第2話 焦る
「母さん、大丈夫だと言っていたじゃないか」
「だって、お前。いきなりだったんだよ」
トレンドア伯爵は焦っていた。
妻が出て行ってしまったからだ。
メリーの実家は太い。
だからこそ、ピンク色の髪をした可愛い男爵令嬢を愛人として囲えていたのだ。
出て行かれてしまっては、全ての計画が狂ってしまう。
「一度は手にした女だよ。また手に入れたらいいじゃない」
「でも母さん、どうすれば……」
「一度は呪いにかかったんだ。またかければいいだけさ」
トレンドア伯爵の母は魔女だった。
魔女の力によって前トレンドア伯爵に取り入り、その夫人の座に就いたのだ。
息子が爵位を継げる年齢になると、夫人は夫を片付けた。
前トレンドア伯爵は今、墓石の下で眠っている。
爵位を息子に継がせた時点で気付いたことは、トレンドア伯爵家の本当の財政状態だ。
夫の許可など必要なくなったというのに、魔女は使えるお金の少なさを嘆いた。
そして気付く。
金持ちの女と息子を結婚させ、自由になるお金を増やせばよいのだと。
当初、息子であるトレンドア伯爵は乗り気ではなかった。
貴族の通う学園で学んでいた彼は、数々の貴族夫妻の話も耳にしていた。
幸せな結婚生活を送るには、それなりの配慮が要る。
対価は結婚においても必要なのだ。
その対価を、彼は払いたくなかった。
自分好みの女性を侍らせて、自由にやるほうが性に合っているからだ。
そこで母である魔女は考えた。
自分の使える術を息子に教え、最適な女を手に入れる助けをすればよいのだと。
結果、手に入れたのがメリー・コンサバティ侯爵令嬢だった。
メリーとの結婚を成し遂げたトレンドア伯爵は、自分が本当にやりたかったことをした。
彼は領地経営にも商売にも興味はない。
たいして欲のない彼が本当に欲しかったものを手に入れた。
ピンク色の髪をした可愛らしい男爵令嬢を愛人として囲ったのだ。
しかし、メリーは出て行ってしまった。
このままでは離婚だ。
離婚となれば契約により多額の慰謝料を払う必要がある。
そうなれば、トレンドア伯爵家は破産。
愛人も自分から離れていくことは、トレンドア伯爵にも分かっていた。
焦る息子の前に、魔女はピンク色の液体が入った小瓶を渡した。
「これをあの女の口に入れるんだ。手段は問わない。どうとでもしな」
義母はすっかり淑女の仮面を脱ぎ捨てて、愛しい息子に指示をした。
トレンドア伯爵は小瓶を受け取ると、冷や汗をかきながらゴクンと唾を呑み込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます