅い!くたばれ賊軍が!」

 敵軍の先端まで30メートル、先頭に立ち呆ける間抜けに向けて凶皇の槍を思い切りぶん投げる。

 ゾブリ!

 太い槍が胸を貫通して容易く命を奪う。体を突き刺したままの槍を掲げて怒号を上げた。

「賊軍惰弱なり!地を這うムシケラと同じだ!踏み潰せ!皆殺しにしろ!降伏する者も殺し尽くせ!」

『おおおおおーー!!!』

 俺の後ろから詰めてくる狂気の集団。イカれた戦闘の始まりだぜ。


 俺の一騎駆けで崩されて侯爵軍は体制を整えることが出来ず、そのまま両軍がぶつかった。防御を考えない難民共の攻撃により、一当てした時点から死体が量産される。

「な、なんなんだよこいつらは……!」

 いい具合だ。防具も身に着けず槍一本で突撃する難民共の狂気に飲まれている。

 恐ろしかろう、相手は正真正銘の狂人だぜ。命が尽きるその瞬間まで敵を殺すために動き続ける。いや、死んだからって安心できないかもな。


「殺せ!殺せ!殺せ!こいつらがお前達の家族を殺したのだ!復讐しろ!皆殺しにしろ!正義は我らにあり!」

 更に煽る!戦場で正気に戻っても何の意味もない。狂った方が余程生き残る可能性が上がるのだ。殺せ、全て殺せば俺達の勝ちだ。


「あいつが将だ!馬に乗っている男を狙え!」

 敵の将らしき男が俺を指す。その瞬間槍を投げてぶち殺してやった。人に指を刺すな、全く無礼なやつである。

 こっちはガキの頃から趣味で魔物を狩ってるんだ、勝ちを確信して緩んだ弱兵なんてただの肉の塊でしか無い。

「いくらでもかかってこい!ただし俺は地獄の使者!俺に殺されたら確実に地獄行きだ!」

 思う存分に槍を奮う。1人で200は殺しただろう。最後に逃げる指揮官を背中から貫き、振り返ると戦闘は終わっていた。






 侯爵軍は言葉通り全滅。一人残らず皆殺しにした。恐らく離れた位置から軍の動きを見る者がいるはずだから、侯爵領へはちゃんと情報が届くことだろう。

 まだまだ終わってもらっちゃ困る。


 生き残りを集合させる。20名ほどか。ついさっきまで動いていたのに、今はピクリとも動かない者もいた。恐るべき呪いの力なのか、それとも本人の憎しみによる物なのか。どちらにせよ地獄にしかいけまい。


「無傷の物は0か、みなよく生き残った。復讐は果たされた。散った者達の無念も晴れるだろう。誇るといい」

 全員がその場にへたり込んだ。効果が切れたのだろう。

 真実を知れば俺を恨むだろうか?それとも感謝するのだろうか?表面的ではあっても彼らが復讐を望んでいた事は間違いない。きっとこれでよかったんじゃね?



「ルカ様ー!」

「アリア、無事だったか」

 警備兵でも付けられたらよかったんだが、望まれないと能力を使えない。もどかしいもんだ。


「結局門は開かなかったな」

「あの方ですからねー、こちらが全滅してから出てくる準備をしていてもおかしくありません」

 色々思う所はあるが、門に寄って開門を呼びかけた。

 疲れ果てた生き残りを回収してもらいたいし、戦場の後片付けくらいはやらせる。ぐだぐだ抵抗するなら切ってしまおう。


 それからたっぷり20分ほど待ってから門が放たれた。出てきた兵士達が難民達を担架に乗せて運ぶ。残りは生き残りの捜索という名の死体漁りだ。やはり兵は狂っている方がいいな。自分の利益を優先する賢しい兵士は醜く、どうしようもないクズでしかなかった。



「ルカ様ー!」「ルカ様万歳!」「英雄様!」

 中に入った俺を民衆の熱狂が迎える。大きな感謝、数千人が生き残りの感謝を捧げてくる。何度も何度もだ。領都の人口は恐らく5000人前後、その多くの感謝が流れ込み、20万30万と増えていく。

 今までの経験則では、恐らく明日の昼くらいまで緩やかに減りながらも注ぎ込まれるはずだ。200万くらいは行くんじゃないか?


 堪えきれずに笑みが浮かんでしまう。誤魔化すために民衆に大きく手を振り、それに反応して歓声が上がる。

 やはり戦争はいい。命の危機に瀕した者からは簡単に感謝がこぼれ落ちる。日々の平和を守っていても得られない感謝だ。


 無邪気に俺に感謝を捧げる民衆。だがすぐに知るだろう、戦争の被害の大きさを。都市を支える食料庫は大きく削り取られた。そしてその最後の残り火がお前たちを守って散った。

 領主が、領民が、引きこもったツケを払うのはこれからだ。

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