第6話 ちゃんと記憶しておいてね

「めちゃくちゃびっくりしてたね……」


「そうだね。確かに、一般の人にとってはこの趣味って理解しづらいかもな……」


 一樹に初めて寝取られの相談をされた時の衝撃を亮介は忘れているのかもしれない。そもそもこれは、一般の普通の神経を持っている人間には理解はできない趣味なのだ。着信音が鳴ると、亮介はビーチフラッグのように携帯を手に取り、メールチェックした。


(お待たせしました。

 頑張ってみます。

 できるかどうか

 わかりませんが……(汗))


「OKだって、してくれるって!」


「ほんと? すごい!」


 急いで返信する亮介。メールを打つ手が震えるのは、知らない人との初めての寝取られだからだろう。


(ありがとうございます!

 ほんとにいいんですか?

 無理してませんか?)


 すぐに返信が来る。

 

(無理してないです。

 それより、嬉しい気持ちの

 方が強いです)


 すぐに綾乃に見せる。


「こんなこと書いてくれるなんて嬉しいな。……なんか、今度はあたしが緊張してきた……」


 まどろっこしいので亮介は電話した。どっちの部屋に行くか迷った結果、7階のT君の部屋でということに決まった。もちろん自分も立ち会わせてもらう。集合時刻は22:30。それまでに心の準備だ。


 亮介は急に無言になったかと思うと、綾乃をベッドに押し倒した。


「ごめん、まだ前なのにもう嫉妬してる。もう胸がズキズキしてる」


「もう……」


「あたしを、ちゃんと見といてね……」


「うん! 目に焼き付けるよ、絶対に」


 血走った眼で綾乃を上から見つめる亮介だったが、必死の思いで立ち上がり、真顔に戻った。


「T君を俺と比べて欲しい。だからちゃんと記憶しておいてね」


「そうだね。ちゃんと覚えておく。感想、聞かせてあげるね」


 そう言うと綾乃はシャワーを浴びにバスルームに向かった。



 ◆



 エレベーターを降りて真っ正面の710号室。ノックをするとすぐにT君がドアを開けてくれた。


「さっきはどうも。無理を聞いてくれて本当にありがとうございました」


「いえいえ。でもちょっと緊張してます」

 

「だよね……そりゃ緊張するよね」


 明るく朗らかに綾乃が気遣いをしてくれる。身内ながら本当にいい女だと思う亮介だった。

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