灰色の学園無双~『死神』と呼ばれた少年は暗躍なんてしない~
久繰 廻
プロローグ 『死神』の仕事納め
突然だが、この世界には【異能】なんてファンタジーなものがある。まあ、実際にはそんな幻想的なものじゃなくて血なまぐさく残酷なまでに現実的なものなのだが、、、、、、。そして、それには《根源》が関与しいている。
―《根源》、それは
察しのいい人ならもうわかるだろ?強い《根源》を持つ家系は名家と呼ばれ特別な扱いを受ける。そうこの世界は実力至上主義。かくいう俺もそんな名家の出身だったのだが、灰色の髪に瞳。家系の《根源》を引き継がなかった。幸い、双子の弟がちゃんと橙色で、しっかりと《栄光》を継承していたおかげでお家騒動には至らなかった。ただ、
「『灰被り』我が家の汚点。次男の保険としてお前を生かしておいてやったが、今となってはもう用済みだ。出ていけ。」
なんて、家を追い出された。家名を名乗ることも許されず、野垂れ死ねと。その後で、空腹で路地で倒れてるところを銀髪のお姉さん_師匠に拾われ今に至る、、、、、、と。
今日も今日とて、夜風が冷たい。フードがバサバサと音を立て、前髪がぐしゃぐしゃになるほどの風速。芯まで冷える。それにしても、眼下に広がる町明かりにのまれそうになる感覚は五年経っても慣れない。
「
「
一か月前から始めた、気を紛らわせるためのやり取り。とはいえそろそろネタが切れてきたな。イエス・マムも不評だったし。レディも。姉貴も姉御も。名前教えてくれたらレパートリーが広がるってのに。
「ふざけてないで行きな~さいっ!」
そう言って師匠に背中を叩かれ時計台から落下する。満月に映える人影。それが消えるのを確認し、
「はあ、最初の一年ぐらいは
寂しく思いながらも、気持ちを切り替え、地面を見る。レンガの一つ一つを確認。着実に近づいてきてる。外套もバタバタとかなりの速度が出ており、そろそろ減速しないとトマトみたいになっちゃうな。
そうならないためにも【異能】を行使する。右手から灰色の火種を出し、それがオレを覆う。暗闇に紛れる灰色。次第に、運動エネルギーを失ったオレの体は減速し、そっと民家の屋根に着地する。
「さてと、今日も今日とてお仕事頑張りますか。」
屋根から屋根へ飛び移りながら目当ての屋敷へと向かう。場所は時計台からの落下中に確認した。このあたりは
「とうちゃ~く。」
門番を四人も雇う豪華な屋敷。全員が全員【異能】を行使できるわけではないだろうけど、流石に面倒だな。
「さすが、悪徳異能者。儲かってんな。」
「来たぞ、『死神』だ。」
「集合。」
「爺さんも呼べ。」
「俺が先陣をきる。援護を頼む。」
「はぁ、やれやれ。今日もお仕事頑張りますかぁ。」
オレがやってるのは師匠の手伝い兼修行。そう、巷を騒がせてる『死神』とはオレのこと。警備を引きつけ師匠が暗殺しやすくなるようにヘイトを集めるのがオレの仕事。そう、『死神』と呼ばれてるだけで俺は誰一人殺していない。
「来いよ。相手してやる。」
気張ったはいいものの雇われの異能者の実力なんてたかが知れてる。とはいえ、【異能】をある程度推測しておかないと万が一があるかもしれないからな。
赤髪は大抵火炎か身体強化、薄い水色は氷結か起動操作。しかし、火炎や氷結の異能者は名家が囲い込みをするからその線は無し。消去法で、
「今日は身体強化系の
初撃、突進してきた赤髪。間合いに入ったからか腰を落とし居合の構えととる。そして後方からは弾丸が飛来。顔を傾けたが、オレの頬を掠る。今俺がするべき行動は、距離を詰め、右手で抜刀を止め接近の勢いそのままにガラ空きの腹に蹴りを一発。同時に回避した弾丸が戻ってきたので鞘を奪って手首に打ち返し、怯んだ隙に距離を詰めどてっぱらに掌底。スーツのポケットに膨らみもなかったので、ビビッて何もできない二人は、飛び掛かって、まとめてヘッドロック。絞め落としそっと門に立てかけておく。うん、最初の男も気絶してる。
「やれやれ、修行にならないじゃないか。」
やっぱり、建物の中にいる護衛クラスじゃないとウォーミングアップにもならない。コイツ等程度じゃオレの【異能】を使うまでもない。
ということで、脚に力をこめ屋敷の方へと跳躍する。近づいてくる格子。そのまま二階の窓ガラスを蹴破って、多少減速して侵入。当然発見される。そのつもりでやったことだから構わんが。
「おぬし、『死神』か?」
さっきまで気配を感じなかったのに対峙した瞬間にこの殺気。
「おっと、門の前にいた奴らとは違う。久々に骨のあるやつだ。」
「はは、よく言うよ。おぬしの方が強いだろ。」
イケオジが相手か。歴戦の猛者って感じ。顔の左半分は月明りに照らされ、その左側もしわの影がくっきりと、その歴を示しているかのように。
「なら、どうする?」
「命続く限り引き留める。」
鍔に手を掛けこちらを見上げる。その殺気で時間稼ぎってのは無理がある。言葉とは裏腹に短期決戦にするつもりだろう。ならば、
「小細工は無しだ。」
全力で潰しに行くというオレの発言の意図を汲み取ったのか、老人はふっと笑う。
「気持ちのいい少年だ。ああ、好敵手よ。
構えに隙が無い。ただ、【異能】の類を感じない。それでも、さっき戦った
「いざ!!」
その掛け声にあわせオレ達は交錯する。前進を止めないオレと老人。二度の金属音。
「・・・見事なり。」
それだけを言い残し倒れる老人。トサっ。あまりの気迫に勘違いしていたが老人の体格は老人のそれだった。それはそうと、
「つい使っちまったじゃないか、小細工を。」
腰を上げ右手に残った灰色を払って廊下を進む。起き上がってきそうな凄みを感じ、振り返ったが老人は壁に寄りかかり月に照らされていた。満足したのかその口角は三日月の様で。ほんと、食えない爺さんだ
「あんたに会えたのが今日イチの収穫だよ。」
誰も聞いてくれる相手はいないのにそう呟いてオレは廊下の突き当りにある扉目指して歩を進めた。
「お、今日は早かったね。もう少し遅くても良かったのに。」
扉を開けるとそこには喉をペーパーナイフで一突きされたハゲデブと書類が散乱したデスクに腰かけ、夜風に吹かれながら一服する師匠がいた。
「もう、またですか。仕事中でしょ。」
「
いやいや、その煙草もう長い間吸ってましたよね。そう言いたいのはやまやまだが、実際今までそれで問題なかったから何も言えない。
「それで、証拠は?」
「ほら。」
そう言って尻を上げ、その下から書類を取り上げ、ヒラヒラと見せ付けてくる師匠。
「明日匿名で新聞社に出してくるわ。」
これがオレ達の日常。きっと明日も明後日も。悪人どもにとっての『死神』。
「それで、次の
「ああ、そのことなんだけど。これで最後だったんだよね。まあかれこれ5年間。週に1人のペースでやってってるんだからさ。当然と言えば当然よね、ははは。」
後頭部をポリポリしながら話す師匠。はあ、、、フウと深呼吸をして、両手を顔の前で合わせ、
「明日から学院に行ってもらうわ。」
そう言う師匠は手の右側から、ひょっこりと顔を覗かせ、テヘペロって顔をする。
「それってあの、、、」
学院を冠する教育機関は一つしかない。
「うん、あの王立異能学院へ。」
そしてついに言い放った。悪びれもなく。
「はああああ!?」
ほんっともう、ほんともうだよ。それしか言えねえ。拾ってくれたことに感謝はしているがこの人こういうところがオレはキライだ。それに、この人は一度決めたことは覆さない。諦めよう。
これが
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます