第9話 とって付けたような魔女同士の戦争

「バレちまったようだね。こうなったら仕方ないっ」


 トレンドア伯爵の母は、魔法の杖を振りかざした。


「やるのかい」


 キャメロンの母はニヤリと笑うと魔法の杖を構えた。


「おっと」


 キャメロンはすかさず防御シールドを展開した。


 メリーとその両親、コンサバティ侯爵家の使用人たちを守るようにして展開された防御シールドの外には、キャメロンの母とトレンドア伯爵の母が魔法の杖を片手に向き合っていた。


 トレンドア伯爵と、アレクとコレットの三人も防御シールドの外にいる。


「屋敷を壊されると困るから、しっかり守ってね」

「承知しました、お嬢さま」


 メリーの言葉に、キャメロンはコクリとうなずいた。


 キャメロンが魔法を使えることなど、メリーは知らなかった。


 忘れているだけかもしれないが、魔法を操るキャメロンはカッコいい。


 メリーは自分の前に立ち、防御シールドを展開するキャメロンをうっとりと見つめた。


 防御シールドの中は穏やかだ。


 防御されていない場所は、二人の母による魔法対決で大騒ぎになっている。


 雷撃が飛び交い、火が巻き上がる。


 水が壁のように襲い掛かったり、それが氷で固まったり。


 目がくらむような光が放たれたり、真っ暗な闇に包まれたり。


 体が飛ばされるほどの突風が吹いたりしているが、防御シールドの中に影響はない。


 もちろん、防御シールドの中にいない者たちは攻撃をもろに受ける。


「人間って、なかなか死なないものなのね」

「そうですね、お嬢さま」


 トレンドア伯爵やコレットとその婚約者は逃げ場もなく、魔女同士で繰り広げられる攻撃にさらされていた。


「「「ぎゃー」」」


 メリーは弟がボロボロになっていく様を安全な場所から見ていたが、もはやアレクを弟とすら呼びたくない自分を感じていた。


「ねぇ、キャメロン。この騒ぎ、いつまで続くのかしら?」

「魔力としては互角のようですね。私の母は強いので、トレンドア伯爵のお母さまも、かなりの手練れとお見受けします」

「そろそろ私、疲れてしまいましたわ」


 二人の母は楽しそうに技を繰り出し合っているが、見ているだけの側はビビるだけである。


 緊張感も過ぎれば、だんだんどうでもよくなってくるものだ。


 恐怖心は疲れる。


「ん、確かに疲れたわね」


 メリーの言葉にうなずきながら、コンサバティ侯爵夫人は欠伸をした。


「あぁ、そうだね。長旅の後に休憩なしで魔女同士の戦争に巻き込まれるのは疲れる」


 コンサバティ侯爵も同意した。


「では、そろそろ終わりにしてもらいましょうか」


 にっこり笑ったキャメロンが、防御シールドの隙間からトレンドア伯爵の母に向かって電撃を放つ。


 攻撃が見事に命中すると、トレンドア伯爵の母は倒れた。


 黒こげとなってプスプスと音を立てている魔女を見下ろして、キャメロンの母は「まだいけた!」とか「私一人で勝てた!」とか不満げな声を上げていた。


 が、一同は疲れていたので、キャメロンの母へ適当に相槌を打ちながら応接間に案内することにした。


***


 トレンドア伯爵との離婚は無事に整い、旦那は元旦那となった。


 同時に、トレンドア伯爵とその母親の犯した罪も白日の下にさらされることとなる。


 魔女とその息子は、前トレンドア伯爵殺しの罪に問われたのだ。


 当然、爵位もはく奪されたし、罰も課された。


「前トレンドア伯爵殺しに課された罰と、我が子に課された罰が同じというのは複雑な気分ね?」


 コンサバティ侯爵夫人はそう語った。


 魔女とその息子は、共に鉱石の採掘場送りとなったのだ。


「職場は同じでも、さすがに仕事内容は違うからね? アレクは領地経営のほうで、鉱石を掘り進めるわけじゃない」

「それもそうね」


 アレクとコレットはコンサバティ侯爵家の領地経営をするという名目で採掘場のある領地へ送られた。


 魔女とその息子は、ピンポイントで採掘場送りとなった。


 仕事は鉱石の採掘だ。


「魔女は使い勝手が良いから、採掘場では重宝されることだろう」

「そうね。それに採掘場からの収益は、コンサバティ侯爵家に入るから。それで納得することにするわ」


 コンサバティ侯爵は、複雑な表情を浮かべながらも納得した様子の夫人を見て笑った。


「素晴らしい采配です、お父さま、お母さま」


 メリーは両親を褒めたたえた。


「はっはっはっ。褒めても何もでないぞ」

「貴女はコンサバティ侯爵家を継ぐのだから、しっかり働いてね」


「はい、承知いたしました」


 弟のことは記憶から抹殺しようかと思ったメリーだったが、立場的にちょっと難しい。

 

 それはそれで仕方ないのだ、家族だから。

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