sideナイト

「ほらほら、さっさと歩いてよ。」

「押すな。」


さっきまで解剖なんてやる気がなかったくせに一体どんな風の吹き回しだ?

俺が飛ばされたあの一瞬で二人は何を話したんだ?


「ねぇ、ナイト。見てよこれ。」


ルークは俺を押すのをやめて壁を見るように言った。

そこにはかなり大量の血痕がある。


「シーラがあの化け物と鉢合わせたのはここか。」


こんな狭くて逃げ場のない所で助かったのは奇跡とも言えるな。


「シーラが賢い子でよかったね。

頭の弱い子ならこんな不利な状況で生き残れなかったよ。」


「あぁ、全くだ。」


本当に心の底から思う、生きていてくれてよかった。


俺は二度とシーラを失わない。

一度シーラを逃してしまった時にそう誓った。

何年経ってもこの誓いを忘れる事はない。

いや、誓いと言えば崇高なものに聞こえてしまうな。

誓いと言うよりは己にかけた呪いのようなものだった。

俺はシーラがいなければまともに生きられない。前もそうだった。

正気を失うのは本当に簡単だった。


だからこそもう二度と失わない。

そのためなら何でもするし誰でも殺す。

シーラとルークが俺に何か隠している事は明白。


何も気づいていないフリをして俺は俺で動かせてもらうぞ。


俺たちが地下牢に降りて一番初めに感じた違和感は匂いだ。


血生臭くてどうにも好きになれない。


「ナイト、すごい血の匂いするけど趣味で人間とか捌いたりしてる?」


俺が人間を捌く?コイツ、何言ってるんだ?


「俺はそんな事しない、処刑台に送る。」

「否定するとこそこなんだね。」


地下牢を進んでいくうちにこの血の匂いの原因が分かった。


「おいおい、マジかよ。」

「これはこれは。」


俺とルークが見つけたのは、元メイド長のミザリーの死体だった。

ミザリーの死体の近くには血まみれのナイフが落ちていた。


「見たところ、頸動脈をスパッとやってる。」

「あぁ、しかも他殺な。」


「ねぇ、この城大丈夫?侵入者入りまくりじゃない?」


シーラの件と言い、このお粗末な自殺工作と言い、本当に最悪だ。


「何とかしないとな、それも早急に。」

「結界が甘いんじゃない?」


ルークに指摘された事は最もだ。

うちの結界が甘いのには理由がある。

強力な結界を張ったらシーラがひっくり返っちまうからだ。


シーラのためを思ってやっていたがまさかこんな事になるとは夢にも思わなかった。


「まぁいい、とりあえず解剖だけさっさと終わらせるぞ。」


ミザリーはどのみち殺す予定だった。

誰がやったにせよ、手間が省けた。


「死体の横で解剖か。誰かに見られたら僕らはとんでもない趣味の持ち主だと疑われるね。」


「バレねぇよ。お前がその軽い口を閉ざしていたらな。」


バレたところで人の目なんて気にならない。

俺にはシーラがいればそれでいい。


「はいはい、誰にも言わないよ。」


ルークが言わないと違うのならそれでいい。

俺はさっき転送した檻を俺たちの近くへ寄せた。


すると…


「ギヤアァァァァア!!!!!」


元気な化け物が俺たちの耳をつんざく勢いで騒ぎ散らかした。

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