決着

 どこからそんな服を手に入れたのか、とか、そのこんぼうの威力は何なの、とか。

 

 そういうことを聞いても、時間の無駄って言って、答えてくれないのは簡単に予想ができる。

 

 情報を手に入れることはいったんあきらめて、どうしたらコイツを倒せるのかに集中する。

 

 あんな重たそうな服を着て、重たそうな武器をぶんぶん振り回してるヤツに、力で勝てるとは思えない。

 

 取っ組み合いで服を脱がすとかは無理。

 

 氷で武器を作ったところで、私は武器の扱いに慣れてない。力も足りないし、あっさり負けちゃうはず。

 

 そもそも、私が氷の武器を作るなんて言語道断だ。

 

 やっぱりどうにかして、あいつの素肌に触れるしかない。

 

 どうやって? それが問題。

 

 まずはすきを作り出さないと。

 

 次の取り巻きが突っ込んで来る。

 悪いけど、もう手加減する余裕はないから、すぐさま相手にタッチして凍らせた。

 

 コンボみたいに連続攻撃をしようと、棍棒を振りかぶるボス。

 

 凍らせようとしたところで、さっきと同じく溶かされてしまう。

 

 氷で盾や壁を作ったところで壊されてしまうし、避けるしかない。

 横なぎに払う動きが予測できたから、とっさにしゃがむ。

 

 でも、私は身体能力は高い方じゃない。遅れて、棍棒が頭をかすめた。

 

 かすめた程度なのに、一瞬視界がちかっとして目がくらんだ。

 

 休ませない。そう言わんばかりに、ボスは次の取り巻きに目で合図する。

 

 あと二、三回これをやられたら、一回は間違いなくもろにくらっちゃう。

 

 その前になんとか……厳しいな。

 先に他の取り巻きの足下を奪いたいけど、この状況で無防備にしゃがんで床に手をついたら、間違いなく頭をかち割られてしまう。

 

 今までで最大のピンチだ。

 間違いなく。

 

 氷が効かない相手に出会ったことはないから、完全に想定外。

 

 いや、いつかは起こることだったのかも。

 予想してなかった私が悪いか。

 

 すると、相対するボスと私との間に、人が割り込んだ。

 

 ユメだ。

 

「待って! わかった。わかったから。あなたのものになる。それで終わりにしましょ!」

 

 私はちゃんとした事情を本人であるユメから聞いていない。

 

 今のいい口から察するなら、借金を返す代わりに、ボスの女になる、みたいな話だったのだろうか。

 

 それ以上考える余裕はない。

 

 私は次にあいつが何をするか考え、すきを見つけ出さなきゃ。

 

 ユメの宣言に対し、ボスは深くため息を吐いた。

 

「見てくれだけなら理想だったのによ。残念だ。俺に無駄な時間をかけさせやがったな」

 

 ボスは、天井に向けて高く棍棒を振りかぶる。

 ユメを殺すつもりか。

 

 ユメの背中、服をつかんで、後ろに引っ張った。

 逆に私が引っ張られるように前に出る。

 

 ボスが振り下ろす棍棒の位置には、ユメの代わりに私が入った。

 

 できるだけ分厚く氷の盾を作る。

 

 盾が割られた後のために、両腕でガードした。

 

 腕が折れるのはもう仕方ない。こんな性格の悪いボスとかいうヤツのせいで、死人が出るよりはマシだ。

 

「時間の無駄とか思わずに、俺も殺しとくべきだったな馬鹿野郎が!」

 

 急に大声。

 

 氷の盾に透けて、ボスの後ろで拳を振りかぶる人影。

 

 ずっと起きていて機会をうかがっていたのか、ついさっき起きて攻撃に走ったのか、リョウが大声を上げて、ボスに飛びかかったようだ。

 

 ボスは奇襲に驚いて後ろを向き、ターゲットを変えた。

 

 チャンスは、今しかない!

 

 自分で作った氷の盾を溶かして、なかったことに。

 

 そのまま前に飛び込む。


 手を伸ばし、ボスの首をつかんだ。

 

 氷晶石の力を精一杯に使い、体を凍らせる。

 

 ボスは指一本動かすヒマもないまま、全身を氷に包まれた。

 

 残りの動ける取り巻きは、ボスが動かなくなったのを見た瞬間に、恐れをなしたか重圧からの解放か、飛び出すように逃げていった。


 氷の部屋の中には、凍った敵と、たった数人の息づかいだけが残る。

 

 戦闘で熱く火照った体に、ひんやりと冷気が伝わる。

 

 私は緊張が解けて、そのまま床に座り込んだ。

 

 間一髪だったけど、どうにか無事に終わったのだった。

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