第38話 お話し合いは決裂

 ある日、隣の国、サンドウ皇国から、使者がやって来た。

「我が国は、怒りに震えている。協定を守らず、我が国の国民を不当に連れ去る行為。断じて許さん。貴国には再発の防止と、賠償をしていただこう」

 使者である、ツータエル=イトーヲ伯爵は偉そうに言ってくる。

 国同士の使者に伯爵級。

 そう、我が国は舐められている。


 それか、まだ病気が怖く、この人が捨て駒にされたのか。


 サンドウ皇国は、今年いい加減麦の収穫量が少なく、国自体が疲弊をしていた。

 だが税は、法による決まりだという名の下にきっちり徴収されて、農民達は物や子供を売り、現物の代わりに対価を払った。


 これは異国のことだが、日本でもこれと同じことが行われる。食料供給困難事態対策法という、ふざけた法が二〇二四年に可決された。

 国の指示に従い増産せよと。

 長年米を作るな、田んぼを減らせと言ってきた口がだ。

 従わなければ、二〇万以下の罰金。


 いきなり増産と言われても、枯れた田んぼを復活させるには、何年もかかる。

 そう何年もかかるのだよ。作物を作るには適した土にしないと、まともに育たない。小学校で習うことだ。


 そんな事など、米を作ったことのない国の関係者は、忘れてしまったのだろう。

 きっと知っているのは、猿でも出来る米作りとか、ゲームならば、クエスト米を増産しよう、ここを田んぼにしますか? イエス、ノーで増産できる。


 現実では、無理だ。

 木が生えているなら、根っこまで引き抜き、適度な深さに耕耘し、肥料をすき込み、不足している栄養分を補充。手間ばかりが増えて、その田で病気でも出れば、増収どころか減収となる。


 よく発生をするいもち病とかは、カビの一種で土中にいる。

 昔は、作付け前に焼けば、ある程度防げたが、今は焼けない。


 焼けない代わりに、当然農協から買った、いや買わされる、高価な薬を散布する。耕すには、税金を上乗せた高価なガソリンが必要。米なら、土壌の鉄分も必要だしpHの調整も。

 当然必要な物はすべて農家が買って追加。微生物の育成、有機肥料を買って追加。


 国の命令に従っても、膨大な費用と手間、従わないと罰金。

 まあ、どちらにしろ、バカみたいにただ金がなくなる話し、当然農家はいなくなる。



 それはさておき、サンドウ皇国の状態もひどいもので、農民達は自身が食うものも確保できず、なんとかしなければとあえいでいた。


 そこに、商人がやって来る。

 その人の良い商人は、困っているだろうと、安く食料を持って来てくれた。

 

 その商人こそ、ニワカー=シノーギ伯爵が、寄親である辺境伯、ワラオー=ツーカム侯爵に相談をして始めたエージェント。


 今回の騒動があり、急遽陞爵しょうしゃくを受けて、任命された者達。

 広大な土地はあっても、人が居ない。


 国としては、細々でも良いから、また開墾を行い。治めてほしいと考えていた。

 だが任命されて張り切り、すぐに結果を出そうと考えた。


 彼らは考えた。

 隣では、飢饉で人が苦しんでいる。

 口減らしが絶対に出る。

 救ってあげれば、うちも人が増える。


 だが、正式な手続きでは認められないだろう。

 商人を送り、帰りはその従業員ということで、少しずつ連れてこよう。

 偽物身分証明札を持たせて、商人達を放つ。


 だが、徐々に欲張り、多くの人間を樽などに隠して入国させようとしてバレた。

 その時は、強引に検問を突破し我が国へ。


 その後いくつかの商人が泳がされて、尻尾を掴まれた。

「間違いないな。国も厳しき折、丁度良い。吹っかけようぞ」

「ほーっほっほ、あの国は争乱があった後、人もおらず無理にはねのける力はありますまい。皇王様もお人が悪い」

 皇王=天皇と同じ感じの国である。

 皇王アレクシス=マルット=ハーテロと、宰相ツカサドールゼ=スベテーオの悪巧みは続く。


 この国は元々インセプトラ―王国の元辺境。

 公爵が管理をしていた。

 そこが独立をして、長らく公国だったのだが、それが力を付けて皇国となった。

 その時には、ダイモーン王国も手助けをしたのだが、世代が変わり忘れてしまったようだ。



「使者殿はこうおっしゃておるが、王様いかがなさいます?」

 楓真が、笑いをこらえながら聞いてくる。


 奥側の通路では、半分だけ顔を出して、澪とデレシアがこちらを覗きぼそっと一言。

「旦那様、すてき」

「龍ちゃんかっこいい」

 そう言ってとろけた顔。


 そんな中、練習をした台詞を披露する。

「そう言うのなら証拠があろう、証拠を出せ、出来ねば言いがかり、逆に賠償を頂こう」

 その言葉に、使者は驚く。

 『どうせ、壊れ掛かったダイモーン王国、反論は出来ずに払うだろう、帰りは盗賊に気を付けて帰ってこい。』こんなことを言われていた。

 よもや、手ぶらで帰ることになろうとは……


「なっ、その言葉、まことですか?」

 思わず、睨んでしまう。

 だが、そんな木っ端貴族のメンチにはビビらない。


 メンチとは、不良用語である。

 相手を睨み、ビビらせること。

 用法としては、『あーん? てめえ今ぁ、メンチ切りやがったなぁ、なんか文句でもあんのかくぅぉらぁ』このように使います。

 此処での注意点は、かぅぉぁの『く』と『ら』にアクセントを置きましょう。

 言葉にあわせて、顔を上下に振ると良いでしょう。


 その時、顔が大体キスできるレベルまで近くに来るので、相手の鼻をめがけて、ヘッドバッドを喰らわせます。

 その時、素直に顔が下がれば膝蹴り、手で顔を押さえた場合は、腹に一発入れてから、膝を入れます。相手の行動をよく観察をして、最適な対応が必要です。

 特に相手が多数の場合は、攻撃を受けた相手を盾に使い、なるべく相手を分断します。


 その後は後頭部への打撃と続きますが、危険な箇所なので力加減はしましょう。

 傷害と殺人では、学校に掛かる迷惑が天と地ほども違います。

 状態によっては、学校の判断で埋め、すべてをなかった事にしますので注意してください。


 出典:私立徳井天世高校、一年生教材、ハイポサイクロイドの式を使った、正しい喧嘩の吹っかけ方、またその対応方法。第一章、一三項。

 第二章、肩のぶつけ方から、リサージュ曲線を使った美しくスムーズな、かまし方へ続く。

 

「ああ、ダイモーン王国の国王として、つまらぬ嘘は言わん」

 そう言って、見下ろしながらにやりと笑う。


「その言葉、覚えていろ」

 使者は勝手に出て行ってしまった。


「国境に兵の配置。見えないようにな」

「はっ」

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