第28話 依頼

「ああどこかに、教会に属していない、聖魔法使いはいないものか……」


 ダイモーン王国インセプトラ―王国方面調査隊五チームの一つ。

 第三班隊長、ヘイト=ハンター準男爵。

 ボーニ=アタール騎士爵、チョーサー=ドコーモ騎士爵、ハイド=フシーメ騎士爵達は疲れた顔で、冒険者ギルドの酒場にいた。


 人捜しなら、冒険者ギルド。

 そんな感じで。


 だが、まだインセプトラ―王国に、入ったばかりだというのに彼らは本当に疲れ切っていた。

 ダイモーン王国とインセプトラ―王国の間にサンドウ皇国がある。

 だが長いこと、ゾンビが来るためサンドウ皇国側でも被害が出たらしく、検問というよりは要塞化していた。


 そのためか、王国の貴族だと分かると、グチグチと嫌みを言われた。

 おまけに、全員熱が出ていないか、一週間ほど足止めを喰らった。


 そしてだ、皇国内に入れば、我が国の貨幣を見た瞬間いきなり店が閉店。

 そう、すっかり我が国は病気の国扱い。

 命じられた大事な業務で張り切り、通る傍らに聖魔法の使い手を、他の担当者が来る前に探してやろうとか、我らは思っていたが、とんでもない話。

 自分たちの食料や、寝床を探すだけで精一杯だった。


 インセプトラ―王国に、入ったおかげで、こうして店にも入れるようになった。

「はぁ…… 本当に辛かった、あのゴミを見るような目。人の憎悪とかを、まともに向けられるのが、あんなに辛いものとは知らなかったよ」

「ああ本当に…… あのさげすむ様な目、僕はぞくぞくしたよ……」


 ぐだぐだ言っていると、急に酒場がザワつく。


 入ってきたのは、見目の良い娘達。

 だが独特の雰囲気を持ち、声をかけるのに尻込みをする。


「うん? あんたら見ない顔だね」

 そう思っていたら、向こうから声がかかる。

 薄汚れていて、一般市民的な格好をしているのだが……


「余所の国っぽいが、貴族がこんな所で何をしているんだ?」

「なぜ、我々が貴族だと?」

 ぬう。冒険者だろうが侮れない。

 一目で我々のことを見抜くとは。


「普通の奴らは、そんなぴらぴらした襟が付いた服は着ないし、その持っている帽子。それはシルクだろう」

 おっと、どうやら、服装についての調査不足のようだ。


「あんたらくせえぞ」

 横にいた女に、ぶしつけな言葉を浴びせられる。

「長旅……」

 そう言おうとしたら、光が体を包む。

「これは、聖なる光……」

 その光は暖かく、優しく体を包み浄化をしていく。


「君達、聖魔法を使えるのか? 教会の人間なのか?」

「いいや、冒険者だ。性魔法は、ダーリンと会うときに必要だろ。覚えたのさ」

「覚えた? 聖魔法を?」

「ああ意外と、必要だと思うと簡単に覚えたよ

 アカシアは、エッチの前と後に使うため、性魔法だと理解している。


 こんなに早く巡り会うとは、なんと言う幸運。

「君達……」

 声をかけようとしたが、すでに興味は無くなったようだ、彼女達はカウンターへ、討伐証明を出しに行く。


「まあ居るのは判ったし、少しゆっくりしようではありませんか、準男爵様」

「そうだな」

 歳上である、ボーニ=アタール騎士爵がそういうので、この場で誘うのを控えた。


 だが気がつけば、この町では誰も彼もが、ぴかぴかぁーと聖魔法を使っていた。

「気のせいかと思ったが、このギルドの空気感が清浄なのはこのせいなのか?」

「卿もそう思われますか……」

 そう非常識な空間。


 非常識な町。

 だがそれは、必要に迫られて覚えたとのこと。

 月に、最低一度はデーモンとやらが襲ってくる。

 そいつを倒すのは矢や、剣では通じず困っていた。


 そこにやって来た、いちくみという集団。

 どうやら秘密のようだが、『シュウガクリョコウ』と呼ばれる修行の最中のようだ。

 そして驚くことに、どうやら彼らは、神の使徒とか、神の見習いとか言われている。

 教えてくれた男は、『絶対内緒だぞ』を枕言葉に、町中に触れ回っていた。

「ああ、ああ言えば、飲み代くらいを恵んでもらえるようだな」

「そういうしきたりだったのか、悪い事をした」

 そして彼らに会いたければ、冒険者ギルドか、衛兵の詰め所へ行けば会えるらしい。


 そして、我らは緊張しながらも、強力な連中の住まう巣窟、衛兵兵舎、別宮へと突入をする。

 そこには、どう見ても代官のお屋敷のような建物が建ち、そこに多数の男女が楽しそうに暮らしていた。


 そして昨日見た、あの女性達もそこにいた。

 訓練途中だったようだが、我々には見えなかった。


 なんと言うのだろうか、自然に早い。

 気負った感じもなく、そう何か幻覚を見ているかのような。

 だが、受けたときに起こる衝撃波が、我々にも感じる。


「かれら、噂以上ではないか?」

「そうだな」

 我々は、武勲を立てて、騎士爵や準男爵位を頂いた者達である。

 そのため、自身の腕にそこそこの自信があった。


 だがその光景は、異次元であった。


 彼らは、聖魔法を普通に使う。

 そして今流行っているのが、剣に魔法を纏わせるという技だそうだ。

 スパスパと、鉄製の剣で石を切り刻み、飛んでくる矢を剣先で受ける。


「危ないから遊ぶな」

 そんな言葉が聞こえる。

 そして我々の所に向かってくる男達、途中で振るわれた剣先を、ピタッと指で止める。


「何か俺達に用事があるのか?」

「ええ、実は依頼を……」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る